来てくれたの?
遊びに来て頂きありがとうございます
どんな薬を盛られたか知らないが、だいぶ時間は経っているであろうに未だに、足下が覚束い上に視界も鮮明ではない。そんな状況の中、どうにか地下牢から抜けだし、暗がりの世界から光のある地上へと辿りつく事ができた。ただ、いかんせん身体が思い通りに動かない。そんな中で誰かに見つかってしまえば今までの苦労は水の泡である。兎に角慎重に事を運ぶしかない。とりわけ、今はどこに繋がっているかは謎だが、目の前にまっすぐ続く廊下を進む事が最善。
万全ではない中注意を払い物陰や部屋に潜みながら、歩みを進める。少しずつ前へと進む最中、何かあったのか先までそうは通る事のなかった灰色のローブの輩が徐々に廊下を闊歩する人数が多くなってきているのだ。お陰で隠れる回数が増えなかなか思った通りのペースで進めなくなってしまった。だがこんな状態での無理な行動は禁物である。近くの部屋にすぐさま入ると、小さな客間の様な室内のダブルソファに座り少し寝転がった。
(流石に疲れるわ)
脱獄してからの勝手のわからない城。そしてこの身体。知らず知らずのうちに意識が遠のき瞼が閉じ、気持ちよく眠りに向かっている時だった。体が揺れ地震でも起きた様な感覚が生じ目を覚ます。そして身体を起こし暫くそのままの姿勢でいると、揺れは未だに強弱があるものの続いている。だが日本で感じた地震の揺れではない。恐る恐るドアを開けると、甲冑を纏い、剣を振るう騎士とローブの輩が箇所箇所で戦闘を繰り広げている姿が目に飛び込んで来たのだ。慌ててドアを閉め一回大きく深呼吸をする。
(一体どういう事?)
再度ゆっくりとドアを開け様子を見ると、やはり先と同じ風景を捕らえることができた。
(幻覚ではないのね)
何が何だかさっぱりではあるが、ある意味これに乗じて逃げ出せる可能性はある。とりあえずドレスでは目立ってしまう事もあり、テーブルクロスに使われていた、エンジの生地を上から羽織り、ドアの前に立った。そしてゆっくりと戸を開け、廊下に立ってみる。すると周りは互いに気を取られ、他者は目に入っていないようで、廊下に立つ私を気に止める者はいない。それがわかった所で廊下の進行を再開する。
至る所で甲冑の騎士とローブが戦い、中には明らかに疲弊している騎士も見受けられる。かたやローブの集団は切っても差しても直ぐに元の姿に戻ってしまい、いわゆる無敵に近い。ざっと見ただけでもローブ側の方が優勢である。
(騎士の陣営ヤバくない?)
そんな事を思いつつ、壁伝いに歩いて行くと、目先が室内だというのにあり得ない程に金春色に光を放ち、一際声と激しく剣を交える音が聞こえてきたのだ。ジワリジワリとその場所へと向かう。すると視界が一気に開けた後、最初に通されたエントランスと気づくと共に、その床が光を放っていた。そんな中、大勢の騎士とローブが合い交え交戦しているのだ。それは正しく修羅場であり、今まで目にした事のない光景に、思わず両膝をつき声を失う。
(一体何が起きてる? 第一この騎士達は誰の指示なのよ)
一瞬疑問符が浮かぶ。しかし私の脳裏を掠めた人物がいた。彼ならこれだけの権力を掌握できる。
視界がいつも以上に晴れない中、戦闘要因を目を細めながら会戦を見つめた。すると、遠くからカツカツという音が聞こえ、その音はこちらへ近づいてくる。そして私の斜め前でその音が止まると共に、両膝をつく私に影が覆った。ゆっくりとその影の人物の方に目をやる。するとそこには鬼神の様な形相のライラが片手に短剣を振りかざし立っていたのだ。
「よく、あそこから出れたわね。でもせっかく出れたけど、香月はここでサヨナラよ」
そう言い、私にめがけて短剣を振り下ろした。
(あっこれ、前にも味わった駄目なやつだよねきっと)
受け身もとれず、ただただ目を強く瞑る。その時様々な音が混じる中、断末魔の様な声が私の耳を掠めた。
「香月!!」
いつもは甘くどこか色気のある声とは一変、叫びの様な一声。
(やっぱりこの軍はタスラムだったんだ。しかもこんな最前線みたいな所にいるなんて……)
最期に知人の声が聞けたのだ。もう思い残す事はないという思いと共に最期の時を刹那待つ。しかし、予想を反し痛みも何もない。その時私の鎖骨に数滴、何が落ちた感覚がした直後、私の斜め上で低く痛みを堪える様な声が聞こえた。閉じていた目を徐々に開けていく。すると私の頭上で彼女が自身差す筈の短剣が掌を貫通しているビジョンが目に飛び込む。と同時に、多数の傷を追うセルリルが苦痛の表情を浮かべる横顔が視界に飛び込んできたのだ。居るはずもないと高を括っていた事もあるが、彼が空気を吸う様に扱える魔法を使うのではなく自らの身を挺して短剣を止めた行為に驚愕のあまり声も上がらない。そんな中、剣の先を辿り、彼の血が再度鎖骨に垂れ、現実に引き戻される。
「セル…… リル……」
その言葉に彼は口角を上げてみせた。
「フン、何だその腑抜けた顔は」
すると、ライラの手をグリップから強引に離させると、彼女を放り飛ばした。ライラはその勢いで足下がもつれたものの立ち上がり私等を睨み、その場を去っていく。時を同じくして、セルリルが膝を折り短剣の刺さった手首を掴みうずくまる。
「どうしてセルリルがこんなトコ来てるのよ!! それよりっ!!」
取り乱す私の頭にもう片方の手を起き数回優しく叩かれ、彼の顔を見た。苦痛に絶えながらも彼はぎこちない笑みを称えている。
「布っ、手の下にっ」
言われるままに、羽織っていた布を破りざっくり折り畳む。その間に彼は、激痛の表情を浮かべながら剣を一気に抜き、壁際に短剣を投げた。滴る鮮血の手を両手で支えると、彼は陣を傷口に翳す。するとみるみるうちに、跡形もなく傷が無くなった。
「もう、大丈夫だ」
言葉と共にセルリルは私の目の前に手を出し見せる。私はその手を両手で掴み、額にあてると、彼は私の成されるままに手を預けた。
「何してんのよっっ、びっくりするでしょ!!」
「それはこっちの台詞だ」
そう言い彼の手を暫く握りしめていた。
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