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ホスト太子 〜歌舞伎町の救世主〜  作者: 櫻木サヱ
夜の新世界✮*。゜
8/16

封印の記憶

 Jの影が広がる。

 黒い蛇のようなそれは、まるで生き物のように床を這い、PrinceTAIの足元を絡め取ろうとする。


「……ここで終わらせる」

 Jの瞳は、夜そのもののような暗さを帯びていた。


「終わらぬ」

 PrinceTAIは静かに呟き、両の掌を組み合わせる。


 その瞬間――金色の文様が床一面に広がった。

 古代飛鳥の神殿に刻まれていた“和魂”の紋。

 雨音とネオンの光の中で、まるで千年前が再び蘇るかのように輝き始めた。



 「咲……大丈夫!?」

 麗はバックヤードに咲を押し込み、扉を閉める。

 咲は震える手を胸に当てながら、唇を噛んだ。


「PrinceTAIが……ひとりで……」


「大丈夫。アイツ、普通の男じゃない」

 麗の声は震えていた。強がっているのが、すぐにわかる。


「麗……あなたも、怖いのね」


 その一言に、麗は目を見開いた。

 咲は優しく笑う。

「でも、信じよう。だって太子は――誰よりも、私たちを守ってくれたじゃない」


 麗は少しだけ視線を落とし、拳をぎゅっと握った。

「……そうだな。だったら、あたしらも立ち止まってちゃダメだ」


 二人は決意の目で頷き合う。

 そのとき、爆ぜるような音が店内に響き渡った――!



「“和魂”……完全には解放できていないようだな」

 Jが嘲笑する。

「覚醒したばかりの力で、この俺に勝てると思うか」


「勝敗の問題ではない……守るべきものがある。それが、俺の力だ」


 PrinceTAIはJの影を踏み砕くように、一歩踏み込んだ。

 金色の文様が光を放ち、闇を弾き飛ばす。


 その光の中――

 PrinceTAIの脳裏に、かつての“あの日”の記憶がフラッシュバックした。



 ――飛鳥の空。

 寺の回廊。

 血と炎に包まれた王宮。


 裏切りの夜。

 影の中から現れたのは、Jと同じ“漆黒の蛇”の紋章。


「PrinceTAI、貴様が“和”を掲げた時点で、この世の均衡は崩れたのだ」


 冷たい声。

 あの夜、すべてを奪った男――Jの前世の姿。



 PrinceTAIは目を見開いた。

「そうか……貴様、“あの夜”の――!」


 Jが薄く笑う。

「やっと思い出したか、太子。千年前、俺が貴様の国を滅ぼした」


 空気が震えた。

 まるで、時そのものが軋むような音。


「ならば――今度こそ、俺が貴様を討つ」


「やれるものならやってみろ、太子!」


 二人が一斉に踏み込んだ瞬間、

 金と黒――光と闇が衝突し、衝撃波がクラブの壁を吹き飛ばした。



 麗と咲が外に飛び出す。

 夜空には稲光。雨がさらに強くなる。


「麗!」

「わかってる!」


 二人は決して逃げようとはしなかった。

 PrinceTAIをひとりで戦わせない――その思いだけが、足を止めなかった。


 PrinceTAIはJの拳を受け止め、力で押し返す。

 金色の光が夜の街を照らし、影が揺らいだ。


「俺は……“和”を守る者だッ!!!」


 叫びと同時に、PrinceTAIの胸の奥で何かが“弾けた”。

 背後の文様がさらに大きく、眩く、夜を裂くように輝く。


 Jの目がわずかに見開かれた。

「……まさか、ここまでの力とは……!」



 その瞬間、PrinceTAIの掌に“金色の刃”が形を成した。

 まるで光そのものを掴みとったかのような神秘の剣。


「これが……俺の、真の力――“和魂ノ剣”」


 Jが舌打ちする。

「面白ぇ……だったら、ここで終わらせてやる!」


 二人の影が、雨の夜の中でぶつかり合った。

 光と闇が交差し、夜の街はまるで戦場のように震えた。


 そして――


 PrinceTAIの剣が、Jの影を裂く。


 夜明け前、最初の決着が始まろうとしていた――。


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