集え!!
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その時だった。ネズミ色のローブを着た人物が、いきなり体を振るわせ始めたかと思うと、部屋から飛び出していったのだ。家主の娘の命をあからさまに背く使用人はいない。すぐさま廊下に出ると、私には目もくれず、灰色の者達が同じ方向へと走っていくのだ。確実に何かが起きている。不穏な予感が更に拍車がかり、その流れに合わせその者達の進む場所へと一緒に足早で向かう。
するとガラス張りの天井の高い吹き抜けの下、中ダンスホールぐらいの広さぐらい円の形をしたエントランスに灰色の輩達が何かを囲むように集まっていた。また、螺旋階段から二回に上がる踊り場にライラ嬢が立っている。そんな彼女がエントランス中央にめがけ扇子で口を覆いつつ、険のある目を向けていたのもつかの間、彼女が扇子を閉じた。
「何故ここにいるのですかセルリル。あなたを招いた覚えはありません!!」
ほぼ怒鳴り声と同等の一声があがると共に、彼の名を耳にし、先に過った予想が的中したことに愕然とする。すぐさまその方を見るに、灰色の集団の隙間からセルリルの姿が伺えるものの、香月はその傍らにはいないようだ。一瞬彼を囮に、彼女を探しにという考えも浮かんだが、そんな事をして追々香月がセルリルと同類と思われても侵害…… と、思案を暫し巡らしている間にも灰色の者達が益々群がっていく。そんな状況もあり、彼も攻撃に転じているようだが、一向に数が減っていかない。
その現況に一回溜息をつくと、腰に下げていた剣に手を置き、曇天の空が見えるホールの渦に飛び込む。
「私も混ぜてもらっていいかな!!」
声を上げながら、剣を抜く。いきなりの展開に、周りの集団の動きが一瞬止まり、その隙にセルリルのいる場所へと向かう。
「香月はどうしたセル」
「五月蠅い。お前こそなんで来た」
「えっ。なんか大変そうだったから。それに真打ちって後から登場するもんだろ?」
「ふん。俺はタスの当て馬か」
「そんな事よりもだ」
二人を中心に灰色集団は益々その人数を増やしていく中、頭上にいる彼女を見た。
「タスラム様。これはどういうことですか?」
「そうですね。王の用件もありましたが、それに加えて私とセルが可愛がっている『猫』がここに連れて来られたようなので、保護しに来たと言った所でしょうかね」
「猫ですか…… 何の事を言っているかわかりかねますね。ただ今の様子からしてタスラム様。あなた様はセルリルと共闘でもしてらっしゃるような物言いでしたが?」
「では彼と『共闘』しているとしたら、どうしますかライラ嬢」
その言葉に彼女が険相を帯びた表情へと変わる。
「そうですね。タスラム様の言う『猫』が私の予測と合っているようなら…… 使用人からタスラム様の言う『猫』が逃げたと連絡が入ったんです。なので急ぎ足を向けた矢先にセルリルと出くわした訳ですが、ある意味好都合だったとも言えますかね。遅かれ早かれセルリルには居なくなってもらう予定でしたし。まあそれにつられ彼に加担する問題分子も食いついただけと言うこと。後に私達の邪魔だてをする可能性も高い事ですし仕方ありません」
すると、閉じた扇で私達を指し示す。
「生かすことはありません。おやりなさい!!」
彼女の一声と共に、周りの輩が完全なる戦闘モードと一気に切り替わり、白い手袋が裂け、長い爪が生えたかと思うと、それを使いこちらにめがけ一斉に攻撃をしかけてきたのだ。セルリルが咄嗟に氷柱で防御を張り、その防壁より溢れた輩を剣で貫いた。確かな手応えと、裂かれたローブを直視したものの、それは瞬く間に再生していく。勿論息をつく間もなくセルリルも攻撃に転じるも同様の現象が起きた。
たえまなく続く進攻に応戦をする中、防壁で閉じこめ、また石柱、氷柱にするといった手法が一番の打開策と互い認識する。それに伴い、セルリルにひたすら陣を発動し続け、私が輩達の攻撃を凌ぐといった体勢へとシフトしていく。しかし、私達の周りに無数の柱が立ち続けるものの、輩達の数は減る気配がなく、返って増えているような感覚に陥る。そんな状況でもあり、懸命に抗戦はするも徐々に互いの身体に切り傷等が増えていき、息もあがってきた。
「タス。もうヘバってきたのか?」
「まさかーー セルこそ陣の発動遅くなってきてるんじゃいの?」
背中合わせで互いに声をかけつつ、背後をチラリと見るとセルリルと目が合う。彼もまた疲労の色が濃い表情を浮かべていたが、視線を交わすと同時に皮肉混じりの笑みをこぼす。
「ほざけっ」
その言葉と表情にいつもの彼だと再確認すると共に、自身も笑みを浮かべた。その時階段の踊り場にいたライラが上階に登って行く姿を捉える。そして彼女が吹き抜けによりオープンになっている二階廊下を走っていった。思わず目でその先を追うと、ツベルフ伯爵が立っていたのだ。だが、モノクルに映し出された人物は彼とは違った。青白く、生気のない表情。そして幼少期の記憶に残る生前そのままの姿。
「ミトリナ辺境伯……」
思わず声を上げる。すると私の背後にいた彼もその姿を捕らえ睨みつける。
「間違いないっ、あれは俺の追っている獲物だ!!」
セルの言葉がエントランスに響くと同時に私はモノクルを外す。そして床にそれを叩きつけた。ガラスが割れる音が耳に届くとほぼ同じくして、ターコイズブルーの光を放つと忽ち直径10メートルの円陣とエンブレムが現れる。そして瞬く間にエントランスにいる全ての者の足下が澄んだ水辺の様な色へと染めていく。同時に、エンブレムが一気に同色の光を放ちながら上空へと向かい、ガラス張りの天井を超え、城の真上の曇天の空の元、王家の紋が神々しく輝く。そして頭上の紋章を指し示し、息を大きく吸い声をあげる。
「現時刻を持ち、王の権限を一時的に私タスラム・ファスリナ・フォードに移行する!! 我が軍よすぐさま集え!!」
そして二階にいる二人に指を差す。
「これより王の名において、ツベルフ伯爵失踪重要参考人及び、我国民の生活に甚大な負の影響を及ぼしたとし、この場で処罰を行う。ただ、今までの所行はあまりにも目に余る行為。すぐさまひれ伏せよ。その声に従い抵抗がなき場合は温情として弁明の機会を設けるとする。だが剣をむけるようであれば即刻極刑と成す。また今の言葉に従わない者も同罪と処す!!」
言いきった言葉と共に遠くから地鳴りと微かな揺れを足下から感じる。それは待機していた軍が動き出した証拠であった。
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