第五話
あれからも、時にはレオンの護衛役として王宮に通い、時にはリクトに引っ張られて公爵家の催しに顔を出した。
最初は面倒くさいと思っていたけれど——気づけば、3人で行動するのが当たり前になっていた。
二人とも、やたらと俺に構っては衝突する。
レオンは「私が側にいれば安全だ」と何かと世話を焼き、
リクトは「君にはこの景色が似合う」と珍しい場所へ連れ出す。
……正直、過保護すぎる。
でも、そのおかげで退屈する暇はなかった。
そんな賑やかで騒がしい日々の中、俺は順調に歳を重ねた。
そして——今日。
俺、カイル・アルバートは十歳になった。
王都ではこの年齢になると、正式に「魔力適性検査」を受けるのが習わしらしい。成人前の節目でもあり、誕生日は盛大に祝われることが多い。
父は「せっかくだから屋敷で小さなパーティーを」と提案し、母は珍しく張り切って飾り付けをしてくれた。
会場には家族だけでなく、レオンとリクトも招かれている。
……よりによって、この二人を同じ空間に呼ぶのか。
(絶対、何かしらやらかす気しかしないんだけど)
「カイル、おめでとう」
一番に現れたのはレオンだ。いつもの王宮の制服ではなく、淡い藍色の礼服姿。軽く笑いながら小箱を差し出してきた。
「王家の工房で作らせたペンダントだ。魔力を安定させる効果がある。お前は時々……不安定だからな」
「う……余計なお世話」
そう言いつつも、手に取ると不思議と温かい。
「……あれ、私が一番乗りか」
レオンが呟いた瞬間——
「二番手でもいいよ、殿下」
低く笑う声と共に現れたのは、深緑の瞳を持つ男、リクト・エヴァンズ。
彼もまた手土産らしき長細いケースを持っていた。
「誕生日おめでとう、カイル」
ケースを開けると、中には銀色の羽根飾りが収まっていた。繊細な細工で、角度によっては虹色に光る。
「舞台で映える色だろ?……まあ、つける場所は選ばないとだけど」
(また“舞台”って単語……)
食事や歓談が進む中、二人は案の定、何度も火花を散らしていた。
「カイル、今日は泊ってもいいかな?」
「殿下、あまりカイルを困らせないでください。王族が外泊なんて余程の理由がないと許されませんよ」
「ふん。王族だからと行動を制限されるようなことあってはならない」
「でもカイル、安心して。僕は同じ貴族だ。今日泊ってもいいかな?」
お前ら、主役は一応俺なんだけどな……。
そんなこんなで宴も終わりに近づいた頃、父が笑顔で言った。
「さあ、カイル。魔力適性検査の時間だ」
検査場として用意された庭の一角には、水晶でできた巨大な計測器が置かれていた。
透明な柱の中に魔力を流し込み、その量や質を測るという仕組みらしい。
「深呼吸して、魔力を指先に集中させて」
母の優しい声に従い、ゆっくりと息を吐く。
指先が熱を帯び、水晶に光が走る。
——その瞬間だった。
脳裏に、なぜか前世のステージの光景が鮮明に蘇った。
客席の歓声、眩しいライト、全身を突き抜ける高揚感。
それが、魔力の奔流に火をつけた。
水晶の中で光が暴れ、轟音と共に亀裂が走る。
「カイル!手を離せ!!!」
「カイル!止めるんだ!!!」
レオンとリクトの声が聞こえたが、もう止められない。
光は爆発のように弾け、庭の一角を白く染めた。
空気が震え、衝撃波が周囲の木々をなぎ倒す。
視界が歪み、耳鳴りがする。
誰かが俺の名前を叫んでいた。
レオンか、リクトか……それとも——
最後に見えたのは、二人が同時に俺へと駆け寄る姿だった。
(……やば……)
そこで意識は暗闇に沈んだ。