いいえ。シンデレラが魔法使いだったのです。
ナーロッパのとある国の王都郊外の屋敷にて…
今日もボフン!と魔法薬の調合が失敗して爆発した音とともに灰まみれになったエラが自分の部屋から出てきた。
空気を求めて廊下に逃げて来たエラはケホケホと咳き込む。吐き出した息にも煙が混じっている。
「まあ!また今日も見事に真っ黒ね!」
クスクスと義理姉ドリーがその様子を見て笑う。
エラは小さくため息を吐くとドリーが持ってきてくれた濡れタオルでゴシゴシと目と口と鼻のあたりだけ拭いた。
彼女本来の美しい容姿は灰をかぶり、エラは変な灰色の熊の様だった。
「失敗したわ」
エラはしょんぼりしながら、灰と煤がついた手をゴシゴシと拭く。
みるみる濡れタオルは真っ黒になり、魔法薬実験での爆発の激しさを物語っていた。
エラの母は魔女だった。
隣国の魔女だった母を見初めた父は、母を口説き落とし結婚した。エラが生まれ、父の商会も軌道に乗って幸せに過ごしていたが、母が魔法の実験中に死に、父は魔女の素質のあるエラに魔法を禁じた。
父はあまりの寂しさに仕事に打ち込んでいたが、エラも一人で屋敷で留守番をして孤独にしていた。
そんなある日、父は同業者の女経営者であった後妻リリーと結婚した。
後妻のリリーにはエラより年上の2人の娘がいた。アリーとドリーという。新しく家族になり、しばらくはぎこちないままで新生活を過ごしていた。
後妻は女商人で、父と二人で買付けを行ったり、目新しい事が大好きな人だ。
上の義理姉アリーは義母に瓜二つで商売人気質。若いながらよく義母にくっついてあちこちに買付けに行っている。
下の義理姉ドリーは小さな頃の怪我で片足が不自由だがとても美しく、刺繍やお裁縫が上手くセンスも抜群な女性だ。足は少し引きずるものの歩く事はできる。
二人とも王都の洗練されたお洒落な雰囲気があるので、エラは最初郊外の田舎育ちの自分が恥ずかしくて上手く話せなかった。
エラが遠慮しているので、義母達もどう接したら良いのか測りかねていた。そんな時……
父が取引に出かけた先で、馬車の事故に遭ったのだ。
父は帰らぬ人になり、運が悪いことに父の商会の取引品も馬車と共に破損、取引相手に損害を出したことにより賠償金を支払う事になったのだ。
家族は多額の借金を抱え、困窮した。
だが義母リリーは根っからの商人なので、「今は借金があっても何とかなる」と商売に邁進し、ますます家に帰ってこなくなった。
上の義理姉アリーは本格的に女商人として仕事をし始め、義母の右腕の彼女も家にいない。
下の義理姉ドリーとエラは家で家事をする様になった。切り詰めて生活する上で、使用人を解雇してドリーとエラが家を維持する事になったのだ。
だが、ドリーは片足が不自由なので、お裁縫や料理以外の多くの肉体労働はエラが受け持っていた。
そして、父が亡くなった事でエラは少しずつ魔法を我慢できなくなっていった。
魔女は使い魔として動物を操る事ができる。魔法を使えば水や火や風も起こすことができる。
ネズミやウサギ、小鳥と元々話せるエラは彼らを使って家のお掃除、お庭の手入れを手伝って貰った。
魔法を操るエラにとっては、重労働になるはずの水汲みや洗濯、掃除は簡単なものである。
魔法を使う事が楽しくなったエラは、こっそり義理姉のドリーに自分が魔女である事を教えた。
ドリーは優しいので魔女だ何だと気味悪がらず、素直に「すごいわね!」と褒めてくれた。この国には魔女はいないので、物珍しいのもあるかもしれない。
父が隠していたエラの母の魔術書を見つけてからは、毎日暇を見つけては魔法の特訓をした。
だが、師匠もなく小さい頃からの鍛錬を積んでいないエラは簡単な魔法なら何とかなるが、難しい調合や魔術式の組合せなんてものは毎日失敗続きだ。
今日もドリーの足に効きそうな治療薬を作っていて、大失敗したのである。
「はぁ……ダメだー。私は魔女としてポンコツなのよ」
「エラ、元気出して。ほら沢山の使い魔がいるっていうのは魔女として才能があるからだと思うわ。ね?」
ドリーは落ち込んだエラの肩を労って叩こうとし、灰だらけだったのでやめて、エラを心配して集まってきたネズミ達に目配せした。
ネズミ達はポカンとした顔をしながらも、空気を読んでうんうんと頷く。彼らもエラのことを聞いてくれる使い魔たちだ。
「私、庭で灰を落としてくるわ」
エラはそういうと、庭へと歩いていく。
お庭にはたくさんの小鳥達が集まっていて、エラに話しかけてくる。
『大丈夫かい?』
「ええ、ありがとう。灰を被っただけだから。それより、今日も畑を手伝ってくれてありがとう」
『ふふ。私達は虫を食べて、余計な実や葉を突いているだけさ』
鳥達はエラに羽を広げて得意げにキュっと鳴いた。
『私たちが土を掘ってフカフカにするのは楽しいからよ。雑草を食べるのも美味しいから』
ウサギたちも鼻をヒクヒクとさせていた。
「ふふ」
エラは鳥とウサギの可愛らしさに笑いながら、水と風の魔法を使って上半身の灰を強引に落とした。これには時間がかかるし、完全に灰は落とすことができないがやらないよりはマシだ。
料理とお裁縫が完璧なドリー義姉さんと二人きりで家を切り盛りする様になって、仲が深まり、彼女からどれだけ義母が苦労してきたかを聞いた。
エラも数年前に母を亡くして、悲しい思いをしている事には違いないが、義母はその比では無かった。
下級貴族の庶子として生家では冷遇されていた義母リリー。最初の夫との間にアリーとドリーを授かるまでは良かった。しかし、城の文官だった夫は経費を横領し投獄され、夫とは離縁することとなった。
女だてらに幼子を養いながら商会を立ち上げ、大変な奮闘の後、軌道に乗ってきたあたりでエラの父と出会ったのだ。エラの父も商人で、悪い人では無かったが多額の借金を残して直ぐに死んでしまった。
それを支払うために今も働きに出ているのだ。
彼女にエラは頭が上がらない。一年しか結婚していなかった亡き夫の借金とその義娘であるエラの面倒をその細腕に負っていても、当たり前のように力強く働いているのだから。
だからエラは魔法で役に立とうと、現在猛勉強中なのだ。唯一と言っていい才能があるのだから、これを使わない手はない。
