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You saved I  I saved you  作者: 頭 垂
第二幕
19/33

十九話

『それで? 奴の弱点らしきものは見つかったのか?』

「ええ。まだ、確信はないけどね」

暗い部屋の中から二種類の声が聞こえる。

一種類はこの場にいるのであろう、若い女の感情を感じさせない冷たい声。

もう一種類は男の声。声にはハリがあり、まだ若さを感じさせるが、その声には幾多の修羅場を乗り越えてきたと思しき重さを感じさせる。

男の声は女の声と違って、多少の違和感を感じるので、携帯か何かの通信機器で話しているのだろう。

『ほう……仕事が早いな』

「あの子の命がかかっているからね。……あの子はまだ無事なのよね」

女は一層声から感情を失わせて男に問いかける。その声の裏にはいくつもの感情が秘められているのか、強張ってしまっていた。

そんな女の強張った声を聴いた男は軽く笑い声を漏らす。

『そんなに怖い声を出さなくてもいいだろ? むしろ俺たちは優しいと思うがな。何故なら……一度失敗したお前にもう一度チャンスを与えてやっているのだからな』

「……私の弟を人質に取っている分際でよくもそんな口が聞けたものね」

『そう言うな。お前が今回の任務に成功すれば、お前の前回の失敗は水に流すし、お前の愛しの弟も返してやろう。……まあ、失敗した場合はどうなっても知らんがな。お前も。弟もな』

「わかってる。失敗はしない」

女の声に苦々しさが混ざる。

女にはもう後がなかった。この組織は寛容ではあるが、何度も失敗する人間は容赦なく切り捨てる程度には非情だ。

『いい子だ。それでは、我らの宿敵……『ピースメイカー』の構成員である、『騒嵐(テンペスト)』の情報を聞かせてもらおうか』

「あいつはあなたたちの言うとおり、感情が高揚すると、異能の制御ができなくなるようね」

『そんなことは知っている。俺たちが望んでいる情報がそんなつまらないものではないと言うことにお前は気づいているのか?』

男は楽しそうに、愉しそうに少女に言う。

電話越しなのでわかりはしないはずなのだが、少女には男が口の端を持ち上げて笑っている光景が見えたような気がした。

そんな光景を思い浮かべてしまった女は不快さで口元がゆがむのを感じた。

『それでは……肝心の報告を聞かせてもらおうか』

「あいつの弱点は、あいつの周りにいつも張り付いている女ね」

『ほう』

「あいつがあまりにも私に無関心だったから、ちょっとちょっかいかけてやったらその女が部室からいなくなったの」

『それで?』

「そしたら、あいつはそれまでの無関心な仮面なんてすぐに脱ぎ捨てて、本気の殺気を私にぶつけてきたわ。……あんなの普通の高校生が出せるようなものじゃないわよ」

『それはそうだろう。あいつが普通の高校生で無いと言うことは事前情報からもわかっていたはずではないのか?』

「ただの情報と実際にあってみるのとでは全く違うわよ。初見では拍子抜けしそうになったのに……。あんな化け物を本当に殺そうと思ってるの?」

『別に殺そうとは思っていないさ。こっちに来てくれるのならそれが理想なのだがな。たぶん無理だな』

「何故?」

『ん? 昔、あいつの両親をうちの先走った馬鹿があいつの目の前で殺しちまってんだよ。そのせいで、あいつは覚醒しちまうし、こっちの戦力も割と削られた。……ホントにあのバカは一度殺すぐらいじゃ足りなかったな』

この話は女にとって初耳だった。

あの男の両親がいないと言う現状もそうだし、それがこちらの手によって行われたと言う点に関しても。

そして、一つ感じることがあった。

……私の状況と似てる。

そう。女の状況と男の状況は面白いほど似通っているのだ。目の前で両親が殺されたと言うことも。それによって異能に目覚めたと言うことも。

唯一違うのは、男が所属しているのは世間的には正義の組織。女が所属しているのはテロ組織だと言うことだけだ。

そこに至る道程は同じだと言うのに、結果がこうも違うのは何故なのだろうか?

『ま、いいや。善は急げだ。すぐに決行する。お前は決行したことがわかったらすぐにあの学校から脱出しろよ? 捕まってもお前への救援は寄越さん』

片や、裏の道に体を沈めつつも日常を謳歌して生きている。多少の制約はあるかもしれないが、それでも日の下を歩けると言うのは憧れる。

片や、裏の道に頭の天辺までつかりきってしまい、もう抜け出すことはできない。それに……逃げようにも弟を人質にとられてしまっていては逃げることも敵わない。

ああ……私に手を差し伸べてくれたのがもっと別の人だったら私の今も変わっていたのかな。

『聞いてんのか?』

「……聞いてるわよ」

『……ならいいがな』

それだけ言い残して、男は一方的に通話を切ってしまっていた。

暗闇に包まれる部屋に取り残された女。

「誰か……私とあの子を助けてよ」

そう震える声でつぶやいた女の頬には一筋の線が伝っていた。


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