正体
遊びに来て頂きありがとうございます
「二人共大丈夫?」
「う、うん」
満月の夜ではあるが、木々が茂る森の中では、足下まで月光が届く事はない。ここは村から北側にある山の裾野に広がる森である。私が居る森とはほぼ真逆になることから、月夜を30分以上歩いている最中だ。今は森の中に入り、サーベルキャットと応戦しているという店主がいる場所へと向かっている。
こんな夜の道で歩き慣れていない子供達は私の後ろで怯えつつも、懸命に歩いていた。その姿に今回の首謀者に憤りを感じずにはいられない。
「アレル。後どのくらい?」
「うーと。あの前の木々の所、明るくなってる。あそこに池があって。そこに……」
「そうか、目前だな、二人は後少し行ったら、木々の影で隠れていな」
すると彼の足がピタリと止まると、同時に兄の背中を掴んで歩いていたキアラも足を止める。私は心配そうに兄の顔を覗く。
「どうしたアレル」
「香月お姉ちゃん。あのね、僕、僕」
言葉を詰まらせて話出すと、瞳から涙が溢れている。
「本当は、サーベルキャット居ないんだ。嘘付いたんだ……」
「ああ」
足を折り、彼の涙を手で拭うも、次々と涙が溢れた。
「お店に、いきなり人が来て、お父さんがっ捕まって。魔法使いか姉ちゃん、連れてきたら、お父さん返してくれるってっ」
泣きながら懸命に伝えよとしている少年の頭を撫でる。
「悪い事してるって、わかってるっ、でも、お父さんがっ、香月お姉ちゃん。お父さん助けてっっ」
そう言い私の胸に飛び込み、そんな姿に妹も一緒に寄り添い二人は泣きじゃくった。その背中を宥めるように摩り、二人の名前を呼ぶ。泣いている兄妹の顔はくしゃくしゃだ。
「大丈夫。二人のお父さん。絶対助けるから。だからそんな顔しない」
私の言葉に大きく頷く二人の顔を拭いてあげると、二人を池の畔ギリギリの木陰に連れて行く。
「いい、ここから出ては駄目。後声を上げない事」
子供達は頷くのを確認すると、一回大きく呼吸をする。そして足を踏み出し畔に出た。アレルが言った通り、そんなに大きくはないが、池があり、湖面は月の光が反射し銀色に輝いている。その時だった。
「おや、あなた一人ですか?」
飄々と話す声の方に目を向けると、手を前で縛られ、足を氷で固定された店主が視界に入る。彼はボロボロに裂かれた洋服を纏い、体全体に青アザが点在していた。その背後にはどこかで見覚えのある顔が現れ、その男を凝視する。
「私の顔、覚えありますか? 先日はお世話になりました」
「お世話した覚えはない」
「いえいえ私はきっちり頂きましたよ。今回はそのお礼を差し上げる為に来たまでです。あなた方のせいでアジトも部下もぜーんぶ失った私の代償というお返しにね。全く探し出すのに苦労しましたよ。でも良かったです。こうやって会えたんですからね」
「とりあえず、目的は私だろ。店主を解放してくれ」
「そんな要望通ると思いますか? 私から全てを奪っておいて」
すると、男が陣を展開すると、店主の足元の氷が脹脛へと徐々に上へと伸びていく。
「あれは、私を倒すか、足の陣を壊す事以外進行は止まりませんから。早く対処しないと店主は氷柱になりますけどね。まあ無理の話だとは思いますけど、私を倒すなんて」
尚も、男が陣を展開すると、鋭利な氷柱が数個形成されこちらに飛んできたのだ。思わず顔を手で覆う。しかし思っていた感触がなく、目を開ける。すると、驚いた表情をした男の顔が目に飛び込む。輩は再度慌てて氷柱を造り出すとこちらへ再び飛ばすも、その氷は私の手前二メートルぐらいで消失した。これがセルリルが言っていた無効化という事なのだと確信する。
「ど、どう言うことだ…… 今までこんな現象起きたことなどない……」
戸惑いの色が隠せない男ではあったが、怒りに感情の先行している輩は腰に指した剣を勢いよく抜き出し、振り上げた。
「だったら、これであなたを串差しにしてあげましょう。魔法使いはその次だ!!」
語気を荒げこちらへ走ってくると、剣を振り下ろす。尽かさず、私も剣を抜き、弾き返すも、直ぐ様互いの剣で突き合わせた。血走る目が憎悪に満ちているのがわかるが、そこは私とて似た感情は抱いている。ましてや人の命が掛かっているのだ。互いの背後に下がり、間合いを取る。そしてすぐさま輩が剣を振りかざし、銀色に光る刃を叩きつけるも、それを剣で防御する。
「ほう。女のくせいになかなかやるな。ではこれはどうかな?」
すると、男が掌に陣を展開すると、店主の方にそれを向けた。その途端、氷の浸食が一気に速まる。
「!!」
「少しスピードあげてみました」
すると背後から、隠れていた筈の子供達が出てきた姿が視界に入った。
「お父さん!!」
「そんな所にいたのかチビ共、お前達もあそこの父親のように氷漬けにしてやる」
「やめろ!!」
声を荒げ、彼が成形し始めている魔法陣を止めに走る。その時、池の反対の森から凄まじい殺気を感じ、動作が止まった。
それは目の前の輩も感じたようで、陣が途中で止まり、暗がりの森の方に視線を送る。すると、二つの緑色の光を確認することができた。それは徐々に大きく見えるようになると今度は、低く唸る獣の声が聞こえる。そして物体は木々を抜け、ゆっくりと畔に現れたのだ。
私の知る虎を二回り大きくした獣。一メートルぐらいの牙が象牙色に光っている。すると、先程まで息巻いていた目の前の男が小刻みに震え始めた途端、声を張り上げ叫ぶ。
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