PrinceTAI、闇落ち寸前──咲を奪われた夜
咲が連れ去られてから、まだ二十分しか経っていない。
けれど PrinceTAI にとっては、血が逆流し続ける永遠のようだった。
体の奥が――なにか、熱い。
「……落ち着け。深呼吸しろ……!」
麗が肩を掴んで揺さぶる。
だが TAI は首を振った。
深呼吸なんかで押さえられるものじゃない。
咲がいない。
彼女の声が聞こえない。
いつも笑って、Tシャツの裾を摘んで「PrinceTAI〜」って呼ぶあの声もない。
その事実だけで、頭が焼けつく。
路地を駆け抜け、夜風を切る。
Jたちの車が逃げた方向を追うため、麗とTAIはビルの屋上に出た。
夜風が刺すように冷たい。
だが、TAIの体からは熱が漏れ続けていた。
「……おい、TAI。おまえ、光って……ないか?」
麗が目を見開く。
「嘘だろ……。力が覚醒しかけてる……?」
太子として生きていた頃の記憶は曖昧なまま。
しかし、魂に刻まれた「能力」だけは目覚めるタイミングを待っていた。
咲という大事な存在を奪われた瞬間――
封印がひび割れた。
TAIは拳を握った。
光がぎらつく。
頭の中で鼓動がうるさい。
「……麗。俺、抑えられないかもしれない。」
「いいから言え。なにが見えてる?」
「“線” だ。」
TAIは夜空を指差す。
「Jたちが通った“気配の残滓”……金の糸みたいに見える。
追える……!」
「マジかよ、太子の技能……!史実ガチじゃん!」
「PrinceTAIだ。」
「そこはブレねぇんだな!!」
ふたりの軽口は一瞬だけ。
次の刹那、TAIは屋上の端へ駆けだした。
背後で、金の光の糸が空間を流れるように伸びている。
咲を連れ去った車の軌跡。
その先で、彼女はひとり震えている。
(待ってろ。咲……必ず助ける。)
バッと風を裂くように跳んだ。
本来の身体能力では届くはずのない距離。
だが黄金の粒子が足元を押し上げる。
薄暗い倉庫。
手首は縛られ、口元には布。
咲の大きな瞳が、不安と涙で揺れている。
(PrinceTAI……来て……!)
天井が揺れ、どこか遠くで破裂音が響いた。
光が隙間から雪のように舞い込む。
倉庫の外。
PrinceTAIが無音で降り立つ。
半分だけ人ならざる輝きに包まれ、瞳は金色、髪の先も光を帯びている。
「咲……迎えに来た。」




