その2
その2です。
イングリッド楽しみですね。
のじゃロリ早く使いたいなあ。
「こんにちは」
その女性は、倒れこんだままの俺にひらひらと手を振った。
俺は何も言葉が出ない。
「何しているの? その姿勢変だよ?」
いや、変も何も突然のことで頭が追い付かないのだが。
彼女は女神だろう。
そうとしか言えないくらいの美貌に、服装だった。
身長は俺と同じくらいだろうか。
すらりと伸びた手足、華奢な体。
さらさらとしたなめらかな手触りを想像させる、薄く白い布にその身を包んでいる。
手首には豪奢な金のブレスレット、淡いピンク色の髪の頭上には白い花でできた冠が載っている。
ここは何だ?
俺はどうなった?
トラックに轢かれて死んだのでは?
というかこのコスプレ女は何だ?
湧き出る疑問で頭はパンク寸前なのだが。
彼女は、まさに今気が付いた! と言わんばかりの表情を浮かべると、ふふ、と笑った。
「そうだよね。普通混乱するよね」
ごめんねー、と言いながら俺に手招きする。
「ねえねえ、こっちおいでよ。説明してあげる」
彼女は自分のいる場所から動く気はないようだ。
白く、どこまでも広がる謎の空間。
僕の目の前には手すりも何もない緩やかな階段がある。
その上り切った先には、映画でしか見たことのないような、横にひどく長い木のテーブル。
そして……あれは何だ?
この荘厳な空間に似つかわしくない現代技術の結晶が置かれている。
テレビだ。
いや、テレビというよりはモニターだろうか。
アンテナ線なんてここのどこを探してもなさそうだし、何より、なんとなく見覚えがあった。
俺は身を起こす。
驚いたことに痛みは感じなかった。
俺は階段を上り、彼女のもとに向かう。
足音が僕の足元から生まれた瞬間、空間に吸い込まれていく。
どこにも壁がないようだ。
天井らしきものも見えない。
ここを照らす光がどこから来ているのかも分からない。
ただ全ては柔らかな光に包まれている。
下手をすると、俺の踏みしめているこの白い床自体も、うっすらと発光している気がする。
「やっほー」
彼女は満面の笑みで俺を迎え入れた。
やっほーって……。
あっけらかんとした彼女の言動に、俺は何か気が抜けてしまう。
「ほら座って座って」
彼女はこれまた荘厳なオーラを感じる、木製の椅子を引くと俺に座るよう勧めた。
俺は促されるまま腰かけた。
「あの、聞きたいんですけど、これ何ですか?」
これ何ですか?
我ながら間抜けな質問だ。
でもさ仕方ないだろう。
だってそう聞くしかないんだもの。
何一つ分からない。
ここに来た経緯も、この不思議な空間も、この目の前でにこにこしているコスプレ女も上手く言語化なんて出来やしない。
だからこんな的を射ない質問になってしまった。
「あとなんでコスプレしているんですか?」
俺は率直な質問を投げかける。
「コスプレじゃないし。ちゃんとした私服だし」
少しむっとした表情を見せる。
あ、私服なんだそれ。
「私ね、女神。アナスタシアって言います。よろしくね」
彼女は敬礼するように、片手をびしっとこめかみにかざす。
「ど、どうも」
俺も会釈で挨拶を返す。
「俺は久礼斗って言います。大崎久礼斗」
「久礼斗さん……クレトね」
良い名前じゃない、と彼女は言った。
「ねえ、クレトはさあ、驚いているよね?」
あ、私の事も呼び捨てで良いよ、と何でもないことのように付け加えた。
「ええ……そりゃもう」
俺は言う。
「質問ばっかりになっちゃうと思いますけど」
前置きをして、
「これって夢ですか?」
ひとまず確認をするべきだろう。
もしかしたら全てが俺の見ている夢かもしれない。
大会で負けた俺が現実逃避のために見ている夢なのかもしれない。
本物の俺は今頃ベッドの上で、泥のように眠っているのかもしれないのだ。
こんな得体のしれない女の言葉を信じてしまうのもあれだが。
「夢じゃないよ」
まあ、一種の夢と言えば夢かもしれないけど。
彼女は言って、指を鳴らした。
「試してみる?」