とりあえず今はドリー義姉さんの足を治せる高等治療薬を試作している。
この間、王城から全国民に向けたお知らせを読んだ時のことだ。
そのお城からの通達を要約すると、
『王子のお嫁さん募集します。若い未婚の令嬢は家柄関係なく今度の夜会に来てね!王子以外の素敵な紳士もいるよ!』
と書いてあった。
要は大規模なお見合いパーティの招待状だった。
令嬢が夜会で素敵な出会いをするというのは、貴族平民関係なく全世界の乙女の憧れであるかもしれない。
特にこの国の王子は婚約者が数年前に亡くなり、年頃なのに未だお相手が決まっていないという。王子様の容姿は整っていて素敵な方だと言うから、国中の乙女は今ドレス作りに余念が無い。
しかし、通達を読んだ後、ドリー義姉さんの諦めたような顔をエラは見てしまったのだ。
エラは美しいアリー義姉さんとドリー義姉さんが夜会に出てダンスを踊れば、もしかしたら王子様に見染められるのではないかと思っている。だからドリー義姉さんのために怪我で上手く動かない足の治療薬を作成しようとしているのだ。
来週迄に作る事ができれば、ダンスは付け焼刃でも一緒にお城の舞踏会に参加できる筈だ。普通に歩けるだけでも彼女の憂いを晴らせるかもしれない。
舞踏会の3日前、大荷物を抱えた義母リリーと義姉アリーが3週間ぶりにエラ達が待つ家に帰ってきた。
しっかりと3人の娘達の新しいドレスを買ってきてくれたのだ。
「本当にありがとう、お義母様」
エラは全く血が繋がっていない自分にも分け隔てなくドレスや宝飾品を揃えてくれた義母に、心から感謝した。
義母リリーは良い顔で笑う。
「ふふ!うちの娘達はみんな器量良しだから素敵な殿方に見染められるかも知れないわ。だから、先行投資ってやつよ」
と、ウィンクを送られる。
「素敵なヘアスタイルは私がやってあげるわ」アリー義姉はエラの波打つ金髪をふわふわと撫でた。
「まぁ!私だって上手よ」
アリーとドリーは髪結いをしたいらしい。
「あ…じ、じゃあ!私がドリー義姉様をしますから、ドリー義姉様はアリー義姉様を、アリー義姉様は私をしてください…ますか?」
おずおずと頼み事が上手ではないエラが二人に言うと、二人の義姉達は頬を綻ばせて笑った。
そうして、久しぶりの家族での団欒は女4人で賑やかに過ぎていった。
翌日、灰だらけになって部屋から出てきたエラが魔女だということは義母も上の義姉も知るところになった。
「すごいわね!なんて不思議なのかしら!」
義母は感動して、エラの魔法を笑顔で見守っていた。
エラは沢山の桶に魔法で作った水を注ぐ作業をしていた。まだ少し服には灰が残っているが、あまりエラは気にしていない。
義母はエラの尻についている灰色の物をパタパタとハタキで落とした。
「こういう簡単な物はすぐにできる様になったんですが、細かい作業はまだまだ難しくて…ドリー義姉様の治療薬も舞踏会に間に合えばいいのですが…」
褒められたものの、すぐに自分の未熟さにエラはがっかりした。
「エラったら…その気持ちだけで、私は嬉しいわ。体の不自由なドリーを支えてくれて、沢山家事をしてくれてありがとう。早く借金を返して、前みたいにメイドを雇える様にするからね」
「お義母様…私こそ、…私の父のせいなのに家に置いてくれて、文句も言わずに毎日働いてくれてありがとうございます。だから少しでも役に立てたらって…」
「ふふふ。でもエラ、あなたのお母様のように爆発したり、怖いことにならない様に気をつけてね」
「はいっ!」
エラは義母に優しく抱擁されて、少し目が熱くなった。
ああ、やっと私達素直に話せるようになって親子らしくなって来たわ…私ももっと沢山魔女の薬や、人の役に立てる魔術を成功するようになって、家の役に立ちたいわ。エラは小さく拳を握った。
舞踏会当日
「お姉さま!で…で…できた!!できたのよ!!」
折角ドレスアップしたと言うのに綺麗な衣装を真っ黒に汚したエラが、義母と義姉達のところに駆け寄ってきた。
「ああああ!なんてこと!エラ!エラ!あなた真っ黒よ!」
義母リリーは頭を抱えた。彼女も今日は娘達の付き添いで舞踏会の用意をしていた。義母はもう40手前だというのに、なかなかに美しい女性だ。
「ちょっと!エラ!大変!せっかく綺麗にしていたのに!」
義母もアリー義姉も取り乱した。
ドリーも当惑しながら、急にしゃがみこんでドリーの靴を脱がしたエラを眺めている。
「いいから!見てみて!元々神経が切れて繋がっていなかったの!それを繋げられるような薬を作っていたのよ。成功したわ!お義姉様、足に塗ってみるわね!」
興奮したエラは自分の様子など気にもかけず、ドリーの足に作ったばかりの薬液を塗り広げる。
そして小さく呪文をかけた。
途端にその呪文に反応した薬が光り、ドリーの足首に薬が浸透していく。
部屋の中が光り輝き、真っ白になり、エラ以外は目を開けていられなかった。
エラの詠唱が止まると、ドリーは目を恐る恐る開け、足首をクイっと動かした。
ドリーの足は何の障害もなく自由に動くようになっていた。痛みもない。
「な…治った…痛く…ない…」
ドリーはジワジワと涙を浮かべながら小さく呟いた。
その奇跡に義母リリーもアリーもドリーもエラも「わー!」と大きな声を出した。
「すごい!すごいよ!エラ!エラ!」
「ありがとう!エラ!」
「お義姉様!良かった!よかったよぉぉ!」
「うわぁぁぁん!エラぁぁぁ!」
4人は抱き合い、しばし感涙していた。
しかし、舞踏会の時間が迫っている事に気付いた。
「どうしましょう!エラったら、真っ黒なのに、もう出る時間よ!」
「エラ!待っているから、支度なさい!」
「駄目よ!お姉さま達だけでも先に行ってきて!楽しみにしていたじゃない」
「嫌よ!エラだけ置いていけないわ!」
「お姉さまったら、私は魔女よ!すぐに綺麗にして、走っていけるから!ね?」
ドリーは最後まで渋っていたが、なんとか言い聞かせて義母と義姉達を城に向かわせる事ができた。
独りになった家の中でエラは一息吐く。
上手く薬を作ることができて、ドリーの足を治せた。
それだけで達成感があった。
