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女子社員は、落ち込む同僚にトドメを刺す。

作者: 幻邏
掲載日:2026/03/03


 今日の俺、営業部全体の社外研修のため、お弁当ではなく外食となる。

 物価高騰前の感覚が抜けてないこともあり、お外ランチが高級食みたいになってる気がしてしまう。


 たまには、外食でテンション上げたら? なんてカミさんは言ってたが、カミさんの飯に敵うものを食うのって、なかなか出会った事ないんだよな。

 まぁ、俺の健康と好みを考えてくれているから、当然で必然だよな。

 夕飯を楽しみに、昼は乗り切ろう。


 注文はタッチパネルでっ……と。

 ランチセットAは、カキフライ定食か。タルタルついてるな。よし、これにしよう。



「んで、どうしたよ?」


 おや? この声は宮原。昼食をとる店がカブってたのか……。

 後ろから彼女の声が聞こえる。席の背もたれってか、パーテーションあるから見えないだろうけど。


「それがさぁ……」


 あれ、この声は原田……。社外研修していた営業部3人、店カブる。


「ガチ推ししてたMチューバーのルカナちゃんが、電撃引退しちまって……」


 えーと、えむちゅーばーって、ミラージュ・ヨーチューバーの事だったよな、たしか。

 アニメっぽい絵の子を自分に当てはめて、なんやかんやしてる。そんなイメージの。よくわかんないけど。


「はー? そんなんで、研修中、心ここに在らず状態だったの? バカなの?」


 宮原、キツイよ。ペットロスみたいな雰囲気、感じ取ってやれよ。ペットロスと一緒かはわかんないけど。


「バカって……ルカルカは、オレにとって生活の一部なんだぞ!」

「知るか! 生活と仕事は切り分けろ」


 宮原、キツイよ。

 同僚の伊藤と昼食時に話をしている時とは、全然違う……。これはこれで、面白くはあるが。

 それにしても、Mチューバーって、なんか楽しいのか? 俺はアイドルとかそっち系には、興味のないタイプなのもあって、ペットロスのような状態になる原田に、共感がイマイチ出来ない。


「ルカルカが生き甲斐だったんだぞ」

「どうせ、ヨーチューブにアーカイブ残ってるでしょ」

「生配信の楽しみが消えたんだよ! 投げ銭してルカルカが「ありがとぉ♡」って言ってくれるあの――」

「キモ」


 宮原キツイって……! 推し活なんだから、そのくらい寛容な目で見てやってくれ。あ、でも今日の研修態度はダメだったな。宮原、もっとやってくれ。

 あ、飯到着。配膳ロボットが持ってきてくれる分、気を遣わなくて済むな……。


「キモいって、推し活の否定は、良くないと思いまーす!」

「公私混同しないならね。どうせ今日の研修レポート、クォリティ低いのしか書けないじゃん。あの研修態度だと」


 それは俺も同意だ。

 別の会社の人は、寝てる奴もいたけど、起きていたところで内容が頭に入っていなければ、ほぼ変わらんからな。


「宮原だって、ジンミヤがいきなり消えたら、ショック受けるだろが!」

旦那(かぞく)と仮想アイドル一緒にすんなし」


 原田も、宮原の旦那……人事部の宮原を、略してジンミヤ呼びのようだ。

 そして冷静なツッコミ。ほんとそれだよな。


「仮想っていうな、ルカルカはあそこにいたんだ……オレのチャットや投げ銭に反応してくれた、そこにいた生きている人なんだよぉおぉ」


 投げ銭もらってシカトはしないよな、うん。よくわかんないけど。

 カキフライには、やっぱタルタルだな。異論は認める。


「原田、現実を見なよ……」


 宮原、容赦ねぇな。まぁ、テンションがダダ下がりのまま仕事されるよりは、キツイ言葉でも立ち直ってくれるなんかが、あった方が嬉しいけどさ……。


「だってよぉ、ルカルカは、いたんだよぉ……オレの生活に潤いを与えてくれたんだよぉ……」

「財布は干からびていってるじゃん」

「心の潤いって、生きていく上で必要だろぉ……。一応、自分の生活が破綻しない前提で、投げ銭してたからな!」


 当たり前だろ……。っても、歯止めが効かないって人も世の中には居るからな……。


「原田……現実を教えてあげるよ……」


 宮原、十分教えているぞ。原田の声、結構ドン底レベルで凹んでるし……。


「ルカルカは現実(リアル)だってのぉおぉ」

「そのルカルカは、旦那の友達だよ。中学時代の」

「え?」


 え?