俺の右側から何か圧を感じる。
ただならぬ予感に俺は横を見やる。
俺はそれが何かを理解した時には、すでに宙を飛んでいた。
俺のはるか下方に彼女はいた。
俺のいた場所をトラックが猛スピードで通り過ぎていった。
引き裂かれたような恐ろしいほどの激痛を覚える。
だが、それもほんの一瞬の出来事。
次に瞬きをした時には、俺は何事もなかったように彼女の前に座っていた。
思考が追い付かない。
「ほら、人間って夢から覚めるとき、自分のことを痛めつけるでしょ」
「ええ……」
ツッコミも追いつかない。
「どう、夢から覚めた?」
「いや、覚めてはいないですけど……」
「なら夢じゃないってことは分かったね」
ふふんと何やら得意げだ。
おそらく、これが女神風のやり方って言うことなんだろう。
「次にする時は俺風でお願いできます?」
まだ違和感の残る体をさすりながら言うと、彼女は不思議そうな顔をした。
クレイジー……。
良いと思ったんだけどなあと、のたまうクレイジー女はまあもうこの際置いておくとしよう。
「夢じゃないってことが分かったら、次は何を聞きたい? あ、やっぱりクレトは死んでしまったのか、とか?」
彼女はにこにこと続ける。
顔だけ見れば絶世の美女がささやきかけているという、この上なく絵になるワンシーンなのだが。
そんな余裕のない俺はうんざりした顔で、
「そりゃそうですよ」
と彼女に言った。
「俺は死んだんですか?」
「死んだよ」
彼女はあっさりと答えた。
「トラックに押しつぶされてグシャアよ」
言い方!
俺はその瞬間を想像してしまうが、何とか押しとどめた。
「ここはね、大方予想はついていると思うけど、死後の世界」
彼女は言う。
「そして、私はここの管理人ってわけ」
この果てしない白い世界の先にある、深淵の世界からあなたを拾い上げたってわけ。
「あなたは私に選ばれたの。クレトはねもう一回、生を謳歌することができるわ」
「生を謳歌するってどういうことですか?」
「聞いたことない? 転生って言葉」
転生……。
「……漫画とかアニメの中でなら」
「聞いたことがあるなら話は早いね」
クレトはこれから転生するの。
そう彼女は言った。
「……信じられませんよ」
「そう? 今しがたあんなことされたのに?」
「夢の中なら何だって可能です」
往生際が悪いなあ。
彼女は唇を尖らせて言った。
こんな得体のしれない女の言葉を信じることなんてできないだろう。
「でも、あなたと話せて良かったです。俺落ち込んでいたんです」
それは偽らざる本心だった。
彼女は、はて? と言った顔をする。
「人生で一番嫌なことがあって、考え込んでいたんです」
女神さまには分からないでしょうけど、と俺は言った。
「あなたと話せて気がまぎれました。ちょっと楽しかったです」
「ふうん」
彼女は、よく分からないけど? と言った顔を見せながらも、俺の言葉ににっこりと笑うと、
「なら良かった」
と言った。
「じゃあさ、もうちょっと楽しもうよ」
彼女は俺に何かを差し出す。
「転生まで時間がかかるからさ。これ気になってたでしょ?」
あえて目に入れないようにしていたやつだ。
それはゲーム機のコントローラーだった。
俺がそのボタンを押すと、テーブルの上に置かれていたモニターの画面に映像が映し出された。
俺がずっとプレイしていたゲーム。
二度とすることはないと誓ったゲーム。
「最近はまっちゃってさあ。でも相手がいなくて退屈だったんだよねえ」
彼女は言う。
神様もゲームするんだ。
しかも格闘ゲーム。武闘派だね。
「クレトを助けたんだし、私に感謝してるんだったら付き合ってよ」
こんなすぐにまたプレイすることになるとは。
俺は目をつぶる。
「良いですけど、俺強いですよ」
「ええー少しくらい接待してよー」
「パッドの時点でハンデです。ひとまず三先で良いですか?」
その時俺はまだ知らなかった。
これが神様との戦いの幕開けだということに。
ラウンドワン。
ファイト!




