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You saved I  I saved you  作者: 頭 垂
第二幕
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十五話

「及川 凪です。これからお世話になります。よろしくお願いします」

凪が部室内で挨拶をする。

「そう言うことだ。よろしくしてあげてくれ」

「…………」

「あ、よろしくお願いします」

それに対する観測部の面々の反応はとてもではないが良いものであるとは言えない。

その中でもひのかの態度はわかりやすい。ひのかは凪のことを睨みつけている。

基本的に歩は自分の周囲にそれほど興味を示さないが、ひのかは嵐と同じくと言うか、嵐に触発されてなのか、テリトリー意識が強い。自分の居場所を凪に踏み荒らされるのではないかと考えて苛立っているのだ。

「うむ……解けないな」

「これは……ここを……こうしたら?」

「ふむ……本当にお前は履歴書に書けない特技が多いな」

「嵐君が褒めてくれるなんて珍しいね」

未来が嵐の言葉に頬を染めつつ喜ぶ。

「褒めているわけではないのだがな」

「ガーン……」

わかりやすく口で落ち込んだと言うことを示している未来。そんな未来に言葉を掛けつつパズルを解いている嵐。

硬い空気の中でも嵐と未来は平常運転を維持している。

今日は珍しく嵐も起きていて、数字を使ったパズルを解いている。

そのパズルと言うのは、9×9マスの中がさらに3×3マスに区切られていて、その縦、横、3×3マスの中に1~9の数字を入れるが、ダブってはいけないと言うもの。正式名称は数独だったか? やったことのない零士にはよくわからなかった。

その数独の問題を嵐と未来は仲良く解いている。本当にこの二人は仲が良い。その空間に割って入るのは観測部の部員でも無理そうだった。

「……どういうつもりなの?」

「何がだ?」

ひのかの問いかけにとりあえず白を切っておく。

今の問いかけは何故、嵐の機嫌を損ねるリスクを冒してまで凪をこの部活に入れたのかと言うことだろう。

「わざわざ言わなくちゃいけないほどの愚図でもないでしょ。あなたは」

「……信頼してもらえているってことでいいのかね」

軽口をたたくとひのかに鋭い視線で睨まれた。おお、怖い怖い。

「……ちょっと来なさい」

ひのかはそれだけ告げると部室から出て行ってしまう。

……はぁ、これは説明しなくちゃいかんかもな。別にしなくても構わんと言えば構わんのだが……それで部室内に不和が広がって嵐に凪共々追い出されても困るしな。

ひのかや歩と違って、零士は嵐に強制的に観測部に入れられたわけではない。この部活を黙認し、話を上に通すと言う条件付きで居させてもらっているに過ぎない。

あの天上天下唯我独尊を地で行く嵐がこの条件を飲んだだけでも奇跡だと言うのに、こちらから嵐の機嫌を損ねては全てがおじゃんになりかねない。ひのかにも情報を開示して、こっち側に引き込んだほうが楽かもな。

「ま、いいぜ。歩、凪と……一応嵐たちのこともよろしく」

「わかりました。早めに帰ってきてくださいね」

「善処はするよ」

歩にそう告げて零士も部室を出る。

部室を出た零士は観測部の部室のすぐ横にある部屋に入り、後ろ手にドアに鍵をかける。

観測部の部室の隣の部屋は対外的には空き部屋と言うことになっているが、この部屋は零士が上に言って用意させた周囲に聞かれたくない話をするときに使う部屋である。

防音遮光に加え、なぜか防弾まで入っている、ある種の核シェルターのような部屋なのだ。ついでに言えば、嵐がキレた時用の緊急避難場所でもある。ここにいる限り、欄から逃れることはできる。

「それで、説明してもらおうかしら」

一応様子見でもしておくか。

「……さてね。お前が何を言っているのか俺には皆目見当もつかないが?」

「こっちに移動してまで白切らなくてもいいわよ」

やっぱり無駄なようだな。ホントにひのかはウザったくなるぐらいには有能で嫌になるぜ。まぁ、あの部活にいる人間で無能はいないのだが。

「何で凪をいれたか……でいいのか? 聞きてぇことは」

「ええ。歩は気になっていてもそれに対して異論をはさむようなタイプではないのはあなたも知っているでしょ? だから私が聞いているのよ」

「凪をいれた理由は単純だ。あいつが危険だと思ったからだ」

「危険? あの子が?」

零士の言葉にひのかは首をかしげている。

ひのかの見た限りではあの凪と言う少女には特に気になるような点はなかったように思える。だと言うのに零士は何を危険視しているのだろうか?

「何を持って危険だと言っているの? それに何に対しての危険なの?」

「嵐に対してだ」

嵐に対して。その言葉だけでひのかの心中は穏やかではなくなった。

嵐には助けられた恩がある。嵐はもうひのかを助けた言葉度忘れていることだろう。そういう人だ。それについては特に何かあるわけではない。

嵐がそういう人だと言うことはもうすでに知っているし、諦めている。嵐がひのかを助けたと言うことを忘れたとしても、嵐に助けられたと言う事実があるわけではない。そんな嵐に危害を加える人間を、加えようとする人間をひのかとしても無視するわけにはいかない。

ひのかの表情が俄かに険しくなったことに零士も気づいただろう。だが、零士はそれを気にすることもなく変わらない口調で話しを進める。

「あいつは観測部に入りたいって言った時に嵐の名前を出してきた。『部長である嵐先輩ともかかわりがありますよね』ってな」

「……うちの部長が嵐先輩だって知ってるのこの学校に何人いたかしらね」

「俺、歩、ひのか、未来……あとは常盤ぐらいか。部長が嵐だって知ってるって段階で警戒レベルを上げるには十分だろう?」

常盤というのは観測部の顧問だ。その正体は嵐を監視するために『ピースメイカー』が送り込んだ異能者である。

「……あの子が危険だと言うことはわかったわ。……だけど疑問は晴れない。何であの子をうちに入れたの? 危険なものを嵐先輩に近づけるなんて正気なの? 事と次第によってはあの子も……零士、あなたも殺すわよ?」

そう言うひのかの目は据わっていて、必要だと思ったら一瞬の躊躇もなくさっき自身が言った言葉を実行することだろう。

その程度にはひのかは嵐を信奉している。

「だから、だよ」

「……どういうこと?」

「あいつに変に嗅ぎまわられて嵐の身を危険にさらすよりは目の届く範囲に置いておいたほうが良いだろう? 観測部にはお前や歩もいることだしな」

「……フン」

ひのかは不機嫌そうな鼻息を漏らす。

だが、納得はしたようでこれ以上異論をはさもうとはしてこない。

「納得したなら戻るぞ。凪はまだ不確定要素なんだ。いつまでも歩ひとりに任せておくのも危険だろ」

「そうね」

零士とひのかはそろって部屋を出る。

隣の部屋と言うこともあって距離は目と鼻の先だ。


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