嫌な予感…当たらなければいいけどな~。というフラグ
☆★☆ 5月15日(月) 放課後 ☆★☆
噂と悪意との戦いに、一応の決着がついた帰り道。
俺たちは今日も4人で一緒に下校する。
森口さんに対する悪意が、ほとんど感じられなくなったとは言え、『油断は大敵である』と俺が主張し、西村さんがそれに同意してくれたからだ。
森口さんは遠慮して「もう大丈夫よ」と言い、やんわりと断ってきたのだが。
「『黒薔薇同盟』の名付け親が遠慮してどうするの?」
と、村上さんに押し切られた形だ。
俺たちは、仲良く帰り道を歩む。
☆★☆ ☆★☆ ☆★☆
帰り道の話題はやはり、今日の昼休みの事になる。
「ねえ竹中くん。あなたも…ちゃんと報われたのよね?」
森口さんが心配そうに話かけてくれた。
「ん? ああ。ちゃんと報われたよ」
森口さんを利用した罪悪感は少し残ってるけどね。
「そう、なら良かったわ」
森口さんの、微笑。本当に綺麗だな。
「竹中くんって噂にも悪意にも負けないホントーにすごい人だったんだね~。わたしちょっと感動しちゃった」
「……噂とか悪意とか、目に見えない敵との戦い方をずっと考えてたって、竹中くんは本当につらい目に合ってきてたんだね……」
「そうね。わたしが気になっているのもそこ。小さい頃からずっとつらい目に合ってきた竹中くんが、わたしを守ることと自分が報われること。つまりわたしを守るって事は、本来の自分の目的だったって事なのね」
「ああ。だから必死で森口さんの友達になりたがってたんだ。へへ、不純な動機だろ?」
わざとちょっとだけ露悪的に笑って見せる。
「全然不純じゃないと思うわ。むしろ幸運が重なった結果だと思うわ」
「幸運? 重なってた?」
「ええ。敵討ちの機会を探していたあなたと、わたしが接触できた幸運。過去の敵討ちを果たす機会を求めていたあなたがわたしと接触できた幸運。そして本当に信頼できて、一緒に戦ってくれる友達に恵まれた幸運」
そうか、そう考えると確かに幸運が重なっていたな。
「ホントだ~。結構幸運が重なってるね。実はわたしも竹中くんにちゃんと謝って、お友達になれたし、森口さんともいーっぱいお喋りできて楽しかったし~」
初めて村上さんに話かけられた時には心が萎えてしまったと言う過去も、今ではもう笑い話だ。
「私も竹中くんと仲良くなれて嬉しい。最初は詩織のせいで話かけるのも、かーなーり、気まずかったけどねー?」
西村さんが造花に嵌ってるって話が聞こえたのも幸運なことだったんだな。
「うぐ……亜子ちゃん、ごめんなさぃ」
「でも、詩織があんな風にでも、竹中くんに話かけに行ってくれたからこそ、それが切っ掛けになって今の私たちがあるのよね。なんだか不思議な気持ち」
今の私たち…か…明日からは今日までとは違うんだよな。
「明日からの…昼休み、どうする? 一緒の弁当。続けられる?」
続けたいけれど、自然に続ける理由が無くなっちゃったんじゃないか?と言う疑問。
「わたしはこれからもずっと、続けたいわ」
森口さん…ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。
「わたしもわたしも~」
村上さんは何となくそう言うと思った。でも、嬉しいな。
「なんか続けられない理由でもあるの?」
西村さんは当たり前に続けるつもりだったのかな?
「ああ、噂や悪意を心配する必要がなくなった以上、一緒にいる建前が無くなっちゃったし、これからも続けていくのはなんか変かな? って思ってたりしてさ」
「あれ~? 竹中くんらしくないな~。急に竹中くんだけ抜けちゃったら、今度は逆にどうしたんだ~? ってみんなの注目を集めちゃうよ~?」
「お、詩織にしてはわかってるじゃん。私も詩織と同意見。それに、一緒にいてくれた方が手芸のアドバイスももらえるし、また実演もして欲しいし、その、竹中くんの優しい表情…見れるし…」
優しい表情?
「あ~亜子ちゃんそれ以上言っちゃダメ~!」
「あ、ゴメン詩織」
「そういえば、魔王って何?」
『優しい表情』で思い出した。実は気になってたんだ。西村さんが言い出したらしいし。
「「え!?」」
西村さんと村上さんの声が綺麗にそろった。今度デュエットでも歌って聴かせて欲しいかも。あ、そういえば俺、リスナー。一回やめたけれどもう再開してるし今度リクエストでもしてみるか。
「ま・お・うって何?」
気になっているんですよ? ん?
