表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホスト太子 〜歌舞伎町の救世主〜  作者: 櫻木サヱ
夜の新世界✮*。゜
7/16

夜明け前の刃

濡れた路面にJの黒い革靴が静かに音を立てた。

 クラブ「NEO」のフロアは、一瞬にして戦場へと変わる。

 照明は落ち、残されたのは紫がかった非常灯と、夜の冷たい空気。


「やはり、生き返っていたか……“PrinceTAI”」

 Jの声は低く、冷たく響く。


「生き返った、ではない。転生したのだ」

 PrinceTAIは背筋を伸ばし、迷いなく言い返した。


 その瞳の奥に宿る光が、暗闇を裂く。

 千年以上の歴史を背負った男――だが今は、ホストとして夜を生きる青年。



「咲、下がって!」

 麗が咲の腕をつかみ、カウンターの裏へと押しやる。


 咲は涙目で叫んだ。

「でも、PrinceTAIが――!」


「大丈夫。アイツは……あたしなんかよりずっと、強い」


 麗は小さく笑ってみせる。けれど、その拳は固く握られていた。

 目の前のJは、ただのチンピラじゃない。

 夜の裏社会を支配する男――そして、“ PrinceTAIの力”の秘密を知る存在。



「その力……飛鳥の世から脈々と受け継がれた“和の紋”……」

 Jは指を鳴らした。


 瞬間、天井の照明が爆ぜ、漆黒の影が広がる。

 部下たちの動きが一斉に止まり、Jの背後に浮かび上がったのは、

 蛇のようにうねる闇の紋様だった。


「俺もまた、“転生者”の一人だよ、PrinceTAI」


「……何だと?」


「千年越しの決着を、ここでつけようじゃないか」



 Jが踏み込む。空気が震える。

 PrinceTAIも一歩、静かに前へ。


 麗が息をのんだ瞬間――

 二人の身体が、まるで時を超えるような速さで交錯する。


 Jの拳が空気を裂き、PrinceTAIの手から金色の光がほとばしった。

 床に古代の文様が浮かび上がる。


「これが……俺の力――“和魂にぎたま”」


 PrinceTAIの声が静かに響くと同時に、Jの影が一瞬だけ揺らいだ。


 だが、Jは薄く笑った。

「ふっ……半分も解放できていないな。甘いぞ、太子」


 Jの影が蛇のように床を這い、PrinceTAIの足元を絡め取ろうとする。

 麗が叫ぶ。

「PrinceTAIッ!!!」


 咲も思わず身を乗り出した。



 そのときだった。

 PrinceTAIの胸の奥に、ふと浮かぶ光景がある――

 飛鳥の空、風になびく寺の塔。

 かつて守ると誓った“和の国”。


「俺は……もう、二度と守れなかったものを見過ごさない――!!!」


 轟音とともに、PrinceTAIの背後に巨大な金色の紋章が咲き誇った。

 それはまるで、天蓋を突き抜ける神の輪。


 Jが一歩、思わず後退した。

「……これが、“覚醒”……!」



「麗! 咲を頼む!」

 PrinceTAIが叫ぶと、麗は頷き、咲の腕をつかんで奥へ走った。


「死ぬなよ、PrinceTAI!」

「ふ……死なぬ。俺は――千年を超えている」


 そして―― PrinceTAIとJの視線が、再び交錯する。

 夜の街の片隅で、歴史と現在が激しくぶつかり合った。



 外では雨が降り始めていた。

 ビルの屋上のネオンが、濡れたガラス越しにぼんやりと滲む。

 その夜、誰も知らぬ場所で――

 二人の転生者の戦いが幕を開けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