ドレスアップしてからも、エラは最後まで足掻いて薬の調合を成功させたかった。足を治してドリー義姉様に夜会に行って欲しかった。あんなに綺麗なドリー義姉様が夜会でも歩き方を変な目で見られるなんて、嫌だった。
失敗して、ドレスをダメにした後からはもうヤケクソだった。その気持ちのお陰か4度目に成功した。
自分はそこまで夜会や出会いに興味はない。
だけど、あの出発間際の3人の顔を思い出す。
義母は心配した顔をして、アリーとドリーは残念そうに眉を下げていた。
3人ともエラの事を思ってくれていた。だからエラはもうひと踏ん張りしないと、と魔法の杖を取った。
薄水色のドレスと靴は灰と煤だらけになっている。とてもじゃないがドレスを水魔法で濡らしたり、風でグチャグチャにはできないので、くっ付いた灰の黒色を銀色に変える魔法を使う。これならキラキラと光ってくれるはずだ。
爆発で少し縮れた髪には今だけ髪を伸ばす魔法をかける。それぞれ恒久的な魔法ではないが、数時間は持つだろう。
薬の調合のために外していた長いグローブは魔法を掛けなくても無事だった。市販のグローブではエラの指には少し長くて、ドリー義姉様がお直しをしてくれて、綺麗な刺繍の模様も入れてくれたのだ。とても気に入っている。
さて、今から馬車も呼ぶこともできない。
困って玄関先に佇んでいると、ネズミとウサギと小鳥達が心配そうにエラを見ていた。
『エラ、エラ、パンくず頂戴』
ネズミが可愛らしい黒い目をこっちに向けていた。
「ふふ、良いわよ。ハイ、どうぞ」
『ありがとう』
『あら、エラどうしたの?今日は一人なの?』
フンフンと鼻を動かしてウサギが聞いた。
「ええ、そうなの。お義母様達はお城の夜会に行ったの」
『エラは?行かないの?』
動物達は次々に好きな質問を飛ばしてくる。
「行きたいけど…ダメね…何かを馬車に変身させる魔力はもうないのよ。思った以上に薬の調合に魔力を使ったみたいでね」
エラはしょんぼりと、一人で夜会のドレスを着ている自分の体を見渡した。
ああ…折角お義母様が働いて支度してくれたドレスも、アリーお姉様が綺麗に結ってくれた髪の毛も、ドリーお義姉様が直して刺繍を刺してくれたグローブも全部無駄になってしまうわ…
エラが泣きそうに空の月を見上げていると、ネズミがドレスを引いた。
『ねえ、エラ。お墓が呼んでるよ』
「え?」
エラの家の庭には小さな畑と庭園があり、その端の丘になっている部分には父と母のお墓がある。
義母は父が亡くなった後もきちんと横に墓を掘って埋葬してくれたのだ。立派な墓石も作ってくれている。
不思議な事に、母の墓がぼんやりと光っていた。
エラは引き寄せられるようにその墓に近付くと、光る母の墓に刻まれている文字を魔法の杖でなぞった。
その瞬間、魔力がエラの体に入ってきた。覚えがある母の魔力だった。
「あ……!」
普通、魔女の魔力は自然から少しずつ体に取り込み、溜めては使う事が出来るものだ。
もしかしたら母はずっと待っていたのだろうか。困った時エラの助けになることを。
母の魔力はエラを元気づけるように、体に満ちてくる。
エラは振り返ると、母からもらった魔力を使った。
畑のカボチャは大きな馬車になり、エラに手伝いを望んだネズミは御者に、ウサギと小鳥は大きな4頭の馬になった。
ネズミはエラに手を差し出して、馬車にエスコートしてくれた。
エラ達は大急ぎで王城へと急ぐ。
その頃王城では
付き添いでやって来た義母のリリーは、振舞われたお酒を一杯だけ飲んで、城の門の中側に移動して佇んでいた。門番はその仕事に誇りを持っているのか、後ろで立っているリリーには気付いているだろうが声も掛けない。
「ご婦人、こんな所でどうされたのかな?」
髭を蓄えた素敵な紳士が不思議に思ったのか、どこからか彼女の側に来た。リリーは門番のすぐ後ろで今か今かと、エラが現れるのを待っているのだ。
「娘が後から夜会に来ると言っていたのでここで待っているのです」
「なにもご婦人がこんなところで待たなくても…」
不用心だと思ったのか、まさか娘が一人でここまでくると思っていない紳士は眉をひそめた。
「いえ、私の家は男手がありませんから、心配なので」
リリーが事も無げに言うと、彼は気まずかったのか「失礼」とすぐに謝った。
「ご心配には及びません。私など襲うものもおりませんもの」
リリーは快活に笑う。嫌味はなく、もう自分はとっくに女としては見られないことを自覚しているといった笑いだ。それもその通り、エラの父の求婚を受けて結婚したのも情熱からではなかった。結婚してたった1年で彼は死んでしまったが、リリーと閨を共にしたのも忙しさのせいか2回だけだった。つまりエラの父は一緒に商会を営むパートナーが欲しかっただけなのかもしれない。と、リリーは思っていた。
「はぁ?!貴女は素敵だぞ?失礼だが、自宅には鏡がないのか?」
紳士がなぜかムキになったように言ってきたので、リリーも売り言葉に買い言葉で言い返してしまう。
「ほほほ。ご冗談を。鏡があるからこそ自分で自分のことなど分かっておりますわ。なら貴方様は私にキスも、もっと先もできますの?」
この時リリーは一杯だけ飲んだお酒が気を大きくしたのか、いつも言わないようなことを口走ってしまった。
ふいに髭がリリーの口の上を刺激し、柔らかいものが彼女の唇を塞いだ。
「え?」
驚いてリリーが後ろに一歩逃げた時、
大きく丸い馬車が馬の足音を鳴らしながらすごいスピードで走り込んできた。
起こった事がリリーの頭で理解できないうちに、馬車からエラが降りて彼女の元へと速足で近づいてきた。
「お義母様!お待たせいたしました!」
「…エ…エラ、いったいどこで馬車を調達したの?」
急に現れた大きな馬車は白く塗装された丸いフォルムでとてもロマンティックな造形をしている。
エラはニコリと笑って杖を振るフリをした。
驚いた顔でリリーが『魔法で?』と口を動かすだけで聞くと、エラは笑顔で頷く。
「そうなのね…もう夜会は始まっているわ!さあ、行ってらっしゃいっ」
自分がエラに似合うと思って購入した薄水色のドレスはやけにキラキラと銀色に光輝いていた。これも魔法かしら?
