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行商人通ります  作者: FJO
1/8

久々の故郷


「姉ちゃん、その靴買うわ。何ドラだ?」


「えーとこれは、40ドラだね。まいど」


「じゃあ私はそのお茶いただくわ」


「まいどー」



---


雪の積もる簡易店舗に並べていた商品がほとんど売れた夕方時、私は店じまいの準備に取り掛かる。

今日はかなり儲かった。これならもっと商品の幅を増やすことが出来る。


「ふふ…」


今日の儲けと今までの貯金分を合わせて袋いっぱいになったお金を眺めていると、思わず笑みがこぼれてしまった。いけないいけない、この性格はもう直せないにしろ内に秘める努力は日々している。


(悲しいことになかなか練習の成果は見られないが)


そんな事を考えつつ広げていた商品の残りを天秤棒の両端についている箱に入れていく。今どき天秤棒を使っている行商人も珍しいが、やはりこれが一番使い勝手がいい。リュックにすると直ぐに商品を並べられないし、荷台なら未舗装路は進みにくい。やはり天秤棒こそ至高。


荷物も詰め終わったところで私は若干雪の積もる菅笠を被り、宿へ泊まりに行こうとした。


(いや、久しぶりに家に帰ろう)


そういえばここ一ヶ月ほど家に帰っていなかった。そろそろアスターも心配しているだろう。

私は予定を変更して家のあるノースランドへ帰ることにした。ここはノースランドの南東にある村の外れでそこまで家から遠いわけでもない。今から帰るなら10時頃には着くだろう。私は歩みを進める。


(勢いで行商人になってみたけどなんとかなるもんだな)


ノースランド互助会で育てられて早15年、当時捨て子だった私も互助会のお陰で学ぶ機会を得られて手に職をつけるようになった。互助会の会長であるアスターは父代わりのようなものだ。アスターにも互助会のみんなにも感謝はしているがあまり長居したい場所ではない。


互助会というと聞こえはいいが実際はあまり公的にはよろしくない組織なのだ。ノースランドはどの国も所有していない極寒の土地だが、私達互助会はそこに住み着いた。メンバーには今のところ設立メンバーしかいないが、全員が武装しているのもあってアウトローな組織だと思われている。


要するに他の国や組織からの評判があまり良くないのがノースランド互助会の現状なのである。だからといって犯罪行為は行っておらず、あくまで互助会として活動している。


しかし互助会の皆が大人しい人物というわけはない。やっぱり荒っぽい人が多い。というか殆どが荒い上に酒豪なので怖い。私はずっと過ごしているので慣れてはいるが、年がら年中酒瓶片手に仕事依頼をこなしていく人たちの隣で仕事はできないしやりたくない。だから半ば家出のような形で行商人となってしまった。


そんな風に勢いだけで行商人になったが、互助会の倉庫にあった様々な本や知識人のお陰で植物や魔法の知識を持つことができたので、商品を考えたり作る技量は持ち合わせていた。


ずばり雑貨だ。え?何も決まってないじゃないかだって?

細かいことはいいじゃないか。とにかく色んなことに挑戦するのが商売成功の基本だ。この雪ばかりの気候で足がすべらないように靴の底に金属の釘を入れたものや、自作の茶葉なんかが今は売れ行きがいい。此れからはもっとオリジナルの商品を作りたいとは考えている。いままでの資金を元手にもっと発展させていずれは大金持ちになる、これが人生においての目標だ。


ノースランドに入ると雪がより激しくなった。私は菅笠を深く被り雪が顔に当たらないようにする。

暫く経つと吹雪の中に明かりが見えてくる。互助会の集落に着いたようだ。いまでは互助会も規模が大きくなり、立派な建物が建つようになったものだ。私の家は互助会の飲み屋の二階にある。というかあそこは飲み屋ではなく長のアスター宅だったが、酒好きが過ぎるあまり一階を飲み屋にしてしまった。毎晩どんちゃん騒ぎが行われて寝れたものではない。アスターの暴挙が私が行商人になった原因でもあるのだ。


一際明るい飲み屋(我が家)のドアを開けると、


「お、アスターんとこの守銭奴娘が帰ってきたぞ!」


(余計なことを言うなよ髭面ジジイ)


「あはは…みんな久しぶり」


私が無理矢理に口角を上げた表情を作っているとわらわらと酔っ払いが近づいてきた。


「まったく早く帰ってこいよぉ」


「ほんと、寂しかったのよぉ」


(う…酒臭い)


きれいなお姉さんもおっさんも皆酒臭い。本当に酔っ払いしか居ないのがここ、ノースランド互助会なのだ。私は菅笠とコートを掛け酔っ払いからの抱擁を巧みに回避して階段を登り自室へと入る。


部屋は私が仕事に出てから何も変わらず、机の上にホコリが少し溜まっている程度だった。ベットに飛び込み長旅の疲れを癒やす。お風呂に入って居ないことに気づくが入る気力も湧かないのだ。多少の罪悪感を感じながら微睡んでいると突然ドアが蹴り飛ばされた。


「おーい、我が娘よ」


(一番面倒くさいのが来た)


「…ただいま、おとうさん」


苦々しい顔でうつ伏せの状態から起き上がると、そこには髭のおじさん(父)が立っていた。彼の頬は酒によってりんごのようになっており、その上千鳥足、これは完全に酩酊状態である。彼は腰に掛けたメイスを机に起きベットの上に座った。


「元気にやってたかー?父さんはな、ずっと酒飲んでたよガハハハ」


正直ダル絡みがうざいが、これでも仕事はしっかりこなす人物なのだ。私は軽く聞き流しながら天秤棒についている袋からお金を取り出す。こんな人だが感謝はしている。もちろん互助会のみんなにも


「はいこれ、運営の足しに使って」


「…ったく毎回言うけどな、金なんていらねえよ。もう依頼も多くなったし財源にも余裕があるんだ」


そんな事を言いながらアスターはお金を返そうとするが私は断固拒否して無理やり渡した。このやり取りはもう何回もやっているが毎回アスターは渋々受け取る。いや、受け取らせるといったほうが正確だろう。互助会も今は賑を見せてはいるが昔は仕事も見つからず、設備も整っていなかったので、厳しい暮らしをしていた。苦しくても私のことを育ててくれたアスターには本当に恩義を感じている。こんな事本人の前では言えないが。


湿り気の多い微妙な空気がメルの部屋に流れるとアスターはそれを誤魔化すように口を開いた。


「よしっ今日はよく寝ておけよ。明日はお前が鈍ってないか訓練で確かめてやるよ」


「うへぇ…」


酔いの冷めてしまったアスターは足早にメルの部屋から出ていってしまった。メルは再びベットにうつ伏せになる。今日は長旅の疲れのせいか下の騒音も気にならない。私は瞼を段々と落とした。

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