鬼畜魔法使いと一つ屋根の下…… ストレスMax、癒しを求める
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「全く何なのよあいつ」
思わず愚痴を零す。そんな私は数日前に全ての身なりを一変させれていた。腰に二本の剣を携え紺碧色のロングブラウスを着用する。と共に鼠色のパンツにロングブーツを履き、今は森の小道を歩く。
この世界に来て様々な出来事に翻弄される事約一ヶ月。アジト襲撃騒動直後から、セルリルと別行動をとるつもりでいたのだが、結局彼の家に住んでいる。
と言うのもあのアジト襲撃直後に腕輪をつけられたのだ。どうやらこれはGPS的機能を持つ物らしい。また私の体質に考慮した作りらしく、彼の魔法と知識を駆使し、私の居た世界でいう『気』のようなモノが練り込まれているようなのだ。それもセルリル自身の『気』というほぼ呪いのアイテムに等しい代物。
まあ私自身も幼少時から武術を叩きこまれていた背景から、個々固有の殺気、色気、惰気など『気』を肌で感じる事があった。それは似た感じはあるものの、他人同士がまるっきり同じ『気』という事は、自身の経験上ない。それらを踏まえ、魔法がかけれない私に彼の『気』を練り込んだ腕輪をつける事で、魔法ではなく彼自身の『気』を辿る事で私がどこに居るかわかるといった具合のようなのだ。
お陰で彼と同じ屋根の下に住み始めて数回脱走してみたが、直ぐに見つかってしまった。
「だいたいこんなもん状況もわからない人間に二日も経たずにつけるのはおかしいだろ? しかも私の意向も聞かないであいつの都合だけでこんなもん!! 私利私欲も良とこだ!!」
到底他者から聞けば独り言とは思えない怒りが滲む叫び声を口にした。と共に、左手首をちらりと見ると、装飾もない銀色のブレスレットが、木々の木漏れ日に反射し光る。それを今の気持ちそのままの勢いで、強く引っ張ってみるも外れる気配はない。
「っもう、根本的にこんなんで場所がわかる事態この世界おかしいだ!!」
そう言い捨て溜息を付き、少し気持ちを落ち着かせる。まあ実際今も環境や自身の変化に馴染めず戸惑いが隠しきれていない事が多々ある。初日は中世ヨーロッパの雰囲気の街並みや、竈による直火の料理などで新鮮味を感じた生活。また外見の変化に気付き驚きもしたが、ここ最近における驚愕の出来事の一つが言語等についてだ。と言うのも文字や話してる言語が全て解釈出来、書けると言う事。
言葉は確かに当初から普通に話せ理解も出来ていた為、一瞬日本かと思っていた。だが、セルリルの恰好や話を聞くにつれ、そうではない事は明白になったうえ、実際彼の家にある書物を目にした時、確実に見たことのない文字だったのだ。しかし何故だか私にはそれを理解する事が出来るようになっていた……
まあ時間単位は多少類似しているものの、いきなり類例のない土地に放り込まれた状態化だ。なので人と対話が出来、字が理解可能と言う事に関しては棚から牡丹餅であり嬉しい変化なのは間違いない。だが、やはり不思議でならない状況ではある。
また外見も改めて念入りに確認してみるに、大幅に変わってしまっている事もあり、毎朝顔を洗う度に一回は驚く。髪の色もさることながら、顔のパーツはそのままなのだが瞳の色だけが髪より少し濃い目の色に変色しているのだ。身長も再度改めて測定した所、確実に10cmは低くなっていた。
一通りの出来事だけでも愕然としてしまうが、それ以上に度肝を抜かされた事ある。なんとこの世界には人間はともかく、魔物、妖精が存在している事。また、彼が当初言ってた通り人は誰しもこの世界に漂う波動によって魔法が使えるという現実。
何でもこの世界の義務教育課程である程度の魔法の基礎を習うらしい。それと共に、各々の相性の良い属性と個人においての波動キャパシティーを調べるとの事。またそのキャパシティーが高い事で、様々な事が魔法で具現化出来るというのだ。セルリル曰く、頭で想像するだけで可能だと言っていた。が、私が見た限り、あんな凹すかあらゆる属性の魔法を使う人などここに来て出くわした事がない。全くもって鼻もちならないが、魔法の実力とセンスを持ち合わせている事は認めざるをえないのだ。
まあそんな状況化の私においては、この世界の人間から誕生していない事により、波動を取り込み魔法として使いこなせる体質が備わっていない。その為、魔法を扱えない。その変わりというわけではないが、魔法の効力を受けないのではないかというのがセルリルの出した仮説である。
