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ホスト太子 〜歌舞伎町の救世主〜  作者: 櫻木サヱ
夜の新世界✮*。゜
4/16

王子 VS 王者

太子が初日から売上を叩き出した翌日――

歌舞伎町の空気は、いつもよりピリついていた。


「おい、昨日の新人、見たか?」

「咲さん泣かせたんだろ?……いい意味でな」

「麗さんの客まで目を向けてたって噂……」


ざわつくホストたち。

その視線の先――静かに入店してきた麗が、黒いシャツの襟元を直しながら言った。


「……まったく、朝から耳障りな話ばっかだな」


麗はこの店「エデン」の不動のNo.1。

完璧な接客と計算された笑顔、誰も敵わないトーク力で、毎月トップをキープしている男。


その麗の視線が、ソファに腰かけてスタッフマニュアルを眺めていた“新人”――太子に刺さった。


「お前が……プリンスとか名乗ってる新人か」


太子は視線を上げ、静かに頷いた。

「うむ。我は Prince TAI という」


「……“我”って、今どきのキャラ作りか?」

「いや、我は我だ」


店内が一瞬、クスッと笑いに包まれる。

しかし太子は一切動じない。

その泰然とした姿に、逆に空気がピリッと引き締まった。


麗はその“芯の強さ”を敏感に感じ取っていた。

――この男、ただの素人じゃない。


「勘違いすんなよ、新人」

麗はゆっくりと近づき、太子の肩を軽く叩く。

「この店は遊びじゃない。俺の席を狙うなら、それなりの覚悟がいる」


「席とは、王座のことか?」


「まぁ、そんなとこだな」


「ならば、王座は我が戴く」


「……っ!」


その静かな宣言に、店内が一斉にざわついた。

挑戦状も同然の言葉。

No.1の座は、この店で最も重い。


佐伯ママはカウンターの奥から小さくため息をついた。

「ったく……ほんと波乱の予感しかしないわね、あの子」



その夜。


いつもより客入りが多い。

まるで新旧王者の対決を見ようとする観客が集まったようだった。


「麗さーん♡今日もかっこいい〜!」

「今日は麗さんにつく〜!」


麗の席には指名客がずらり。

一方、太子の前には――昨日、涙を流した咲が静かに座っていた。


「……今日も来ちゃった」


「心は、夜を求めているからな」


「もうっ、その言い方ずるい!」

咲は笑いながら頬を染めた。


その隣のテーブルでは、麗が冷静な笑みを浮かべながらグラスを傾けていた。

「なぁ、プリンス。せっかくだ、ちょっと勝負しねぇ?」


「勝負?」


「今夜、売上で勝った方がNo.1テーブルを取る」


周囲が一気に色めき立つ。

「うわ……麗さんが勝負とか珍しい……」

「てか新人、今夜潰れるんじゃね?」


太子は立ち上がり、迷いのない声で答えた。

「望むところだ」



《22:00 営業スタート》


♬.*゜――音楽が変わり、照明がわずかに落ちる。

それぞれのホストが席につき、接客の“戦い”が始まった。


麗は完璧な営業を見せつける。

軽快なトーク、さりげないボディタッチ、そして自然すぎる褒め言葉。

お客たちは笑い、次々にボトルを開けていく。


「さすが麗さん!」

「今日もイケすぎでしょ!」


一方、太子の席では――全く違う空気が流れていた。


「……あなたの声、震えている」

「え……?」


「笑顔の裏で、何かを隠しておる。だが、心は偽れぬ」


「……」


太子は一人ひとりのお客の“心の声”を聴き取り、その人だけの言葉をかける。

見た目を褒めるのではなく――魂の奥を見透かしたような接客。


「……なんでそんなに、わかるの……?」

「君が“強くなりたい”と願っておる声が聞こえるからだ」


涙、笑い、安堵。

太子の席は、いつしかお客の心が素直になる“空間”になっていた。


「なんか……この席、安心する……」

「心があったかくなる……」


お客が次々に追加オーダーを入れる。

スタッフが慌ただしくシャンパンを運び、店内の視線が太子の席に集中し始めた。


「……うそだろ、売上、麗さんに並んできてる……」

「新人の席がこんなに盛り上がるとか前代未聞……」


麗は一瞬、眉をひそめた。

その表情を見たのは、ママだけだった。


(……あの子、ほんとに“本物”かもしれない)



《24:00 営業終了》


集計表が店長席に置かれる。

全員が息をのむ中、ママが結果を読み上げた。


「今夜のNo.1テーブルは――……Prince TAI」


「ええええええええええ!!!」


「新人がNo.1!?」

「麗さん、まさかの……!」


麗は静かに立ち上がり、太子に歩み寄った。

その瞳には怒りでも嫉妬でもなく、むしろ――挑戦者の光。


「やるじゃねぇか、王子様」


「王座を目指すと、言ったであろう」


「……だったら、本気で奪いに来い」

麗は低く笑い、グラスを太子に差し出した。

「これからが、本番だ」


太子はそのグラスを静かに合わせた。

「心得た」


その瞬間、店内の空気が――完全に変わった。

“伝説の夜”の始まりを、全員が肌で感じていた。

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