2話 夕暮れと花冠
毎晩、夢を見るようになったある日。
この夢を見始めた時からずっと青空だった空は、赤い夕日に照らされていた。
少年は、その真っ赤な夕日に違和感を覚えたが妖精に会えたことが嬉しく、そんな違和感を忘れ妖精のもとへ駆け寄った。
「やぁ、今日も会えてうれしいよ。」
妖精は、そんな少年に気づくととても嬉しそうにチリン、チリン、チリン、と何度も鳴らしながら少年の周りを飛び回った。
「今日の空は、夕日が綺麗だね。」
少年がそう言って妖精に微笑みかけると、妖精は少し寂しそうな表情をしてチリン、と頷いた。
そして、いつものように妖精と一緒に湖の方へ向かった。
少年たちは湖に着いたが、そこはいつもより静かだった。
湖の周りにいる妖精がいつもよりまばらに見える。
(夕方だから疲れてみんなお休みしているのかな?)
聞いてみようと少年が妖精の方を見ると、妖精は湖の方を眺めながらまた寂しそうな表情をしていた。
妖精があまりにも湖の方をじっと見つめているので、少年も妖精の見ている方向に視線を移す。
するとそこには、雑木林がある小さな島が見えた。
(湖の真ん中に島なんてあったっけ?)
少年が島に気を取られていると、いつの間にか近くに来ていた妖精に服を引っ張られる。
少年は妖精に引っ張られるまま進みつつ問いかける。
「ねぇ、湖の真ん中にある島ってもとからあったっけ?」
チリン、と妖精は頷いた。
少年は違和感を覚えたものの、妖精が嘘をつくように思えず妖精を信じることにした。
そして、いつの間にか2人は大きな木の下に着いていた。
「今日は、ここでゆっくり過ごす?」
少年が聞くと妖精は首を振り、木の後ろを指さした。
促されるまま木の後ろを覗くと草で隠れて見えなかったが、小さな小道があった。
妖精の後を追って小道を進むと、綺麗な花畑が広がっていた。
「綺麗…、こんなに綺麗な花畑があったんだね。」
少年が見とれていると、妖精は花畑の奥の方に進んでしまう。
急いであとを追うと、妖精は川の近くの花畑の中から花冠を取り出して、少年に手渡した。
「くれるの?」
妖精はチリン、と頷く。
「花冠だね。綺麗に作られている。君が作ったの?」
チリン、チリン、妖精は首を振る。
「じゃあ、妖精たち皆で?」
チリン、今度は大きく頷いた。
「凄い!素敵なプレゼントをありがとう!」
妖精は、少年が喜ぶ姿を見てとても満足そうにクルクルと飛び回った。
そんな妖精を見つつ少年は、
(僕からも皆に何か贈りたいけど、小さい妖精たちに合う花冠を作ることはできないな…。
うーん、どうしようか。)
とお返しができないかと考えた。
何かないかと周りを見渡し、少年はあることを思いつき妖精に話しかける。
「そうだ!ねぇ、こっちにおいで!」
飛び回っていた妖精を呼ぶと、妖精はすぐに少年のもとに来てくれた。
「はい、これ。」
少年は、妖精の耳に小さな白い花をかけた。
「君たちが作ってくれた花冠のように手の込んだものは贈れないけれど、
君に似合う花を探して贈ることはできるよ。
ほら、よく似合っている。見てごらん。」
少年は、妖精を川のそばに連れていき自分の姿を見てもらった。
妖精は喜んでくれたようで、今まで聞いたことがない勢いの鈴の音色が響いた。
そして、妖精は少年の顔の近くまで来ると頬にキスを落とした。
少年は、呆然としていたが起こったことを理解すると顔を真っ赤にしながら妖精を見た。
「喜んでくれて凄く嬉しいよ…。」
少年は、それ以上は照れて何も言えなかったが、妖精と目を合わせてお互いに幸せそうに微笑んだ。
妖精はよっぽど嬉しかったのか、また川で自分の姿を見て少年があげた花に手を添えている。
その様子を眺めながら少年は、その場にはいない他の妖精たちのことも考えた。
「今日は、会えなかったから渡せなかったけど、この花冠を一緒に作ってくれた子たちや、
今まで遊んでくれた子たちにもお礼で花を贈りたいな。」
少年がそう呟くとさっきまで川を眺めていた妖精が、ピクッと急に動きが止まった。
「また、会えた時に似合う花を見つけて渡そうかな。」
さらに少年は言葉を重ねたが、妖精はこちらを見ようとしない。
いつもは少年が話しかけると、妖精はこちらを振り向いて話を聞いてくれる。
だが今、妖精はピクリとも動かず静かに川を眺めている。
少年は、どうしたのだろう、と思い妖精の傍に行こうとした時、強い風が吹いた。
一瞬、妖精が少年を振り返ったように見えたが、その表情までは少年には見えなかった。
目を覚ました少年は、いつものように日記を書きながら夢の中でのいつもとは違う出来事を思い出していく。
(そういえば夢の中に入った時、空が夕暮れだったな。いつもは青空だったのに…、
あと、湖の周りもいつもより妖精たちの人数が少なかった気がする。
それに、彼女の様子も気になる…。)
少年の頭には夢の中でもらった花冠はなく、その現実がより一層少年の心に影を落としていく。
(もうあの夢を見ることができないんじゃないか…?)
少年はふとそんな考えがよぎり、ペンを止める。
しかし、日記に今日のことを書いておかないともっと夢の世界から遠ざかってしまいそうで、怖くなり懸命に彼女のことを日記に書き留めていく。
その日、少年は早く夜にならないかと落ち着かない様子で過ごすこととなった。
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