自分の娘達も身内の贔屓目無しで美しいと思っているが、エラもとても綺麗な子だ。それもとても。アリーやドリーが花なら、着飾ったエラは光り輝くダイヤモンドに例えても良い。その美しさはドレスと彼女の纏うキラキラしたものでさらに輝いている。
エラと初めて挨拶した時に、母娘ともども彼女に心臓を鷲掴みにされたのはいい思い出だ。
娘に素敵なドレスを贈れたという嬉しさと眩しい気持ちで、目を細めながらリリーはこの心優しい義娘を会場に送り出した。
「行って参りますっ」
元気よく跳ねるようにドレスを抱えながら娘は行ってしまった。
「元気なお嬢さんですな…ご婦人。…ところで、私がそれ以上できるかどうか試してみませんか?」
隣に立っていた紳士は挑戦するような顔をして、リリーに手を差し出した。
「あ…」
自然に手を重ねてしまって、その後で大人な誘いに乗った事に気付く。リリーはこんな火遊びはした事がない真面目な性質なので、緊張で顔が火照ってしまった。
まるでこうなる事が当たり前だったかのように、リリーと髭の紳士は城の中へと二人で消えていった。
舞踏会が開催されている大広間ではザワザワと賑やかに人々が歓談している。
なにせ国中の若い女性が出会いを求めて夜会に参加しているのだ。その数は数えきれない。
城からの招待状にも書いてあったが、まだお相手がいない紳士も多く招待されている。ダンスホールのある大広間と周りを囲む複数の広間や回廊はさながら男女の出会いの場として、明るく若い熱気で包まれていた。
「まぁぁ!お城の大広間の素晴らしい事!凄いわぁ!」
豪奢に飾り付けられた大広間の装飾や、その広大さに上の義姉のアリーは目をキラキラさせて、周りをキョロキョロと眺めていた。
「エラ…まだ来ないのかしら…」
対してドリーはアリーの側でソワソワと大広間の出入り口を眺めていた。
「ねぇ、私踊ってくるわね!何かあったら遠慮せずに呼んで頂戴」
アリーは昔からなんでも積極的な性格だ。楽しそうにダンスホールになっている中央部分へと人々の間を縫って移動するのを妹のドリーは見送った。
似たような容姿なのに、活動的で昔から前向きな姉はいつも一人でどこかに行ってしまう。
対して、次女のドリーは足を怪我する前から内向的で家の中での趣味に没頭するタイプだ。
自分にはないところのある姉が眩しくて、とても羨ましい。
あんな風に堂々と人の輪に入っていけるなんて、なんて素晴らしい事なんだろうといつも彼女が誇らしく思っていた。
ドリーは姉が誰か知り合いを見つけたのか、二人で話しながらダンスを始めたのを眺めていた。
貴族や教養のあるお嬢様達は大広間に集まってダンスを披露しているようだ。
そのダンスをしている中に、一等輝く黒髪で素敵な男性に目が留まる。
なんて素敵な男性なのかしら…
その紳士は長身でがっしりとした体格をしているのに、物腰柔らかでダンスが上手い。次々に女性をエスコートしてはダンスを踊っている。
彼の魅力にダンスの相手が途切れる事がないのに、軽々と何人もの令嬢と踊っているではないか。
彼と踊るとまるで女性は風に舞う木の葉のようにくるくると回され、楽しそうに踊っていた。
ダンスの名手という感じかしら。
ドリーはついつい彼の事を目で追ってしまっていた。だが、先ほど足が普通に動く様になったばかりで、ダンスなんて習った事もない自分に彼の相手など務まるはずもないし、そもそも彼をダンスに誘う積極性なんてドリーは持ち合わせていなかった。
「やだ!こんなところで取れるなんてっ」
ドリーの耳に女の子の小さい叫びが届いたのは、会場の熱気にも慣れはじめ広間の端々に用意されている休憩用の椅子に座って落ち着いていたからだろう。
ドリーよりも若そうなお嬢さんが半泣きになって見つめているのは、何かに引っ掛けたのかヒラヒラと動くドレスの裾の部分の解れたレースだった。
「あら、それなら…」
こんなこともあるかもしれないと巾着袋を持ってきていたドリーは裁縫道具を取り出して、彼女の足元に跪いた。
「すぐに直せますよ」
小さく笑顔を作って彼女を安心させた。若いお嬢さんは小さく「あ…ありがとう…」とじっとしていた。
裁縫や料理はドリーの得意技だ。
目立たない色の糸を取り出して、すぐに縫い始める。一分もしないうちに取れかけていたレースは元のように戻った。
「…女神…?」
ドレスを直してもらったお嬢さんは立ち上がったドリーの手を取って、丁寧にお礼をしてくれた。
彼女にエラが重なって、いつもは知らない人とはあまり話せないドリーも笑顔を作ることができた。
「め、女神だなんて……。夜会を楽しんで。あ、家に帰ったらしっかりと本縫いをして下さいね」
笑顔のドリーに少し見惚れた若いお嬢さんは「本当にありがとうございます」とドリーの手を取って、しっかりと感謝を述べる。そして軽い足取りでドリーに手を振りながらダンスの輪の方に進んでいった。
ドリーが眩しい気持ちで彼女を見送っていると、ふわりと良い匂いがした。
少しの香水と男性の精悍な香りがする。
なぜかドリーの隣に、さっきダンスフロアの中央で令嬢と踊りまくっていた紳士が立っていた。
汗をかいたのか、彼から魅惑的な香りがしていた。
ドリーはなんだか恥ずかしくなって、彼に気付いていないふりをして、手元の裁縫道具を巾着袋にゆっくりと直した。
「今晩は、素敵なレディ」
ドリーは自分に声を掛けられた事に驚きながら、彼に顔を向けた。
ダンスが上手い紳士は、ドリーに柔らかく微笑んでいた。
「今晩は」
人見知りで恥ずかしがりやなドリーは挨拶を返すことしかできなかった。
「もし良ければ、私とダンスを踊ってくださいますか?」
紳士がドリーに手を差し出した。大きくて逞しい手だ。
「…あ、あの…私…ダンスは踊った事が無くて…踊れないんです」
ドリーは彼の手が取れなかった。先ほどまでダンスどころか足を動かす事も上手くできなかったのだ。しょうがないのだが、折角誘ってくれたのに断ることは失礼な気がして、申し訳ない気持ちになった。
「残念」
そう言うと、紳士はどこかに行ってしまった。
ドリーは離れて行った彼の事を見送ることもできず、自信のない自分に嫌悪した。
アリー姉さんならダンスを踊れずとも、正直に「踊れないけど、あなたと踊りたい気持ちはあるわ」と伝えるだろう…はぁ…本当に私って……
うじうじと考えて落ち込んでいると、またあの素敵な香りがする。
「はい」
目の前に果実水が差しだされた。
飲み物を手に紳士はドリーのもとに帰って来たのだ。
「気にしないで、丁度ダンスに疲れてきたから。休憩がてら私と話をしてくれませんか?」
ドリーは頬が熱くなっていたが、素敵なお誘いにコクコクと頷いた。
ダンスをしていたアリーは妹のドリーが素敵な紳士と一緒に会場の端で話をしているのを確認して、頬が緩んだ。
「痛!…おい、足踏むなよ、アリー」
ダンスを一緒に踊っていた男が文句を言った。彼は商人で、アリーの商会とは違うものを扱っているが、よく市場や街道で顔を逢わせることが多い商人仲間の一人だ。彼も妙齢の独身男性として王城に招待されたようだ。
「ごめんってば、よそ見してたわ」
「……」
彼はグイっとアリーの腰を引き寄せると、顔を近づけた。
「な!何よ?」
アリーは目の前に迫った彼の顔がキスされそうなほど近くて、少し取り乱した。
「次、俺とダンスしてる時に他の奴見たら、キスしてやるからな」
「……は?!」
身勝手な言い分と強引さに、アリーの心臓は急にドキリと跳ねた。だけど、悪い気はしなかった。
「本当に…人のことばっか考えて…もう少し自分の事を気にしろよな…ったく…」