「ジンミヤの友達……って、リア友?」

「そ。もちろん男子」

「え?」


 え?


「こないだ、電話来たんだよ、旦那に。Mチューバーやってんの、彼女にバレたから辞めたんだって」

「え?」


 あ、原田の脳みそがショートしたくさいぞ。俺も一瞬したけど。

 ってか、世間って狭いな。


「中身、男」


 宮原は現実を見せた……。いや、聞かせた。しかもダメ押しの如く!


「え、いや、だって、ルカルカの声、めっちゃ可愛い……」

「ボイスチェンジャー」

「ルカルカの仕草、可愛いんだぞ!」

「男だから、男がキュンとくる仕草、知ってるんじゃね? 現実の女がそんなことするかよ」


 色々突きつけている。

 ルカルカっての見てみるか。イヤホンをスマホに挿して音漏れしないようにっと。

 アーカイブって、生配信の見逃し保存みたいなやつだよな、確か。ヨーチューブに上がっているだろう。どれどれ。

 あったあった。


(視聴中)


 うん、これは、中身男って、キツイ……。

 なんてーか……ゲームキャラみたいな女の子が、視聴者のチャットの文字に反応して、身振り手振り可愛らしい反応をしているが、これが男……。うん、キツイ。

 さ、動画は通信量かなりかかるって聞いたし、閉じよう。


「……る、ルカルカ……」


 原田が、燃え尽きて真っ白になっているような声だな。

 ミラージュ・ヨーチューバー……幻影か……。うん、幻影だったな……。


「ほらねー? 中身知ったら、それはそれでショックでしょ」

「なんでバラすんだよぉ……。そういうのは黙ってて、ルカルカにまた会えると良いねとか、薄っぺらくてもいいし、心がこもってなくても良いから、優しい言葉掛けてくれよぉおぉ」

「心を込めて現実を教えてあげたじゃん。あたし優しいと思うよ?」


 どっちの言い分もわからなくはないけど、俺は宮原を支持する。


「そこで、「オレは、ルカルカの中身がおっさんでも構わない!」って言えないあたり、ルカルカのガチ推しじゃないじゃん」

「うっ、だって、男だろ……」


 確かに、ルカルカという『キャラクター』のファンなら中身は気にしないよな。

 ってか、宮原、自分の旦那の同級生を、おっさん呼びするんじゃない……。ジンミヤは俺より年下だ。

 俺はもうおっさん自認してるから良いけど、ジンミヤの歳だと、葛藤あるお年頃だからな。


「まぁ、ルカルカが活動してる最中にバラしたわけじゃないんだから、いいじゃん」


 宮原は笑いながら言ってるけど、今まで『可愛らしい女の子』だと思って投げ銭していた原田からしたら、複雑な気持ちだろうな。

 まぁ、推し活中は、原田の心が満たされていたんだし……。きっと。


「実際に会うわけでも、付き合うわけでもないのに、変な下心みたいなの持つから、そんなことになるんだよー?」


 原田、満たされていた間の気持ちと、現在の気持ち、同梱されて、感情の整理が大変そうだ。

 Mチューバーの電撃引退より、正体の方がショックはデカそうだ。

 うーん、どっちにしろ落ち込むことに、変わりはないか。


 まぁ、いきなり消えてしまうのって、変な憶測しがちな分、理由わかる方が嬉しいのかもしれん。俺の勝手な想像だけど。


「次の推し活は、何かに入れ込む時は、下心じゃなくて、純粋な応援の気持ちにしときなよ。あとで惜しむ方の惜し活にしないようにね」

「うぅ……」


 惜しむ方の惜し活か……うまいな。


 原田を踏み台にする訳じゃないが、推し活を俺もすることがあったら、後の惜し活にならないように、楽しい時間を過ごしながら、応援しないとだな。

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― 新着の感想 ―
きゃわわぶりしてる推しがおっさーーーん!!!笑 なろうでもありそう(΄◉◞౪◟◉`) …と思っているコロン。 でも見極めは難しい〜 惜し活にならないよう、心を込めて応援したいと思います!!!(笑 …
原田さん,ガチ恋勢でしたか…御愁傷様っす…推し活の名でごまかしちゃった系ですなあ 生活が破綻しない程度に抑えてただけましな部類なの…か? それにしても宮ちゃんのバッサリ具合がかっくいー! イトちゃんが…
惜し活! 笑点の大喜利なら座布団が二枚ほど来そうですね(笑)。 アイドルに入れ込む人のメンタルは、やっぱり疑似恋愛なのですね。 私は今までアイドルに夢中になった経験がないので(今後どうなるかまではわ…
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