夜明け前の刃
濡れた路面にJの黒い革靴が静かに音を立てた。
クラブ「NEO」のフロアは、一瞬にして戦場へと変わる。
照明は落ち、残されたのは紫がかった非常灯と、夜の冷たい空気。
「やはり、生き返っていたか……“PrinceTAI”」
Jの声は低く、冷たく響く。
「生き返った、ではない。転生したのだ」
PrinceTAIは背筋を伸ばし、迷いなく言い返した。
その瞳の奥に宿る光が、暗闇を裂く。
千年以上の歴史を背負った男――だが今は、ホストとして夜を生きる青年。
⸻
「咲、下がって!」
麗が咲の腕をつかみ、カウンターの裏へと押しやる。
咲は涙目で叫んだ。
「でも、PrinceTAIが――!」
「大丈夫。アイツは……あたしなんかよりずっと、強い」
麗は小さく笑ってみせる。けれど、その拳は固く握られていた。
目の前のJは、ただのチンピラじゃない。
夜の裏社会を支配する男――そして、“ PrinceTAIの力”の秘密を知る存在。
⸻
「その力……飛鳥の世から脈々と受け継がれた“和の紋”……」
Jは指を鳴らした。
瞬間、天井の照明が爆ぜ、漆黒の影が広がる。
部下たちの動きが一斉に止まり、Jの背後に浮かび上がったのは、
蛇のようにうねる闇の紋様だった。
「俺もまた、“転生者”の一人だよ、PrinceTAI」
「……何だと?」
「千年越しの決着を、ここでつけようじゃないか」
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Jが踏み込む。空気が震える。
PrinceTAIも一歩、静かに前へ。
麗が息をのんだ瞬間――
二人の身体が、まるで時を超えるような速さで交錯する。
Jの拳が空気を裂き、PrinceTAIの手から金色の光がほとばしった。
床に古代の文様が浮かび上がる。
「これが……俺の力――“和魂”」
PrinceTAIの声が静かに響くと同時に、Jの影が一瞬だけ揺らいだ。
だが、Jは薄く笑った。
「ふっ……半分も解放できていないな。甘いぞ、太子」
Jの影が蛇のように床を這い、PrinceTAIの足元を絡め取ろうとする。
麗が叫ぶ。
「PrinceTAIッ!!!」
咲も思わず身を乗り出した。
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そのときだった。
PrinceTAIの胸の奥に、ふと浮かぶ光景がある――
飛鳥の空、風になびく寺の塔。
かつて守ると誓った“和の国”。
「俺は……もう、二度と守れなかったものを見過ごさない――!!!」
轟音とともに、PrinceTAIの背後に巨大な金色の紋章が咲き誇った。
それはまるで、天蓋を突き抜ける神の輪。
Jが一歩、思わず後退した。
「……これが、“覚醒”……!」
⸻
「麗! 咲を頼む!」
PrinceTAIが叫ぶと、麗は頷き、咲の腕をつかんで奥へ走った。
「死ぬなよ、PrinceTAI!」
「ふ……死なぬ。俺は――千年を超えている」
そして―― PrinceTAIとJの視線が、再び交錯する。
夜の街の片隅で、歴史と現在が激しくぶつかり合った。
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外では雨が降り始めていた。
ビルの屋上のネオンが、濡れたガラス越しにぼんやりと滲む。
その夜、誰も知らぬ場所で――
二人の転生者の戦いが幕を開けたのだった。