男がブツブツ文句を言っているが、アリーは今まであまり意識しないようにしていたものが決壊したように胸が苦しくて、相手の顔も見れずにダンスする足元だけ見つめていた。
アリーの顔が段々と赤く染まっていくのに気付いたのか、商人の彼も急に無言になり自分がさっき何を言ったのか、冷静になって赤面し始めたのだった。
正面玄関から夜会会場のある大広間へ速足で歩いている途中、エラは大回廊の前で王城に住み着く白い猫に呼び止められた。
『ねぇ、魔女?魔女でしょ?あなた』
白い猫は魔女という存在を初めて見るのか、目を真ん丸にしてエラに話しかけてきた。
「あら、ネコちゃん。ええ、まだまだ修行中だけどね」
少し急いでいたけど、こういう時動物の話を聞くのはエラにとって当たり前の事なのだ。
『ねぇ、可哀そうな子がいるのよ。ちょっと来てくれない?』
白い猫は案内したい方向に身を翻すと、こっちに来いと白くて長いしっぽを揺らした。
「?」
傷ついた動物でもいるのだろうか?不思議な気持ちでエラは猫の後を追った。
大回廊から外れ、庭園を抜けてバラ園の先、大きな木にブランコが取り付けられていた。王族の子供が使っていたのだろうが、今は小さな座面に無理矢理体格の大きな大人が座って足を動かしブラブラと揺れていた。
俯く男性の背中は曲がって、哀愁が漂っていた。
ここまで案内してきた猫は、『この子よ。可哀そうなの』と小さくニャーと鳴き、そのままどこかへと歩いて行った。
白い猫の泣き声にブランコに座っている人はその方向を見たが、すぐにまた俯いてしまう。
「あの、こんなところでどうなさったのですか?」
夜に人がくることもない場所で、身を縮こませるように小さなブランコに所在なさげに座る男性。彼は立派な正装をしている。高位貴族というものなのかもしれない。エラは貴族の事はよく分からないから、予想だが。
彼の諦めたような悲しい表情は月夜のはっきりしない視界でも分かった。
「誰だ?今日の夜会の参加者か?」
男性の声は凛々しく、低いのに良く通る良い声だ。
「はい」
「ここに何をしに来た?」
「……散歩です」
白い猫に連れて来られたとは言えず、エラは適当に嘘をついた。
「そうか、私は不審者ではない。気にしないで通り過ぎてくれ」
けんもほろろに男性は自分の事は何も言わない。
ぶっきらぼうな返答だったが、エラは今日とてもいい気分だったのだ。
ドリー義姉さんの足を治すことができたし、無事に夜会に間に合った。だから気が大きくなっている。ブランコがぶら下がっている木の根元まで行くと笑顔で彼に話しかけた。
「もし、何か困った事があるなら話を聞きますよ。人に話すだけでも気が軽くなることってありますよね」
王城では今素敵なパーティが開かれている。なのにこんなところで1人で落ち込んでいる人がいるのだ。気にせず放っておくことはエラには無理な事だった。
「ははっ、困ったことだらけさ」
男性は手をヒラヒラさせて、乾いた声を出した。
「でも、君に話したところで何も解決しない。それは私には分かる。だから、もう行ってくれ」
「えー…そうですか…でも、話は聞きますよ?」
エラは食い下がった。
男性は苛ついたのか、笑いだした。
「ははは!解決できないのにか?君に話したところで意味がないだろう?」
彼の声からは焦燥感がにじみ出て、怒りの響きさえ含んでいた。
「でも……」
「もういいよ!どこかに行ってくれよ!もしかして、誰かに言われてきたのか?迷惑だっ」
「……?」
「どうせ…誰にも治せない…」
彼は小さく呟いたけど、エラの耳には届いた。
「っ!……私、良い薬もってるわよ!」
豪奢な正装をしている男が今にも消えてしまいそうで、もしかしたらエラが去った後自分を傷つけるような事をしそうな雰囲気で。弾かれた様に口から言葉が出てしまいエラは自分でも驚いた。彼が発する空気は、エラの心をいつもより大胆にさせた。
エラは義姉の予後が心配だったので、念のためエリーを直した薬の残りを持って来ていた。彼に効くかどうかはまだ分からないが、魔法の薬は少し呪文を変えると色んな物に使えると魔術書に書いてあったのだ。
ドレスに魔法で縫い付けたポケットの中の小瓶を握りしめる。
「薬なんかで治るものか!…私が今までどれだけ色んな事を試したと…っ!」
男は苛ついて、立ち上がり大きな声を出した。
「私は、……私は男性として機能しないんだ!」
「……!!」
大声で男性がとんでもないことを言い、エラは声を失った。
エラはいつも家の事と魔法の訓練をしているので親しい男性などおらず、男女の事は疎く、年上の義姉たちが聞かせてくれる話が全てだったし、その二人もあまり派手な異性との交流はない。
だが平民は下世話な話が自然に耳に入るのでだいたいの知識はある。
「今まで一度も反応しないんだ!こんなっ!男として、人としての欠陥なんてっ…誰が治せるんだっ!」
自分の抱える問題を知られたら、きっと軽蔑される。そう思うあまり、一人で庭園に逃げてきたのだろう。
「だから!あっちに行ってくれ!」
静まり返った王城のはずれで彼の声が響き渡った。引き絞るような掠れた声で彼の心の叫びのようだった。
「今まで、私がどれだけの医師や薬師に相談したと思う? 誰にも治せなかったんだ。だから、もう放っておいてくれ!」
静まり返った王城のはずれに、彼の掠れた声が響いた。引き絞るようなその声は、彼の心からの叫びのようだった。
エラは彼の肩にそっと手を置いた。
「私を信じて」
エラは魔法で薬の反応を見るために魔力を通す。
ポケットの小瓶を取り出すと、それは虹色に輝き、暗い庭園の中で仄かな光を放っていた。
「な…なんだそれ?」
「魔法の薬よ。これで義姉の動かない足を治したわ」
「魔法の…薬…?」
男性は目を大きく開いて、エラの顔と魔法の薬を交互に見比べていた。この国には魔女はいないと言われている。魔法に馴染みのない彼らには簡単に信頼できない事かもしれない。
「効果が無くても塗って毒にならないから、安心して。作った私が言うのだからそこは保証するわ」
「君が…魔女か?隣国にはいるというが…?」
「ええ、修行中だけどね」
「魔女…魔女か…魔法は頼ろうと思っていなかったな…」
男性は少し逡巡してから、
「わかった。その薬を使ってみる」
と了承した。
しかし、しばらくしてからブランコがある大きな木のあたりでこんな会話が繰り広げられていた。
「いやいやいやいや、なんで君が塗るんだ!?自分で塗るよ!」
「私が患部に塗って、魔力を通さないとダメなの!」
「えええ!??」
「もう!早く脱いで!出して!こっちだって恥ずかしいんだからっ」
「わ…わかった」
「うわ…男の人ってこんなのついてるのね…」
「ううう…恥ずかしい…」
そしてその辺り一帯が男性の下半身を中心に光り輝き、暗がりの庭園は、一瞬真っ白に光った。
「……ああ。今までと、全然違う……これが、これが……」
彼の瞳に、みるみる涙が浮かんでくる。
「治った……のか?」
「うまく魔力が流れるようになったと思うわ。少し様子を見て、無理はしないでね」
「本当に……ありがとう」
男性は肩で息をしながら、信じられないという顔で何度も自分の下半身を見つめていた。先ほどまで絶望に沈んでいた表情に、少しずつ安堵と喜びが戻ってくる。
そしてなにやら入念にチェックをしていた。
「これで、もう大丈夫かしら?」
「ああ……君のおかげだ。何と礼を言えばいいのか……」
「お、お礼はともかく、それを直してもらえる?」
「あっ!……ああ」
すごい勢いで恥ずかしさがこみ上げたのか、彼は赤い顔でトラウザーを引き上げた。
そして男性は立ち上がり、木に掛けてあった上着を羽織り、何かを肩に掛けた。
ん?
