そんなの百も承知
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二人の帰った室内は明らかに重い空気が漂っていた。日頃から明るい雰囲気などないが、今はそれに輪を掛ける状態だ。ガラス越しは既に暗く、夜を迎えており、今夜は夕食の当番になっていた事もあり早々にこなす。
今は彼のいる空間に居たく無い気持ちが先行し、いつも以上に食後の片づけを手早く済ませた。そんな中、セルリルは食事後もリビングに入り浸っている為、自室に戻ろうとした矢先。今日二回目のドアのノック音が響く。
一番近くに居た事もあり、私がドアに向け声を上げる。すると、何を言っているのかわからない返答が返ってきたのだ。再度声を掛ける。すると弱弱しいが聞き覚えのある声が耳に届く。
「アレルです」
その名前を聞き慌てて開けると室内の光に照らさたアレルと、その背後にはキアラが隠れている。今の状況もあり浮かない表情と共に、何かに怯えているようであった。また、アレルもいつもの表情とは違い強ばった面もちで、気持ち目が潤んでいるように見えるのだ。その時点でただ事ではないと感じ、両膝を床に突き二人の目線に合わせる。
「どうしたんだ二人共。こんな遅くに? 店長さんは?」
私の顔を見ると妹は泣き始めた。それをアレルは宥めつつ、彼も今にでも泣きそうな表情を浮かべたかと思うと俯く。
「何があった?」
するとその問いにゆっくりと顔を上げたアレルが表情そのままで口を開く。
「サーベルキャット見つけたから、一緒に着てほしくて、急いで呼びにきた」
「サーベルキャット?」
そのワードに最初に食いついたのは、私の背後のテーブルで本を読んでいたセルリルであり、そんな彼が思わず呟いた。
「本当なの?」
セルリルに同調する様に驚きの声を上げる私に、アレルは自身の足元へと視線を落とす。
「い、今お父さんが捕獲しようとしてるけど、一人じゃ無理だから二人を呼んできてって、頼まれたんだ」
相変わらず下をむいたままの少年をじっと見つめる事、暫し。
「とりえず、二人共入な」
そう言い招き入れると、予備の椅子を出し二人を座らる。そして明日の間食にしようと思っていたドライフルーツとミルクを出した。
「これ食べてて」
「あのっ」
アレルがいきなり切迫した声を上げる中、笑みで答えつつ、セルリルを呼ぶ。
「ちょっと貸してもらいたい物あるんだけど、書庫入って良い」
「何でだ」
「防具みたいなのこの前見たんだけど、貸してくれない」
彼の反応など見る事なく勝手に地下へと降りていく。手前には天井まで積まれた本棚が数本の列になり置かれている。その奥にはマジックアイテムやら、魔具といった怪しげな物が乱雑に置かれていた。
その中に、弓道の胸当のような防具を見かけたことがあったのだ。暗がりの室内で物色する事暫し。
「あった」
そう言い手にしたのはシルバー色で輝きを放ち、叩くとそれなりに鉄のような音がする。だが見た目より軽い弓道の胸当てに類似した代物だ。それを装着していると、背後から気配を感じる。が、それにはあえて反応はしなかった。すると、溜息が後ろから聞こえてきたのだ。
「お前、何してる」
「二人に同行する準備だけど」
「はあ? お前だってわかってるんだろ? あの態度からしてキャットなんかいやしない。明らか嘘をついてる事ぐらい」
「そうね。子供だしあんなもんよ」
「だったら、そんな茶番に乗る事あるか? それに明らかに何かの罠だ。兄はどうにか堪えているが表情が硬い上に挙動不審だ。妹にいたっては怯えきっている。日頃の様子からいってもあれは尋常ではない」
「だから何?」
「お前大丈夫か? 罠の可能性が高いんだぞ。あえてその口車に乗る必要性はない」
「だとしても、あの二人はこんな夜に獣道みたいな所を通って、アンタに明らかに冷遇されるの承知で来てるの。その根性と思いは買うべきでしょ。それに……」
防具をつけた私は一回両手で顔を叩く。
「子供相手に、あんな怯えさせて行かせる奴の顔を拝んでみたいじゃない」
「…… 好きにしろ」
そう言い捨てるセルリルの前を通ると、一階に向かい、子供の前に立つ。
「私が一緒にいくから。とりあえずある物食べちゃいな」
二人の目線に合うように腰を屈めると、再度子供達に笑みを浮かべた。
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