女子社員は、落ち込む同僚にトドメを刺す。
今日の俺、営業部全体の社外研修のため、お弁当ではなく外食となる。
物価高騰前の感覚が抜けてないこともあり、お外ランチが高級食みたいになってる気がしてしまう。
たまには、外食でテンション上げたら? なんてカミさんは言ってたが、カミさんの飯に敵うものを食うのって、なかなか出会った事ないんだよな。
まぁ、俺の健康と好みを考えてくれているから、当然で必然だよな。
夕飯を楽しみに、昼は乗り切ろう。
注文はタッチパネルでっ……と。
ランチセットAは、カキフライ定食か。タルタルついてるな。よし、これにしよう。
「んで、どうしたよ?」
おや? この声は宮原。昼食をとる店がカブってたのか……。
後ろから彼女の声が聞こえる。席の背もたれってか、パーテーションあるから見えないだろうけど。
「それがさぁ……」
あれ、この声は原田……。社外研修していた営業部3人、店カブる。
「ガチ推ししてたMチューバーのルカナちゃんが、電撃引退しちまって……」
えーと、えむちゅーばーって、ミラージュ・ヨーチューバーの事だったよな、たしか。
アニメっぽい絵の子を自分に当てはめて、なんやかんやしてる。そんなイメージの。よくわかんないけど。
「はー? そんなんで、研修中、心ここに在らず状態だったの? バカなの?」
宮原、キツイよ。ペットロスみたいな雰囲気、感じ取ってやれよ。ペットロスと一緒かはわかんないけど。
「バカって……ルカルカは、オレにとって生活の一部なんだぞ!」
「知るか! 生活と仕事は切り分けろ」
宮原、キツイよ。
同僚の伊藤と昼食時に話をしている時とは、全然違う……。これはこれで、面白くはあるが。
それにしても、Mチューバーって、なんか楽しいのか? 俺はアイドルとかそっち系には、興味のないタイプなのもあって、ペットロスのような状態になる原田に、共感がイマイチ出来ない。
「ルカルカが生き甲斐だったんだぞ」
「どうせ、ヨーチューブにアーカイブ残ってるでしょ」
「生配信の楽しみが消えたんだよ! 投げ銭してルカルカが「ありがとぉ♡」って言ってくれるあの――」
「キモ」
宮原キツイって……! 推し活なんだから、そのくらい寛容な目で見てやってくれ。あ、でも今日の研修態度はダメだったな。宮原、もっとやってくれ。
あ、飯到着。配膳ロボットが持ってきてくれる分、気を遣わなくて済むな……。
「キモいって、推し活の否定は、良くないと思いまーす!」
「公私混同しないならね。どうせ今日の研修レポート、クォリティ低いのしか書けないじゃん。あの研修態度だと」
それは俺も同意だ。
別の会社の人は、寝てる奴もいたけど、起きていたところで内容が頭に入っていなければ、ほぼ変わらんからな。
「宮原だって、ジンミヤがいきなり消えたら、ショック受けるだろが!」
「旦那と仮想アイドル一緒にすんなし」
原田も、宮原の旦那……人事部の宮原を、略してジンミヤ呼びのようだ。
そして冷静なツッコミ。ほんとそれだよな。
「仮想っていうな、ルカルカはあそこにいたんだ……オレのチャットや投げ銭に反応してくれた、そこにいた生きている人なんだよぉおぉ」
投げ銭もらってシカトはしないよな、うん。よくわかんないけど。
カキフライには、やっぱタルタルだな。異論は認める。
「原田、現実を見なよ……」
宮原、容赦ねぇな。まぁ、テンションがダダ下がりのまま仕事されるよりは、キツイ言葉でも立ち直ってくれるなんかが、あった方が嬉しいけどさ……。
「だってよぉ、ルカルカは、いたんだよぉ……オレの生活に潤いを与えてくれたんだよぉ……」
「財布は干からびていってるじゃん」
「心の潤いって、生きていく上で必要だろぉ……。一応、自分の生活が破綻しない前提で、投げ銭してたからな!」
当たり前だろ……。っても、歯止めが効かないって人も世の中には居るからな……。
「原田……現実を教えてあげるよ……」
宮原、十分教えているぞ。原田の声、結構ドン底レベルで凹んでるし……。
「ルカルカは現実だってのぉおぉ」
「そのルカルカは、旦那の友達だよ。中学時代の」
「え?」
え?
