ヴァングラスと赤い薔薇の刺繍
刺繍のハンカチのお話のヴァングラス視点の番外編です。
久しぶりのミリーの世界のお話の投稿にドキドキしてます(>_<)
よろしくお願いします。
私は何かミリーにしてしまったのだろうか……。
ここ一週間ほど、ずっとミリーに避けられている。
いや、思い当たる事はある。
先日のデートでアーンをしてもらった。
あれか?
いや、逆にアーンをしてあげた事か?
帰り際に、口づけそうになった事?
でもあれは大丈夫だと思う、多分。
それとも、手を繋いだ事だろうか?
しかし、あれはしょうがない。
あの愚かなイーギス商会の息子を前に、動こうとした私を留めたあのミリーの苛烈な視線。
ゾクリとした。
貴族令嬢の矜持に背筋を伸ばし、扇子が美しくも清洌に動き、一つひとつの扇子ポーズに覇気が漲っていた。
惚れ惚れとした。
ミリーは幾度となく私を絡め取る。
すぐさま口づけ、自分のものにしたいと思った。
でも、駄目だと理性が押し止める。
ミリーの気持ちが最優先だ。
あの阿呆な第二王子との婚約破棄はまだ記憶に新しい。
ミリーは全く気にしていない風だが、傷つかない訳はない。
今、ミリーはさっさと男など見切りをつけて、明るいおひとり様ライフの未来に向かって、しっかりと地に足つけてズンズン歩いているところなのだ。
そんな彼女にその心を向けてもらうのだ。
私は息子どころか孫までいるし、ミリーより年も随分上だ。
しかも、今日分かったのだがミリーのお父上と私はたったの4つ差だった……。
流石にへこんだ……。
だが、どうしても私はミリーと共に生きていきたい。
私の隣にいて欲しい。
ここまでの強い気持ちは初めてで、自分でも持て余してしまう時がある。
ミリーがあのイーギス親子をやり込めた後、私はその手を取った。
彼女の手は店で繋いでいた時と同じで小さく柔らかく、しかしその時と違って冷たかった。
私がその手を握った時、ミリーはホッと力を抜いた。
強くて弱い、そして弱くて強い、そんなミリーが愛おしかった。
ギュッとその手を握るとミリーはホワリと安心しきった顔で笑った。
私はその日一日ずっとミリーと手を繋いで過ごした。
ミリーと繋いだ手を離せなかったのだ。
婚約者でもない、付き合ってもいないのにずっと手を繋いでいたのは、やはり距離を詰め過ぎたのだろうか。
いや、やっぱりアーンか?
それとも両方か!?
もしかしたら、ミリーを困らせてしまったのかもしれない。
私は眉間に皺を寄せたまま一つため息をつくと、次の指示を出した。
さっさと盗賊討伐の準備を終わらせて、今日こそミリーと話し合おう。
その時まさかのミリーの姿を見つけた。
「ミリー、ちょっと待ってて」
私は急いで近くにいた騎士に指示を出すと、すぐさまミリーの元に走って行った。
ミリーの顔が心なしか切羽詰まった表情に見えた。
「どうした?何かあった?」
もしや、またイーギス商会か?
「あの、これを」
ミリーは真っ直ぐに私の目を見つめて、そっと何かを差し出した。
ハンカチ?
「見ても?」
ミリーが俯きながら頷くのを見て、私はそのハンカチを開いた。
丁寧に刺された、たくさんのピンクや赤に近いピンクの蓮華の刺繍、そして私の瞳の色の刺繍糸で私の名前が。
私は嬉しくて一つひとつなぞるようにその花々を見つめた。
そして見つけた。
蓮華の花に混じって目立たずにひっそりと咲く一つの花。
赤い薔薇?
私はその瞬間、首から顔から耳までも赤くなった。
その花言葉は "あなたが好きです"
私はミリーを抱きしめた。
嬉しくて嬉しくて、勢いのまま強く抱きしめてしまいそうなところを、必死に理性をかき集め、その華奢な体を包むように優しく抱きしめた。
「ありがとう、すごく嬉しい」
私はその気持ちのまま破顔した。
ミリーも安心したようにヘニャリと笑った。
どうしようもなく、嬉しくて愛しかった。
きっとミリーは、このひっそりと咲く刺繍の薔薇でその気持ちを伝えるつもりはないだろう。
彼女の事だから、思わず刺繍してしまったとか。
そして、目立たないし見つからないとか思ってハンカチを渡したのではないだろうか。
しかし、これは紛う事ないミリーの気持ちだ。
この赤い薔薇はミリーの心だ。
その心はいつの間にか私に向いてくれていたのだ。
だったら、私はもう遠慮をしないし、手加減もしない。
覚悟して、ミリー?
本編では沢山のいいね、ブックマーク、評価、そしてご感想をありがとうございました(^^)
とても嬉しかったです。
お陰様で、まさかの11/21 異世界/転移の日間恋愛ランキング1位、総合日間ランキング1位、11/25 異世界/転移週間恋愛ランキングで1位、11/26 総合週間ランキング1位になり驚きました。
応援してくださった皆様のお陰です。
心から感謝です。ありがとうございましたm(_ _)m