『ジプシー・ローズの妹の死』
『ジプシー・ローズの妹エイ子の死』
(舞台『サンズリバーサイド』の上演が終わり、数週間が経った。サキは、舞台のプロットではなく、幸枝から得た最新の取材メモを手にしている。時刻は深夜。)
サキ
「ケイコ、ちょっと休んだら? コーヒー淹れてあげるわ。……あのね、舞台は終わったけど、トシ子とエイ子の話にはまだ続きがあるのよ。」
ケイコ
「続き、ですか? 舞台であんなに深く描いたのに……。」
サキ
「そう。舞台では、ジプシー・ローズことトシ子が妹エイ子を探して彷徨う話を軸にしたわよね。でも実は、舞台が終わってからイタコの幸枝の口から語られたのは、『エイ子が19歳で亡くなった』という、私たちの知らないもう一つの説なの。その死と、それにまつわる霊のねじれについてまとめたわ。」
一. 孤独な捜索と短い命
サキ
「イタコ幸枝の話を整理するとね。史実では、トシ子が幼いエイコを連れて実家から家出し、姉妹は小桜舞踊団の座長のもとで一緒に育った。エイコは中学を卒業するまで舞踊団にいた。だが、問題は卒業後よ。
エイコは中学卒業後、姉のトシ子を追って単身上京。この時、トシ子はすでに『ジプシー・ローズ』と呼ばれ、大劇場で踊っていた。エイコは東京の雑踏の中、看板やポスターだけを手がかりに、姉を探し続けたの。訪ねるたびに返ってくるのは、『トシ子はいません』という、冷たい言葉ばかり。
この孤独と疲労で心身は急速に衰弱し、エイコは舞踊団に戻った後、わずか19歳で栄養失調による心不全で亡くなった。あの戦後の劣悪な食糧事情が、その短い命を奪ったのよ。」
二. 間に合わなかった姉と母の心残り
サキ
「そして、悲劇は続く。エイコ危篤の電報は、奇跡的に巡業中のトシ子に届いたが、病院へ駆けつけた時には妹の最期には間に合わなかった。トシ子の胸には、『自ら妹を探さなかった』という、深い後悔が刻み込まれた。
志水家にも訃報は送られたが、母はすでに亡くなっていた。母は家出をしたトシ子、そして上京したエイコとも再会できないまま、心残りを抱えて世を去った。当時、家出人を探す制度は整っておらず、家族はトシ子やエイコの消息を追う術がなかったの。」
三. 埋葬と霊のねじれ
サキ
「エイコと実母の遺骨は、大牟田市の成善堤寺に埋葬されていると、イタコの幸枝は証言しているの。トシ子の遺骨も、おそらく内縁の夫正邦乙彦が持ってきて、同じ場所に納められた。
だが、その幸枝の口寄せでは、霊の居場所に矛盾がある。
「トシ子の霊は故郷にはいない。東京に留まっている』
遺骨は故郷の安息の地にあるのに、トシ子の魂は、妹を見つけられなかった後悔と、母と再会できなかった心残りから解放されず、エイコが苦しんだ街、東京に縛られたまま。私たちは舞台でトシ子が彷徨う姿を描いたけど、実はエイコの短い人生こそが、トシ子の魂を縛り付けている『ねじれ』の正体だったのよ。」