一連の現象を立証するが為、何回か実験台にさせれたが、あらゆる属性における様々な物理、精神攻撃と癒しが全く通用しなかったのだ。彼自身、当初は予測であり確信出来ずにいた状況ではあった。が、目の前で起きる現実を目の当たり続けた結果、セルリルの仮説は立証された形となり、私自身における魔法及び癒し効果は皆無であり、精神系、全物理的攻撃無効と彼は結論付けたようだ。
(まあでも怪我は直ってほしかったかも)
また、その体質に加え私が武術に長けている所にも食いつき、再度協力を依頼してきた。同時に、腕輪をはめられた数時間後には、今腰にある二本の剣も護身用という名目で渡されたのだ。
彼の場合魔法使いと、腕輪の様に物理的なモノを手掛ける事の出来る、魔術師と二種の職を掛け持ちしているようなのだ。まあ魔法等は優れているものの、武術一般は苦手らしく、セルリルと出会ってから今迄彼が剣等を握っている姿を見た事がない。まあ耳障りの良いように護身用と言って剣を持たされてはいるが、アジトでの自身の振る舞いを目にした時から彼の中で、私は白兵扱いなのであろう。
(にしても剣渡された時、少し様子が変だったな……)
それなりに大所帯をまとめてきた事もあり、他の人よりも表情の少しの変化で相手の気持ちが、なんとなくだが察する事が出来る。あの時も、怪しげな笑みを浮かべ協力を打診してきたが、横柄の塊のような彼から一瞬ではあるがもの悲しさを感じたのだ。だが、後にも先にそれ一回だけであり、それ以降は極重悪人そのものである。
特に私的に目に余る態度として映るのが、明らかに彼より弱者と認識出来るであろう人物に余りにも容赦ない対応をとる事。そういった所は彼も善処するべきではないかと思ってやまない。
「見てても気分悪いんだよ」
またしてもストレスのあまり、思わず口にしてしまった言葉を、飲み込むように口を紡ぎ辺りを見回す。どうやら様々な事を考えているうちに、森を抜け家から一番近い村に足を踏み入れていた。
石が並べられた道路の両側には煉瓦で出来た家がならんでおり、村で一番の繁華街が視界に入る。この通りには主に商店等が立ち並び、村民はここを起点にポツポツと間隔をあけ家を作り暮らしている。なので人々は、ここまで必要な物を買いにくるのだ。そんな背景もあり、思いの外この通りは人通りがある。幾人かの村民とすれ違う事暫し、緑色の看板が掛かった赤い屋根の店の前に立つとドアを開けた。店内は大小様々な瓶が並べられ、その中には葉やら、実、中には獣の足のような物まで瓶に入り整然と並び、店内左端にカウンターが設けられ人が立っている。
「こんにちは」
「はいいらっしゃい。あーー お嬢さんは」
「先日はありがとうございました」
威勢の良い声と共に黒短髪で眼鏡をかけた店主が振り向き一瞬考え込むもわかったようで、笑みを浮かべる。
「孤塁の魔法使いの弟子さん。今日は服装も変わってたもので、わからなかったですよ」
「あの服はちょっと目立つので、この前お隣の服屋で購入したんです。あと店主。私弟子ではないんで」
すると、店の奥から賑やかな声と共に、黒髪マッシュルームカットの男児と同色の髪色で三つ編みをした女児がこちらに走って来るや足に飛びつく。
「じゃあお姉ちゃんあの怖いお兄ちゃんのお嫁さん?」
「いやいや絶対ないから」
「そうだよキアラ、あんな腹黒魔法使いと結婚なんか出来るもんか。きっとお姉ちゃんが一緒に住んでいるのだって、なんかの弱みを握られていて、どうする事もできないんだよ。ね、香月お姉ちゃん」
「アレル!! お客さんにそんな事言うもんじゃない。すいませんうちの子供等が」
そう言い、二人の肩に手を置き、謝罪を促す様に子供達に厳しい視線を送る。それに気づいた二人が頭を下げた。
「いや、良いんです気にしないで、二人を放してやって下さい」
その言葉に、店主は二人を再度言い聞かすと手を放す。すると私の前に再び近寄ってきた。
「お姉ちゃんごめんなさい」
「怒ってる?」
二人が心配そうな顔でこちらを見てお伺いを立てて来た為、私はそんな二人に合わせるように腰を屈める。
「何とも思ってはいない。それにあいつは確かに素行が良くないんだ。だから気にしなくていい」
そう言うと、子供二人の表情がパッと明るくなった。
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