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You saved I  I saved you  作者: 頭 垂
第三幕
26/33

二十六話

「そんで? どうすんだよ。作戦はあるのか?」

「無論、ノープランだ」

「……これじゃ自殺と変わらねぇじゃねぇか」

がっくりと肩を落としながらぼやく。

二人はそれぞれの戦闘用の衣装に着替えて、街中を歩いていた。

と言っても、街中で武装するわけにはいかないので二人とも普段着だった。普段着との違いを述べるのなら、ちょっと防弾加工その他がしているぐらいだ。外から見た限りは何も変わりはない。

だが、嵐は戦闘前だからか、戦闘に入ることを半ば予想できているからか、いつもよりも多くのナイフを所持している。常時付けている腰の剣帯だけではなく、太ももにも行動の邪魔にならない程度に仕込んでいる。

「自殺? 何で俺が死ななきゃならんのだ」

「……敵の数は不明。だってのにこっちは二人だけ。援軍の見込みはないが、相手が増員する危険性は否定しきれない。最後に……こっちの救出目標は二つだ。どう足掻いたって勝率はそれほど上がらねぇよ」

「ふん……。弱気だな」

「弱気にもなるっての。さっきは後輩の手前かっこつけたってのに……内心ガクブルだぜ」

零士は自分が怯えていることを示すかのように、両腕で自分の体をかき抱いている。

そんな零士の心配を嵐は欠片もしていなかった。

何故なら、零士の体は無論のことふるえてなどいないし、零士の声も、雰囲気もいつもと大して変わっていないからだ。

戦闘前にここまで自然体で居られる人間の心配をするなんてそれこそ杞憂と言うものだろう。

そんな会話を二人でしているうちに例のビルに辿り着いた。

「……相も変わらずでっけぇなぁ」

「このビルは建築当時から出資したところが不透明だったのだが……その謎が解けた」

ビルの入り口付近に立って上を見上げながら二人は思い思いの感想を呟く。その姿は戦闘前と言うよりは、観光に来たただの一般人のようだ。

顔を下げて、二人が前を向く。前を向いたときには二人の雰囲気も表情もさっきのものとは一変していた。

嵐は何を考えているのかわからないような能面に。

零士は気持ちが高揚したのか、凄惨な笑みを浮かべている。

「それじゃ……」

「狩りを始めますか」

二人はビルの中に足を踏み入れる。

エントランスは普通のオフィスビルなどと大差はない。空気も警戒しているようなものではなく、仕事中の静謐なものだ。

受付にいる女性たちは嵐と零士を見て怪訝そうな表情を浮かべている。

それもそうだろう。仕事の始業時間を少し過ぎたばかりと言う十時半。もう大体の社員は通勤したであろうと言う時間に、明らかに関係者ではない青年が二人も入ってきたら戸惑うのも無理はない。

そんな受付を視界に入れながらも無視した二人は視界の端に監視カメラを見つける。

その監視カメラに対して、二人は対照的な表情を浮かべたまま、同時に中指を突き立てた。

「返してもらうぜ?」

「私と、私の仲間の大事なものを」

これはただの宣戦布告のようなもの。特に意味はない。

ただ……相手にこちらが来たと言うことを知らしめることができれば十分だった。

特に何かアクションを期待していたと言うわけでもない嵐は、太ももから一本のナイフを取り出し、監視カメラに投げつける。

カメラに一直線に飛んで行ったナイフは監視カメラに命中し、監視カメラの機能をダウンさせる。

ナイフを急に投げつけたことで受付が色めき立ち始めた。

悲鳴を上げるもの。キョトンとしたまま特にアクションを起こせないもの。通報するべきか否か悩んでいるもの。

そんな中に周囲とは違った反応を示した女がいた。

その女に二人は的を絞った。

瞬間的に二人は加速。一秒も経たないうちに目測で十五メートルあった距離をゼロにし、受付のカウンターの中に侵入する。

「キャァァァァーーーーー!」

「黙っててください」

悲鳴を上げた女たちの声が不自然にブツンと途切れる。

女たちはまだ口を開けて叫んでいるように見えるが、音は一切聞こえてこない。

これは理由も種も簡単なことだ。音と言うのは何かの物体を振動させることによってその音を伝えることができる。

逆説的に、振動を伝えてくれる物質が存在しなければ、音なんてものは響かない。

良い例が宇宙空間だろう。宇宙空間は完全な無音だと言う。その理由は、宇宙には地球上にあるような空気がないからだ。

まだるっこしい説明になったが、要するに悲鳴を上げている女どもの声が伝播しないようにその口の周りの空気をなくしただけのことだ。

女たちが黙ってこそいないが、静かになったその空間で零士が一人だけ悲鳴も上げずに嫌に落ち着き払っている女に問いかける。

「悲鳴、上げなくていいのか?」

「…………」

女は零士の問いかけに応えず、俯いている。零士が問いかけをしている間に、嵐は関係のなさそうな女ども全員に当身をして意識を立っていた。

答えを返さないことに違和感を覚えた零士は右肩についているどことなく猿に似ている細工が施してある面を顔に装着し、親指に歯を立て、薄く出血させる。

その状態で女に再度問いかけを行う。

「……お前が、『デイブレイカーズ』の所属ってことで異存はないんだな?」

「…………」

尚も女は俯いたままだ。声を漏らさないだけか、息遣いの音も聞こえてこない。

ポタリ。

そんな中、水滴が床にあたってはじける音が聞こえた。

その音を耳聡く聞きつけた嵐は女に目を向ける。女の口元から唾液でできたであろう、粘ついた線が地面まで伸びていた。

不味い。

嵐の直感が警戒を促すアラートを鳴り響かせる。

「おい、零……」

「グガァ!」

注意を促すよりも女の行動のほうが早かった。いや、正確に言うのなら『元』女と言ったほうが正しいのかもしれない。

よだれを滂沱のように垂らし、両腕は毛深くなり、服の腕の部分を筋肉の膨張で弾き飛ばしながら零士に牙をむこうとするその姿は『人』と言うよりは、『化け物』と言ったほうが適切なようだ。

その化け物が零士に迫る。化け物に接近されている零士の表情は面に隠されていて窺い知れない。

零士は血の滲んだ親指を面に押し当てると、面の中央部に一閃し、面を上下に割るような血の線を面に描く。すると、零士の腕や足が少し変化する。

そんなことをしている間にも化け物の牙と零士の首の距離は縮まっていく。

その距離が零になる寸前、零士の姿が掻き消えた。

「遅いぜ。ババア!」

そんな声が聞こえたかと思うと、化け物は頭を受付のカウンターに叩き付けられていた。


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