よくよく見てみると、彼が無造作に肩に掛けた布はサッシュだ。この国の伝統織物に王家の家紋が付いていて、勲章がいくつか……
エラは背中に冷たい汗が流れるのを感じ、その場で凍りついた。
「君と話がしたいんだ。とりあえず飲み物でも飲みに、会場へ行こうか」
彼はきちんと手袋をはめると、エラに手を差し出した。
エラはこの時、自分が助けた相手が王子だと気づいた。もし身分を知っていたら、こんなふうに気軽に声を掛けることなどできなかっただろう。エラは差し出された手を取るべきか迷ったが、彼のまっすぐな眼差しに促され、少し震えながら手を重ねた。
彼はエラと違い、勝手知ったる王城の庭園を真っ直ぐに突っ切り、回廊から大広間までエラを連れて行った。
侍従が彼を見つけると扉を開け、彼とエラが大広間に姿を現すと舞踏会の会場は、彼に気付いた周りから波打つように騒めいた。
「王子だ」「あれが王子様よ」「王子だって」「いらしたわっ」「彼女はどちらの令嬢?」「まあ…素敵」
という囁きが重なった音がエラには聞こえた。
「お…王子様…あの…」エラがまごまごしていると、王子は近づいてきた忠臣に一言何かつぶやく。
彼は心得た顔で、二人分の果実酒をエラと王子に持って来た。
一杯をすぐ飲み干すと、王子は美しい笑顔を彼女に見せてから、大広間の中央で跪いた。
ひぃぃぃぃ!!!
王子が自分の前で跪くなんて考えたことも無かったエラはブルブルと震えた。持っていたグラスを取り落としそうにするとさっきの臣下の人が横からスっと空になったグラスを引き取ってくれた。
「どうか、私とダンスを踊ってくださいませんか?」
彼は真剣な顔で手を差し出して、こちらを見ている。
会場中、皆が固唾を呑んでこちらを注目していた。
彼がまっすぐにこちらを見つめるので、心臓がうるさい。
エラは生まれて初めて受けるたくさんの視線に気がおかしくなりそうだったが、震えながら彼の手を取った。
彼はじっとエラの視線を外せないように絡ませながら、ダンスをリードし始めた。
エラは小さい頃父に遊びながらダンスを少しだけ習っただけだったが、王子はダンスのリードがとても上手だったので、彼の顔を見ているだけで不思議と踊れた。
ダンスをしているとさっき悲しんで諦めていた彼の顔や、驚いた顔、色んな表情を思い出し、伝わる体温と香りにエラの体も火照るような心地がした。治療で見てしまった大事なものはそっと忘れようと思う。
大広間のシャンデリアの下で見る彼はとても素敵で、雄々しくも優雅な雰囲気を持つ貴公子だった。
彼の個人的な問題が解決したことにより、自信が急に持てるようになったのか、とても逞しく感じるし、エラは緊張のせいだけでなくドキドキと胸を高鳴らせていた。
「あの…、私の『問題』を解決してくれて、ありがとう」
ダンスをしながら二人は会話をした。
「いえいえ、たまたま薬を持ち歩いていたので、良かったです」
「魔法とは凄いものだな」
「ええ。でも奥が深くて、今日もギリギリまで失敗続きで…」
「そうなのか」
「ふふ。いつも調合を失敗して、部屋で爆発をおこしてるんです」
「ははは」
彼が笑うと、エラの胸がキュっと締め付けられる。
「今日の舞踏会までに義姉の足を治してあげたかったんです」
「ほう。お姉さんも治せたのか…魔法っていうのは凄いな」
「難しいですけれどね。義姉さん…会場にいるかしら…」
エラは踊りながら周りを見渡していた。アリーもドリーもドレスを覚えているので、見つけられると思うが踊りながら人を探すのは難しかった。
義姉さんたちはとても美人で優しくて…王子様だって目を奪われるかも知れない。
だけど、今王子と踊っているのは自分で…あぁ…どうしよう…
エラは王子と目を合わせる度に身の程知らずな欲望が芽生えた。澄み切った空の様な青い目、彼の瞳に私が映っている。もしかしたら、もしかしたら…
魔法で体を治した事の感謝以上のなにかを、彼から向けられている?
彼がダンスで引き寄せる強さに、その眼差しに、エラの心はドキドキと忙しなくなる。
ダンスの曲が終わっても彼はエラの手を離してくれなかった。
少し距離の開いたところで、とても豪奢なドレスを纏った令嬢達が彼のダンスの順番を待っているようだが、王子はずっとエラの手を離さない。
「あの…」
エラがチクチクと刺さる女性たちの視線を気にして、彼を仰げば、そこには美しい笑顔があった。
王子様の笑顔ったら…っ
「ね?もう一曲いいかな?」
「え…ええっ!…でも…」
エラの返事も聞かずに、彼はまた中央までエラを連れて行ってしまう。
チラリと義姉達のドレスの色が見えた気がするけれど、声を掛ける暇もないうちに、次のダンスの曲が始まってしまった。
羨望と嫉妬の視線を受けながらエラは王子とダンスを始める。
だけど、彼とダンスをしていると、まるで何も怖くなかった。彼はそんな視線も跳ね返すように彼女を綺麗にターンさせ、美しく躍らせてくれた。
「君にお礼をしないといけないね」
「あ…そ…そんな…恐れ多いです」
エラはふと実家の事業の借金の事を考えた。…金一封でも助かるかも知れない…
「遠慮しないで。ね?名前を教えてくれないかな?」
「あ……」
その時、ピシっとエラの魔力に亀裂が入った。静電気が走るような危険を感じた。
母の墓から魔力を補給してから、魔法で馬車を変身させ、ドレスアップなどを維持し続ける魔力は常に使い続けている。そのうえで王子の治療に使った魔力。
さらにダンスする前に飲んだ果実酒もエラの体から魔力を奪い続けているようだ。
ここにきて急激に魔力が減り、エラは銀色に輝くドレスの端に少し煤がついているのに気付いた。
あ、駄目…ドレスが灰だらけに戻ってしまう…っ
エラは彼の手を振りほどいて、人をかき分けて大広間から逃げだした。
「待って!…待ってくれ!」
後ろから彼の声が追いかけてくるが、エラは風の様に大回廊から中央門まで走った。
エラは最初にかけたドレスへの魔法が解け、灰を纏った状態でカボチャで作った馬車に乗り込んだ。
この馬車もあと何分持つか…
馬はエラの心を読み取り、大きく嘶くと、全速力で走ってくれた。
王子は中央門の前で呆然と逃げ出した彼女の馬車を見送っていた。
エラの思った通り、走り出した馬車は数キロ先で忽然と姿を消したのだった。
義母と義姉二人は夜会が終わった夜遅くに帰ってきた。義母はどこか色っぽく疲弊していて、義姉二人は薔薇色に頬を染めて。
エラは、魔力が完全に切れた状態で、変身の解けた動物たちと一緒に徒歩で先に帰宅していた。服は灰だらけになり、髪も熱で縮れた状態に戻っていた。
義母や義姉達はそれぞれ自分たちの事でいっぱいいっぱいで、王子やエラの事に気づいていなかったらしい。
エラは王子と踊った事も、もちろん王子の悩みを魔法で治療したことも彼女達には言えなかった。
いくら落ち込んでいる人を助けたと言っても、見ず知らずの男性の体に触れて治療するなんて、自分でも大胆なことをしでかしたものだと思う。異性との接し方はあまり知らないけれど、あの時は彼を助けたい一心だったのだ。