「ジンミヤの友達……って、リア友?」
「そ。もちろん男子」
「え?」
え?
「こないだ、電話来たんだよ、旦那に。Mチューバーやってんの、彼女にバレたから辞めたんだって」
「え?」
あ、原田の脳みそがショートしたくさいぞ。俺も一瞬したけど。
ってか、世間って狭いな。
「中身、男」
宮原は現実を見せた……。いや、聞かせた。しかもダメ押しの如く!
「え、いや、だって、ルカルカの声、めっちゃ可愛い……」
「ボイスチェンジャー」
「ルカルカの仕草、可愛いんだぞ!」
「男だから、男がキュンとくる仕草、知ってるんじゃね? 現実の女がそんなことするかよ」
色々突きつけている。
ルカルカっての見てみるか。イヤホンをスマホに挿して音漏れしないようにっと。
アーカイブって、生配信の見逃し保存みたいなやつだよな、確か。ヨーチューブに上がっているだろう。どれどれ。
あったあった。
(視聴中)
うん、これは、中身男って、キツイ……。
なんてーか……ゲームキャラみたいな女の子が、視聴者のチャットの文字に反応して、身振り手振り可愛らしい反応をしているが、これが男……。うん、キツイ。
さ、動画は通信量かなりかかるって聞いたし、閉じよう。
「……る、ルカルカ……」
原田が、燃え尽きて真っ白になっているような声だな。
ミラージュ・ヨーチューバー……幻影か……。うん、幻影だったな……。
「ほらねー? 中身知ったら、それはそれでショックでしょ」
「なんでバラすんだよぉ……。そういうのは黙ってて、ルカルカにまた会えると良いねとか、薄っぺらくてもいいし、心がこもってなくても良いから、優しい言葉掛けてくれよぉおぉ」
「心を込めて現実を教えてあげたじゃん。あたし優しいと思うよ?」
どっちの言い分もわからなくはないけど、俺は宮原を支持する。
「そこで、「オレは、ルカルカの中身がおっさんでも構わない!」って言えないあたり、ルカルカのガチ推しじゃないじゃん」
「うっ、だって、男だろ……」
確かに、ルカルカという『キャラクター』のファンなら中身は気にしないよな。
ってか、宮原、自分の旦那の同級生を、おっさん呼びするんじゃない……。ジンミヤは俺より年下だ。
俺はもうおっさん自認してるから良いけど、ジンミヤの歳だと、葛藤あるお年頃だからな。
「まぁ、ルカルカが活動してる最中にバラしたわけじゃないんだから、いいじゃん」
宮原は笑いながら言ってるけど、今まで『可愛らしい女の子』だと思って投げ銭していた原田からしたら、複雑な気持ちだろうな。
まぁ、推し活中は、原田の心が満たされていたんだし……。きっと。
「実際に会うわけでも、付き合うわけでもないのに、変な下心みたいなの持つから、そんなことになるんだよー?」
原田、満たされていた間の気持ちと、現在の気持ち、同梱されて、感情の整理が大変そうだ。
Mチューバーの電撃引退より、正体の方がショックはデカそうだ。
うーん、どっちにしろ落ち込むことに、変わりはないか。
まぁ、いきなり消えてしまうのって、変な憶測しがちな分、理由わかる方が嬉しいのかもしれん。俺の勝手な想像だけど。
「次の推し活は、何かに入れ込む時は、下心じゃなくて、純粋な応援の気持ちにしときなよ。あとで惜しむ方の惜し活にしないようにね」
「うぅ……」
惜しむ方の惜し活か……うまいな。
原田を踏み台にする訳じゃないが、推し活を俺もすることがあったら、後の惜し活にならないように、楽しい時間を過ごしながら、応援しないとだな。




