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死しても尚

遊びに来て頂きありがとうございます

 思わず握ってしまったセルリルの手は、一瞬本当に冷たく、陶器の肌そのものの様に感じた。が、徐々に私の手の平に温もりを感じとれるようになってきている。その現状に、安堵する。にしても、いつもならすぐさま魔法で対処する彼が自身の身を呈した行為。今までそんな事をされた覚えもなければ、セルリルがそんな仕業をするとは思ってもいなかったので、驚きしかない。


(まあ、それは彼だけじゃないんだけどね…… そんな私もこんな事しちゃっているんだけど、この状態ってどうすれば良い?)


 と言うのも勢いで彼の手を握ってしまったせいで引っ込みがつかなくなっている。

 そんな矢先、私の名前を連呼しながらタスラムがこちらに走って来たのだ。胸中で『ナイスタイミング』と思いつつ私はすぐさま握っていた手を離し声の方へと視線を向ける。すると息を切らした彼がセルリルの横で膝を着いた。そんなタスラムは今にも泣きそう表情を浮かべ私を見た直後、強く抱きしめてきたのだ。


「香月!!」


 タスラムが私の名を叫ぶ。と、瞬時にセルリルが、彼を引き離し、タスラムを嘗めるように凝視しながら睨む。


「おい!!」


 セルリルが声を荒げたものの、私はそれを無視し、タスラムを見た。そんな彼の表情は、いつもの笑みはなく、未だに泣き笑いに近い面持ちを浮かべたままだ。ライラに刺されそうだった時の声から考えても、かなり心配してくれていた事が分かる。私はそんな彼の思いに感謝しつつ、笑みを浮かべた。


「ねえこの軍ってタスラムが?」

「まあね。それより香月怪我ない?」

「うん。でもちょっと変な薬盛られたせいで、うまく動けないっていうか」

「それなら直ぐにここを離脱して、医療班の所にっ」

「そうしたいのはやまやまだけど、私、ちょっとやらなきゃいけないことがあるから……」

「やらなきゃいけない事?」

「それよりも」


 私は徐に、セルリルとタスラムの手を取る。と言うのも新ためて2人を見るに、致命傷ではないようだが、かなり傷をおっている事が、見て取れたのだ。


(セルリルはらしくない事するし…… タスラムは軍動かしちゃうって。その上こんなボロボロ……)


 そう思った瞬間、胸に熱いものが込み上げ、目頭が熱くなる中、2人をじっと見つめた。だが、このまま彼等を見ていると、泣きそうになってしまうので、慌てて視線を下に落とす。そして親指が双方の手を撫でる。


「私より二人の方が酷い怪我してるじゃない……」


 声が少し震えてしまう中、そんな私を、黙って見守る様に2人は暫し沈黙する。すると、遠くからタスラムを呼ぶ兵士の声が聞こえると共に、疲労困憊の兵一人が彼の背後に倒れ込むように膝を着いた。


「タスラム様。ここにいらっしゃいましたか」

「すまない任せっきりになってしまった。しかしその様子だと状況は良くないようだね」

「はい。あの者達にはこちらの攻撃がほぼ効かず、魔法で対策しようも、敵が多く、こちらの疲弊が激しいのが現状です」

「そうか…… セル。実際戦ってみてわかったことある?」

「はっきりした事はわからない。だが、あの不死がいたと言うことは、前例を踏まえれば、アイツを倒せばこいつ等もいなくなる可能性が高い」

「成る程」


 すると、そんな話をしていた矢先、ライラの声が聞こえてきたのだ。即座に彼等が立ち上がり身構え、声の方を見ると、手に二本の剣を持った顔の青白い紳士と、その後を追いながら懸命に声を掛けて歩く彼女の姿があったのだ。私も未だにフラつく足で立ち、ライラの方に視線を向ける。すると、紳士は10メートル程の所で立ち止まり、手にした一本の剣をこちらへと投げたのだ。それは床を滑りながらセルリルの少し前まで到達する。


『剣も持て』


 いきなり紳士からの声に、一瞬目を見張る。そんな中、尚もその者は口を開く。


『剣も持て我が息子。ミトリナ当主は剣が全て。お前が後継者として育てるのが我が勤め』

「あーー。あんたは知らないだろうから教えてやる。もうこの国にミトリナの名を継ぐ者などいない」

『何を言っている。早く剣を持てセルリル』


 いきなりの展開に目を見開く。あの目の前にいるのがセルリルが長年追っていた実父の亡骸なのだ。すると亡霊の腕を掴みライラは叫ぶ。


「御父様、そんな事をする必要はないのです!! 早くこちらへ。御父様に何かあっては!!」


 しかしそんな彼女の言葉を聞く事も一瞥すらしない。ただ真正面を向き剣を構えた。


『お前が持たぬと言うなら持たせるまで』


 すると、不死から猛烈な圧をかけてきたのだ。いきなり浴びせられた覇気に、一瞬体が硬直する。また、彼の身体に触れていたライラも、ただならぬオーラにすぐさま手を離し後ずさりし、よろめきながら後退していく。そして、横の壁に背中をつけた途端、力なく座り込み頭を垂れ両手で顔を覆った。

 彼女には散々な目に合わされたが、あの姿は居た堪れまい。そんな思いが過ぎる中、目の前のセルリルは亡骸を睨みつけていた。そんな彼の肩にタスラムが手を置く。


「セル、私は軍を建て直しに向かう。ここは頼むよ」

「誰に言ってやがる」

「はいはい」 


 するとタスラムが再度、今度は力を込めて彼の肩を叩き掴む。


「ケリ、つけてこい」

「ああ」


 そう言うと、彼は踵を返し、私に面と向かう。


「香月、ちょっと行ってくるね」


 すると投げキッスをし、戦場の渦へと飛び込んで行く。





 

読んで頂き有難うございます

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