願い
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「嘘よ……」
ライラがボソリと呟く。
「こんなの嘘に決まっているわ。それにこれが本当にツベルフ伯爵本人が書いたという証拠なんてない!!」
「証拠? あなただってわかってるでしょ? あの牢にあった亡骸は彼よ。だって肖像画と同じ服だったし、そのポケットから出て来たハンカチだもの。第一にライラ事態、これを書いた人物がツベルフ伯爵だと内心ではわかっているんじゃないの? あの庭園といい、この文章といい、彼は生前ライラを本当に大事にしてくれたんじゃないの?」
「そんな事ないっ、私を、私なんかを大事にしてくれるなんてっ」
「だから大切に思われたんだって!! あんたはただ愛されるのを怖がっていただけよ!! 実父の様に慕っていても相手が答えてくれないかもって、高を括っていたから。思った所で切ない思いをするなら、期待を持つことをやめて、それと同時に好意も素直に受け止めることが出来なくなってただけ!! そんなあんたに伯爵は懸命に行動で、言葉で伝えていたんだよ。だけどライラはそれに気づかなかった。うんん、気づいていても見て見ぬ振りをしていただけでしょ!!」
「違うっ、そ、そんな筈がない!!」
すると、彼女は私を突き飛ばすと、駆け出し戦火の中へと飛び込む。と同時に、核が光を放ちライラを囲むと共に、一緒に外へと出て行ってしまったのだ。
「ライラ!!」
突き飛ばされた衝撃でよろめき床に腰を着いた。私はすぐさま立ち上がり、彼女を追おとするも、足がまだ思う様に動かずよろめく。するとそんな私の腕をセルリルが掴かみ、心配そうな表情をこちらに向けている。彼の心情を感じながらも、セルリルの胸元の服を掴んだ。
「セルリル、私をライラの所まで連れていって!!」
「はあ? そんな状態でか? 俺が行く。香月は物陰に隠れてっ」
「言いから早くっ!!」
必死に訴える私にセルリルは一回大きく息を吐くと、ハンカチを胸元に仕舞う私を抱き抱え、彼女の後を追う。
「どこに居そう? 気配とかわかるセルリル?」
「わかるわけないだろう。だいたい俺はあの核が機能しているせいで、あいつに近づけない上に魔法も遮断されている。香月は心当たりないのか?」
「心当たりって……」
そう問われ暫し思考を巡らせている中、赤く広がる庭園が視界に入ってきたのだ。
「セルリルとりあえず庭園行って!!」
「ああ」
その指示に従いセルリルは庭園へと足を踏み入れる。すると甘くうっとりするような香りが漂う。嗅いだことのある匂いにつられ、花に目をやると転生前に見たことのある花だと気づく。
「薔薇?」
「薔薇がどうした?」
「こっちにもあるんだね薔薇って」
上から見た所では何の花かはわからなかったが、どうやらここは一面の赤い薔薇が植えてあるらしい。そんな庭園で彼女を探す。すると少し小高くなった場所にガセボが目に止まると、その中に彼女は立っていた。
「ライラ!!」
すぐさまその場所へ向かうと、ある程度の距離で彼に下ろしてもらう。そしてライラを見つめた。辺りは激しい攻防を繰り広げているというのに、やけに静かな空間が広がり、暫しの時間が過ぎた。そんな中、彼女はこちらに背を向け、小高い場所から庭園を見つめている。
「改めて間近で見ると本当に綺麗な庭園だね」
「……」
「ライラ。リンセント王国に花に自己の感情や意志を託した表現方法があるか知らないけど、私の居た所でもこれと同種の花があって…… この花に象徴する言の葉が『愛情』って言われていたよ」
その言葉の後、彼女は何を思っていたか定かではないが、沈黙の時間が寸刻流れ、ライラは曇天の空を見上げた。
「何よ、結局の所とんだ茶番を演じたのは私だったのね」
悲しげな笑い声がガセボ内に響く。そしてゆっくりと振り向くと、私の後方にいたセルリルに視線を送る。
「全てを失っても死した父に愛され、今は自分を顧みない程に大切で互いを理解し合える人が近くにいる。本当に腹正しい人。でもそんな人を羨む日々をこれ以上送るなんて御免だわ」
そう言うと、握っていた短剣の手を振りかざす。その直後、躊躇する事なく彼女自身に刺したのだ。
「ライラ!!」
もつれながら慌てて駆け寄り、倒れるライラを抱えた。腹部に刺さった短剣から鮮血が溢れ出す。それを抑えん為、手で覆うも止まる気配もなく、生暖かい液体が絶え間なく出てくる。
「何をやってるの!! あのハンカチさえあれば情状酌量の余地があるの!! それはライラに生きていて欲しいから!! ツベルフ伯爵の娘のあなたに想い込めた遺書なのよ!! そんな伯爵の胸の内ライラだってあれを読んでわかったでしょ!?」
息絶え絶えの彼女はクスリと笑うと共に、周りあったオレンジ色の光が一気に弱まっていく。そんな中、セルリルも駆け寄り、私の向かい側で膝をおる。
「セルリル!! 核の効力無くなったなら早く治して!!」
すると、その言葉に促され陣を形成するも、一瞬光った青白い光は瞬く間に消失していく。
「クソっ、まだ核の効力が彼女に対して強く反映されている!!」
「そんな!!」
打つ手がこれ以上ないか自問自答する中、彼女が再度口を開いた。
「謝ったりしないっ、わよ。それにしても…… 二人見てたら本当、会いたくなってきちゃった……」
すると彼女はゆっくりと手を天井に伸ばすと満面の笑みを浮かべた。
「一人はこりごり…… 今からライラはそちらへ迎います。あなたの最期の思いを聞き入れなかった娘を…… 叱ってくださいね御父様」
その直後彼女の手がパタリと落ちる。それと同じくして周りに囲んでいた核の光が完全に光を失くす。私はすぐさま彼女の名前を連呼するも、穏やかに笑みを称えたままの彼女の瞳が開く事はなかった。
伯爵の切なる思いを叶えてやりたかった…… と共に、実父の愛情を欲していたのにも関わらず、与えられることなく生きてきた彼女…… まるで以前の私の姿をみているようだ。そんな思いが胸に過り、ジワリと熱いもの込み上げ目頭が熱くなる。それと同時に、この現状を認めたくない思いに駆られライラの名を呼び続けた。そんな私に向かいにいたセルリルが左右に首を振る。
「香月、もう……」
「わかってる!! わかってるけどっ」
今まで堪えていた涙が溢れ出すと、幾つもの滴が頬を伝った。その姿をセルリルが見つめる事一時、こちらに片手を伸ばすと優しく頬を撫でるように暫し拭う。すると私の後頭部にその手を回し、彼の首元に埋める様に私の頭を寄せた。そしてどことなくぎこちないながらも優しく私の頭を撫で始めたセルリルの手がとても暖かく感じる。そんな中、風に乗り勝ち鬨の声が耳に届いた。
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