目覚めたら歌舞伎
――耳がうるさい。
目を開けると、ネオンの海。
夜の街の喧騒、車のクラクション、酔っ払いの笑い声。
「ここは……?」
厩戸皇子は、石畳ではなくアスファルトの上に寝転んでいた。
見上げれば、きらびやかなビルの壁に輝く文字――
《Kabukicho》《Host Club》
「ほすと……くらぶ……?」
身体を起こすと、自分の手が異様に白く滑らかだと気づく。
かつては冠と直衣をまとっていたはずの身体が、今はシャツとジーンズ。
何よりも驚いたのは――鏡に映る自分が、若い。
「……我、十七に戻っておる……?」
その時、キャッチの男が声をかけてきた。
「お兄さん、初めて?いい顔してんな〜。ホスト興味ない?」
「……ほすと?」
「うちの店で働かない?イケメンは金になるぜ!」
胡散臭い笑みに対し、太子は眉をひそめた。
しかし――すれ違う人々の声が、頭に流れ込んできた。
「……上司、うざ……」
「彼、今日も返信くれなかった……」
「死にたい……」
「笑顔でいなきゃ、嫌われる……」
雑多な人々の「心の声」が、太子の脳内に鮮やかに響く。
1400年前と同じ力――**「十人の声を同時に聞き分ける力」**が、今も健在だった。
「……面白い」
太子は微笑んだ。
「その“ほすと”とやら、我が行こう」
キャッチの男は目を丸くした。
こうして聖徳太子、現代ホスト伝説が幕を開ける――。