でも……
あの消えてしまいそうだった彼がエラが魔法を使って治療すると、とても喜んでくれた。みるみる自信を復活させてエラに心からの美しい笑顔を見せてくれて…
治療が成功した時の安堵した表情と、ダンス中に伝わった逞しい体温……
エラを覗き込む彼の澄み切った青い目を思い出してはエラは夢の中にいたのではないかと感じた。
一夜の夢。
王子様とダンスする夢を叶えて、エラはまた日常に戻った。
しかし、あの一晩はエラ達家族の運命を変えていたのだった。
その変化はすぐに彼女たちの生活を少しずつ変えていく。
「娘達、私再婚することにしたの」
「え?」
夜会の3日後、晩餐の席で義母リリーは少し恥ずかしそうに娘達に告白した。
曰く、夜会でとある紳士に見初められ意気投合(?)して、あっという間にプロポーズされたと言う事だ。
紳士は海軍将校で、早くに奥さんを亡くし、息子はもう成人して家を離れているので、この数年は独りで寂しい生活をしていたようだ。
「まあ!なんて素敵なのかしら!」
アリーは声を弾ませた。
「あ…あなた達が嫌なら……結婚は、もう少し待ってもらってもいい…のよ?」
義母リリーは真っ赤になった頬を押さえながら恥ずかしそうにモジモジと言う。
「お義母様、でも先方は借金の事をご存知なのですか?」
ドリーは気になったのか、心配気に母に質問した。
借金はエラの父が作ったようなものなので、エラは思わず身をすくめた。
リリーは目を三日月型にして笑う。
「ホホホ。心配ご無用よ。彼ったら元々伯爵家の出なの。私も借金があるから結婚に渋ってたんだけど、たんまり貯えてるから、気にするなって。娘3人も面倒見てくれるって、男らしく言ってくれて。ホホホ」
義母リリーは頬を薔薇色にして、幸せを振りまいていた。
そういえば昨日からエラの家に3人のメイドが雇われてきたのだ。
今席に着いている晩餐のメニューも慎ましいながらもしっかりとした量があった。
「あ、あの!私も…その、報告があります。」
義姉アリーが小さく手を挙げた。
幸せな雰囲気のまま、親子3人はアリーに注目した。
アリーもポッと頬を赤くさせて、小さな声で言った。
「わ、私も結婚を前提にお付き合いする人が出来ました…」
その報告で女たちは興奮してキャー!と叫んだ。
「どんな方?」
「知ってる人?」
「夜会でなにがあったの?」
4人の親子はキャアキャアと騒いでしまう。
その時、エラ達の家のドアノッカーが叩かれていた。
話に夢中になっていた4人には聞こえなかったが、メイドが彼女達に「お客様です」と伝えてくれた。
「アインシュゼイン侯爵家からの書状をお持ちしました。カデホ・ドリー様とそのご家族様に」
侯爵家の従者は恭しく片膝をつくと、家長であるリリーの前にその書状やらを掲げた。
「え?」
受け取った義母リリーは不思議そうにその手紙の封蝋を見つめている。
「確かにお届けいたしました。内容をお確かめになるまで、私はこちらで控えさせていただきます」
従者は彼の仕事を全うするため、リリーたちの側で直立していた。彼はこの家で確かにこの手紙を読まれたと確認するまで帰ることができない立場なのだ。
リリーは『侯爵家』という上位貴族の名前に冷や汗をかいているようだ。
ドリーを含む娘達も各々が前の夜会や他のことで貴族様のご機嫌を損ねた事があったかと恐々として、開封するのを待った。
「え?婚約申し込み?ドリーに?え?ええ?!」
「私?」
ドリーは震えながら、書状を受け取る。
一通り読み込んだ彼女は顔を上げて、「もしかして、ブルー?」と従者に伺う。
「ええ。ブルー様は、正確にはアインシュゼイン・フォン・ド・ブルーノ様でございます。アインシュゼイン家の二人目のご子息にございます」
従者は胸に手を当てて、キッパリと言う。
ドリーは恐れのあまり、卒倒した。
卒倒したドリーを介抱し、従者を見送り、ドリーから話を聞くと、夜会でブルーというダンスの上手い青年と沢山話をしたという。
ダンスの誘いはドリーがダンスを出来ず断ったのに、彼は気を悪くもせず、気さくに話してくれたという話だ。
ブルーと名乗っていた彼が、まさか侯爵家の子息だったとは思っていなかったドリーは驚きすぎて、卒倒してしまった様だ。
エラはあの夜会で義母や義姉達がそれぞれ素敵な人たちとの縁を繋ぐことになって嬉しかった。
対して自分は王子を半ば強引に治療し、一緒にダンスを踊るまでは良かったが、途中で逃げるように帰ってしまったのだ。自分の名前も名乗った覚えがない。
なんだろう…私は王子にとって嵐のような存在だったのかも知れない…
エラは王子の熱っぽい視線を思い出した。澄んだ青空のような色の瞳で、じっとこちらを見つめる目。つい彼の事を思い出すと、エラは魔法の実験を失敗させてしまう。
今日も煤と灰を被り、エラは独り庭に出て魔法で身を清めるのであった。
義母リリーが海軍将校の紳士と結婚するのを目前に迎えていたある日、侯爵家の貴公子との婚約をしたドリーは買い物を兼ねて市街で散歩をしていた。
ドリーの足が治り、好きに外に出ることができるようになって、体力をつけるために沢山歩くことにしているのだ。姉やエラに教えてもらってダンスの練習もしている。あのダンスが上手いブルーと沢山踊ってみたいからだ。
贔屓にしている生鮮食料店にて買い物をしているドリーの耳に王城での夜会の話が飛び込んで来た。
「王子様が……らしいわ」
「ダンスして…」
「夜会で知り合った…」
年期の入ったおば様達がイキイキと噂話をしている。いくつになっても女性は噂話や王子様の話が大好物なのだ。
「ねぇ、女将さん、あれは何の話をしているの?」
食料店の女将にドリーが問うと、女将は楽しそうに口の端を上げて教えてくれた。
「あんた知らないのかい?お城の夜会で王子様が見初めた女の子がいるんだけど、彼女ったら名前も言わずに帰ったものだから、誰も彼女の事を知らないのさ。今王子様が彼女の行方を捜していらっしゃるんだって」
「ええ?!」
ドリーは王子様と誰かが噂になっていた事も知らなかったので、興味津々でその話に食いついた。
「今、その令嬢の話でもちきりさ、皆着飾っていただろう…だからお化粧で変わっていることもあるし、たしか…何かの手がかりを使って探しているらしいよ」
「まぁ…そうなの…一体何を手掛かりに探してるのかしらねぇ…」
ドリーはワクワクとどんな女性だったのか考えていた。
家に帰ってこの話をすると、母のリリーは噂を知っていたのか特に驚いた様子もなく、アリーは興味深げに、エラは表情を無くした顔をした。三者三様の反応にドリーは笑った。
特にエラは王子様に憧れがあったのか、ドリーは彼女の反応が少し気になった。
エラはその話を聞いて、もしかして彼が私を探しているのは「口封じ」のためなのではないかという疑心を抱いた。王族の秘密を知ってしまった「魔女」を捕まえるために探しているのでは…?
