二十七話
「……さすがですね」
化け物の頭をカウンターに叩き付けていたのは零士だった。
手が少し大きくなり、爪も長く伸びている。そんな零士を一言で表現するのなら『猿』だろう。
これが零士の異能、『獣面』だ。動物を模した面を顔に着け、その面を起こすために自身の血をその面に付着させることで、その面の獣の性能をコピーすることができる異能だ。
「……やっちったよ。これで自然、縛りプレイになるな」
「しょうがないでしょう。零士が負傷するよりは幾分マシです」
『獣面』には欠点がある。
それは、一度つけた面は耐久時間が過ぎるまで剥がすことはできないし、その耐久時間を零士自身にはわからないと言うことだった。平均すると、大体二十分程度だがその前後になるといつ剥がれるかわからないので戦闘に気が入らなくなってしまう。
それに剥がれると言うのは壊れると言うことだ。
今日、零士が持ってきているのは五枚だけ。単純計算で零士が戦闘に参加できるのは百分だけと言うことだ。
その時間はこうしている今も刻々と減っていっている。
「ま、しょうがねぇか。時間もねぇしちゃっちゃと行こうぜ」
「……異論はないですけれどね。エレベーターと階段があるようですけれど?」
「俺は階段から行くわ。エレベーターから出た瞬間を狙われちまったら俺には対処のしようがないしな」
「それでは零士は地下四階を目指してください。そこに凪の弟がいるはずですから」
「……何で知ってんだ?」
確信を持っている嵐の言葉に疑念を挟む零士。
それはそうだろう。『ピースメイカー』では嵐よりも情報を持っているはずの零士が知らない情報を、それも今日初めて知ったような場所のどこに誰がいるかを知っているなんて言うのは正気ではないだろう。
時間が惜しいが、零士は嵐に説明を促す視線を向ける。
「…………」
「言えないのか?」
「信じてくれとしか」
零士は黙考する。嵐の言葉は信憑性が薄い。それどころか情報の出所もわかったもんじゃない。
そんな不確定な情報を信じるべきなのか?
……………………。
「あー! クソ、わかったよ! 俺が階段で四階に行く。それで凪の弟を助けてからは何処で合流すればいいんだ!?」
「……ありがとな」
嵐の無表情が少し剥がれて素の嵐の顔が見える。
零士はその率直な感謝の言葉に照れるでもなく、面の下で鼻を鳴らした。
「いんだよ。これで情報が嘘で死んだら祟ってやるだけだからな」
そんな零士の言葉には嵐に対する信頼がこれでもかと詰まっていた。
それが照れ臭かったのか、一度苦笑してから元の能面のような無表情に戻った。
「私は地下六階に未来を助けに行きます。敵を引き寄せるために戦闘音は大きくするので、その音にそって向かってきていただければ」
「了解。……それじゃ、またな」
「はい。また」
手を上げあう別れの挨拶をした後、零士は階段のほうに四足歩行で走って行ってしまった。
その後ろ姿を見送った後、嵐も行動を開始した。
エントランスの奥にあるエレベーターに向かう。幸いなことにちょうど一階でエレベーターが止まっていたので、それに乗り込む。
エレベーターの中は普通のものと特に変わってはいない。
だが、このエレベーターには地下二階までしかキーがなかった。事前情報によると地下一階と二階は駐車場になっているらしい。
目的地である『デイブレイカーズ』は地下三回より下が拠点として使用しているらしいので、エレベーターではいけないようになっているらしい。
表向きには。
嵐はポケットから黒いカードを取り出す。そのカードは全く何の装飾もされていない真っ黒なカードだ。
そのカードをおもむろにエレベーターの階層が表示される液晶に当てる。
すると、ボタンも押していないと言うのに勝手にエレベーターが動き出した。
「……眉唾でしたが、動くものですね」
このカードも情報協力者から受け取った複製品だった。動くかどうかは半々と言われていたがうまく動いてくれてよかった。
そんなことを考えている間にも、液晶に表示される数字はどんどん下がっていく。
そして、地下三階で止まった。
もちろん、この複製品を使う上でのリスクの話も協力者から受け取っていた。
曰く、この複製品を使えば100%使ったことが相手にもわかると。
扉が開くと同時に、数えることもできないほどの量の銃弾が弾幕となり、嵐に向かってきた。