「そ、それはアレだよ。詩織、説明して」
「それはね~」
「あ、やっぱりダメ!詩織に言わせると碌なことにならないんだった!」
「え? 亜子ちゃんひどいよ? それ」
「自分で言います。……あのね?私、結構ファンタジーな漫画とかアニメとかが好きでね、よく勇者とか魔王とか出てくる作品が好きなの」
「ほう。俺も結構好きだな。そういうの」
今度そういう話もしてみたい。
「でね、森口さんをヒロインに見立てて、竹中くんを魔王に見立てて、自分たちを四天王みたいに考えてみたらなんかしっくり来たって事なの」
「なんで魔王? 勇者じゃなくて?」
「勇者ってさ? 周り全員が味方って感じでしょ? 私たちは周り全員が敵って感じだったから…なんとなく」
「なるほど。客観的にみるとそうかも…って、納得しかけたけど、魔王はねぇわ!」
「アハハハ。亜子ちゃんの妄想って楽しいでしょ~」
「あ~まぁ…うん。楽しい…な。仕方ねぇ、もう、西村さんだからいいけど、他のクラスメイトには言われたくないなぁ」
「くすッ…渡辺くん、去り際に大声で言ってたからね~。あれ、クラス中にハッキリ聞こえたわよ、絶対」
森口さん、凄い悪戯っぽい表情。こういう顔も出来るんだね。
「わ、私ならいいの?」
「あれ? 亜子ちゃん? なんか変な顔になってるよ~?」
「ホントね。ふふふっ」
なんかホントに楽しいな……こんな関係で、こんな時間をいつまでも過ごしたい。なんて本気で思うよ。
って、そんな時に。
『ブブブブブブブブブブ!』
「あれ? メールじゃない?」
「ああ、カオリおばちゃんからだ……」
内容を確かめただけで、もう疲れた。
「はあ~~~~~~~……」
「どうしたの?」
3人とも俺を心配そうに見つめてる。この3人に見つめられるとちょっとドキッとするね、コレ。
「お願いと言う名の命令。ブーケの注文、大量に入ってるって。また俺をあてにする気らしい」
「昨日みたいな感じ?」
西村さん。昨日手伝ってくれて凄く助かったな~。
「うん。でもまぁ、昨日のよりは期間とかの余裕ありそう。なんだけど…なんか嫌な予感がするよ。と言う訳で俺は、今日もキミたちを送ったら杉見手芸店直行だ」
やれやれ。
「あの…竹中くん」
「ん? 西村さん?」
「昨日みたいにお手伝いしてもいいかな?」
「あ~亜子ちゃんズルい」
気持ちは嬉しいけどね~
「う~ん、放課後のああいう作業って結構時間遅くなるし、やめておいた方がいいよ? 今からだと多分、一個作るだけでも夜の7時は過ぎると思うから」
やんわりとお断りする。夜遅くに女子を一人で歩かせるわけにはいかない。
「そっか、そうよね。ごめんなさい」
落ち込まないで、西村さん。手伝いたいって気持ちだけでも俺、めっちゃ嬉しかったから。
「気持ちは嬉しいよ西村さん。でも、マジで嫌な予感がするんだ」
嫌な予感。大事なことだから言ったの2回目~。
「嫌な予感?」
「昨日さ、オーダーメイドがどうとか言ってたし」
「あ、うん。言ってたね」
「ジューンブライダル直前だし」
間違いなく結婚式用のブーケだろう。
「あ~! そういえばブログがバズってる~って!」
そう。あの日、あの時のくそババアは完全に調子に乗っていた。
「『今すぐ来い』って、メールの文面もなんか慌てた感じの印象を受けたし」
「ねえ、私たちも行ってみない? 手伝いは無理でも、何があったか気になっちゃった」
西村さんが帰り道の変更を提案。
「そうね、わたしも気になるわ」
森口さんも気になるらしい。と言う事は?
「じゃあ、今日は手芸店に直行しましょ~う」
村上さんだけ来ないわけがない。
「そうか? ならそうするか」
遅くならないうちに帰ってくれるのならば問題もないだろうし。
嫌な予感…当たらなければいいけどな~
この時の俺は、自分が、フラグを立ててしまっていることに、まだ気付いていないのであった……