そもそもこの国に魔女はいない、それは魔女がいてはなにか問題があるのかもしれない。義家族は魔女のエラを気味悪がることもなく受け入れてくれたが、すべての人がそうであるとは限らない。
エラは怖くなったのでしばらく家の中でも家族以外に魔法を見せないように過ごそうと思った。
だけど、ダンスをしている時の朗らかな彼の声、優しい笑顔を思い出しては、ほうっとため息を吐く……
とにかく、エラは自分から名乗り出ることはできなかった。家族にもそれは伝える事は出来なかったのだ。
いよいよリリーの結婚とドリーの婚約式が行われる目前になったある日、エラ達の家にお城からの従者がやって来た。
甲冑を付けた騎士2人と城の侍従が2人。
エラ達の家に訪問し、格式ばった口調で王宮からの要件を述べた。
応接間にて彼らを迎えた女ばかりの一家は、遂にあの女性の調査が家にも来たのかと好奇心と驚きを隠せないでいた。
だが一人、エラは少し震えながら、彼らは何を手がかりに調べに来たのか恐々としていた。ちなみに今日も調合に少し失敗して服に煤が着いてしまっているが魔法で洗い落とすのには時間がかかるため、透明に色を変えて隠している。
「先日の王城主催の夜会の参加者を探している。探し人の令嬢はこのグローブにぴったりと合う手をしていると言う事だ。御宅のご令嬢達の年齢が近いと言う事でここに参じた」
甲冑を付けた騎士が従者の後ろで、そのグローブを仰々しい装飾の箱から出した。
あのグローブは…
間違いなくエラが着用していたものだ。そうか……治療する時に薬を手で塗らないといけなかったから、外してどこかの木に掛けたまま、すっかり忘れてしまっていた。
「さあ、ご令嬢達、このグローブを装着してみてください。」
「あ、…はい」
アリーは従者の近くに立っていたので、彼らからそれを差し出され、緊張しながら手に取った。
だが、アリーは自分の手袋は別にあるし、家に持ち帰っているので、フルフルと首を振った。
「使者様。私のグローブはちゃんと家に持ち帰っております。それに、見てくださいな。手を当てたらわかるくらい私には小さいですわ」
従者は彼女の返答を聞き、後ろに立っているドリーに目配せした。
アリーはなんだか見覚えのある薄手の手袋を後ろに立っている妹に渡す。
「…この手袋…私も違いますが…この刺繍は、…私がエラのために刺したものに似ています……私、彼女の使い魔を刺したのです」
息を詰め、ドリーはグローブに刺した自作の刺繍を撫でた。
「これは、エラのじゃ……ないの?」
従者は驚いて声を上げた。
「エラとは?」
ドリーがエラを見たことにより、全員の視線が刺さったエラは緊張と混乱で何も言えなくなった。
「……」
「どうぞ」
彼女が何もしないので、甲冑の騎士の一人がドリーから受け取ったグローブをエラに渡してくる。
「い…嫌です。私、怖い…」
エラはグローブをつけようとしない。思わず拒否の言葉が口から出ていた。
相手は王子様だし、魔女だから他の人には受け入れられないかもしれない。その恐怖だった。
「大丈夫ですよ。悪い事はありません。王子の恩人を探しているのです。ですが、王族と近づきたい人は沢山いますから、容姿の似た偽物も多くてこの手袋を使って精査しているのです」
甲冑の中から騎士の優しい声が響いた。
エラは顔を上げて彼から渡されたグローブを見た。
「王子はその人に助けられ、彼女に恋に落ちたのです。一日だって彼女の事が頭から離れないでいる」
聞いた事のある低い声にエラは目を見開いた。
クローズヘルムの隙間から、彼の青空のような目が輝いている。
エラは無言で彼から受け取ったグローブに手を入れる。
義母と義姉達は紅潮した顔をして、その様子を見守っていた。
エラの小さな手、華奢な指に合わせられ少し親指と薬指を彼女のために短くしていたそのグローブは、いとも容易く、だけどピタリと手に合わさる。ドリーの刺繍でエラの使い魔達が綺麗に同じ色で刺されているのだ。よく見るとそれはネズミと鳥とウサギだ。
「ああっ!エラ……エラというのだな」
カチャリと、クローズヘルムのバイザーを上げて顔を出した彼は王子であった。
「君に会いたかった!」
「ごめんなさい。得体の知らない魔女が、差し出がましいことをしたと咎められたらと思って…私…私怖くて………でも、私もまた貴方に会いたかった」
王子は甲冑のままエラを離さないとばかりに優しく彼女を包んだ。
「そんな…君は私を治してくれたのに。それにあの時なぜ…なぜ逃げたのだ?」
彼の悲しそうな顔にエラも涙を浮かべた。
「ごめんなさい。ごめんなさい!その日は魔法の力が残り少なくて…もう姿を維持するのに魔力が無くて…こんな感じになっちゃうから…」
エラは自分にかけていた魔法を解いて、灰だらけの服と顔と縮れた髪を元に戻した。
途端に汚らしく姿を変えたエラを見た王子は目を丸くした。
「あはは」
そして、大きな声で笑い飛ばした。
従者達ともう一人の騎士は急に灰色に姿を変えたエラに驚いたのか体をびくつかせている。
「エラ。あの日も本当は真っ黒だったものね…」と、ドリーが眉間に皺を寄せていた。
「あっははは!なんて汚い!なんて愛らしい!よく見せて、探していた君の顔をもっと見せてくれる?」
灰と煤で汚れた顔をゆっくりと手で擦られ、王子は額をエラの額にくっ付けた。
エラは目を細めて、心の澱を取り除かれさっぱりとした笑顔を向けてくれる彼を見た。
背中を丸めて暗く絶望していた彼はそこにはもういなくて、本来の魅力的な部分が発露し、光り輝くような素敵な王子となっていた。
「ありがとうエラ。そしてどうか僕の妃になってくれないか?君の事が忘れられないんだ」
「…わ、私も…あなたの事を思い出して…ました」
「エラ……エラッ」
王子は感無量で甲冑のまま彼女を抱きしめていた。
従者は「王子!汚れます!」と諫めていたが、彼を止めることはできなかった。
王子は甲冑と彼の顔を黒くしながらも構わずエラを離さない。
一度彼女を逃してしまった経験からなのだろうが、頑なに離れる事を拒絶し、彼はその日のうちにエラを王城に連れ帰ってしまった。
あっという間にエラを連れて行かれ、残された3人の義家族は最後まで口をポカンと開けて呆然としていた。
王城に着くまで、王子はエラの手を離さず、何度も感謝の言葉を伝えた。時折、彼の顔がすぐ近くに来るたび、エラは頬をリンゴのように真っ赤に染めてしまうのだった。
かくして、エラは王子に望まれ、無事に結婚することになったのである。
このちょっと変わった妃は魔法を使い、国中に恩恵をもたらしたという。
しかし城の魔法実験室から出てくる彼女はいつも灰をかぶっていたため、灰かぶり姫と言われ、国民から親しまれていたという。
お読みいただき有難うございます!
こちらはムーンライトノベルズで投稿した同題の全年齢版になります。
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