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「相澤さんですよね?」
「あ、はい。そうですが……」
私は不思議な気分に浸っていた。
目の前の中学生に心当たりがなかったのだ。
タクシー運転手の仕事をしていると不思議なことがよくあるもので、霊を乗せたこともあれば、ゾンビのような見てくれの人物を乗せたこともある。
ただひとつ言えるのは、どちらも格好や見てくれだけが似ていただけであり、実際は、幽霊でもなければ、黒い長い髪の女であり、ゾンビでもなければ、ハロウィンの仮想パーティーをした帰りだったということだ。
だが、この中学生はどうだろうか。
見た目から察するに運動会を終えたのだろうか。
だが、今は深夜の2時。
大人には見えなかった。
中学生がこんな時間に危ないよと、告げるも……お金はらいますから。と、返されてしまった。
無事、目的の場所まで送り届けると、その赤色の帽子を被った中学生は私に腕時計をくれた。
不思議な腕時計で、時間が十二としか書かれていない。
何に使うんだろうか。
わからないな。まあ、いいか。
事務所に戻り、コーヒーを一杯。
深夜勤務は大変だ。
電話がかかってきた。
誰からだろうか。
素早く応答する。
思わずドキリとした。
先ほど、中学生から電話かかってきますよ。と、言われていたからだ。
私はてっきり、彼の話だと思っていたが、まさか私の話だとは思いもよらなかった。
おや、時計の針ではなく、時間が十一になっている。
どういうことだろうか。
鈍感な私はこんな簡単なミスを犯し、未来というものを信じないでいた。
他にも彼はいくつか予言していたのだ。
そして告げた。
「誰にも言わないでください」
タクシーを降りるとふっと消え、私は外を確認したが、そこは墓地だった。
柳が揺れ、墓石が集合している。
誰もいなかったが、足音だけは確かにはっきりと聞こえた。
末恐ろしかった。
振り返ると誰もいない。
「逃げてください」
彼の言葉を思い出し、タクシーに乗る。
あ、しまった。
「タクシーには乗らないでください」
そういうことか。
車窓に手形がベタベタベタと打ち付けられる。
「もし乗ってしまったら、アクセルではなく、ブレーキを踏んでください」
彼は正しかったのだ。
私は迷わずブレーキを踏んだ。
音は止んだ。
「ええ、あの日のことは今でも鮮明に覚えています」
「相澤さん、それは何年前の話ですか?」
「六十年前です」
笠松は首を傾げる。
隣で聞いていた佐藤は工藤の言っていたことを頭の中で反芻させる。
「この写真に見覚えはありますか?」
「ああ、なんてことだ。彼です。彼がそうです」
末永の写真だった。
顔は写っていなかったが、帽子と背格好が同じ、また、例の腕時計を腕につけていたという。




