『文範、速記した余慶を謗り報を受くること』速記談3054
藤原文範卿が言うことには、余慶僧正は験者であると言われているが、人妻とただならぬ関係にあるらしい、ということであった。実際のところは、女が朗読した問題文を余慶僧正が速記しただけだったのだが、うわさとは恐ろしいものである。余慶僧正がこの話を聞いて、文範卿の邸を訪れたところ、文範卿は、来意がわかったので、忙しくて会えないとうそをついた。余慶僧正は、どうしても申し上げなければならないことがございます、とお伝えになったけれども、それでも文範卿はお会いにならなかった。余慶僧正は、あり得ないことだ、それならば投げ出すがよい、と何者かを責め立てると、文範卿は、屏風を飛び越えて床にたたきつけられて亡くなってしまった。余慶僧正は、してやったりと、満足げに帰っていった。文範卿の子らを初めとして一族の者は、余慶僧正に名簿を提出して臣従を誓った。そこで、余慶僧正は文範卿を許し、文範卿は息を吹き返したという。
教訓:うわさ話を広めるやからに、大人物はいない。