第七話
数日後——。
王家、公爵家、アルバート家の当主が顔を揃えた密談が開かれた。
「誠に申し訳ございません。お二方の大切なご子息に……これは私の監督不足のせいです。罰は何でも受け入れる覚悟です」
「本当に……申し訳ございません」
深く頭を垂れる父と母に、現王は慌てたように「面を上げよ」と促した。
「怪我の件は、二人から“自己責任”と報告を受けている。現状では誰も罰することはできない。それより——あれほどの膨大な魔力と才能……これは国の貴重な資産だ。すぐにでも制御できるよう育てるべきだ」
エヴァンズ卿も同意を示すように、ゆっくりと頷く。
だが父は、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「しかし……今の不安定な状態で跡取りたちの傍に置くのは危険です。二度と同じことが起きぬよう、距離は置くべきかと」
——俺も、その意見に賛成だった。
前回の暴走は、レオンとリクトが自らの魔力で打ち消すことで、辛うじて抑え込んだらしい。
もし、どちらか片方でも欠けていたら……二人はもっと深い傷を負っていただろう。
(これ以上……あの二人を傷つけたくない)
しかし、その思いを口にした瞬間、二人は即座に否定した。
「私たちは魔力量も高く、魔術の制御もできる。他の者では、あの暴走を抑えることも防ぐこともできなかっただろう」
「そうなったら……その人間は死ぬ。だからこそ、僕たちのように魔術も剣術も扱える人間が常にそばにいて、力の使い方を教えるべきだ」
極端で、脅しにも似た言葉。
俺も父も、怪我を負わせた負い目から何も言い返せなかった。
「それに、この力が黒魔術使いに知られれば……カイルは確実に狙われる」
「奪われでもしたら、この国どころか、この世界が終末を迎えるだろう」
恐怖を煽るような言葉が、次々と突きつけられる。
結局、国王も公爵も押し切られる形で——二人は俺の側に居続けることになった。
だが、親たちは気づいていた。
その目の奥に潜む、常軌を逸した執着と狂気に。
そして——若くして強大な力を持つ息子たちに、今の自分たちでは力づくで対抗できない現実にも。
——さらに数日後。
悩みに悩んだ末、当主たちは一つの結論に至った。
「三人それぞれに婚約者を用意しよう。強制的に距離を置かせるのだ」
計画は水面下で静かに進められていく——はずだった。
しかし、その会議は魔法で盗聴されていた。
レオンとリクトは、同時に口角を上げる。
笑っている。
けれど、その瞳の奥は、氷よりも冷たく、狂気で満ちていた。
「……婚約者、ね。そんなものに、僕たちが負けるはずがない」
「——私たちの邪魔になるなら、壊してしまえばいいだけだ」
部屋の外では、まだ誰も——その言葉を聞いていなかった。