私の本音
遊びに来て頂きありがとうございます
「結局の所ツベルフ伯爵とは会わせてもらえないという事でしょうか? ライラ嬢」
「ですから先程からそうお伝えしているではないですか、タスラム王子」
扇子で口元を隠しながら冷ややかな視線を、ホマルク城に訪れてからずっと浴びせられている。しかしそれは想定済みである。
「確かにこちらも急に押し掛けはしましたが、国王の使者も再三こちらに王宮への出立を命じる文が届けている筈ですよ。それにその者達から直接確認し、確実に渡したという証言を得てますし」
「ええ。確かに頂戴しておりますが、その際もこの周辺に流行している幻覚を見せる奇病の対応に追われ、それに伴う過労で体調を崩し、足を運べない為と返事を返しております」
「ですから、私がわざわざ足を運んだのです。具合悪く王都に出向けないと言う事は王から聞いています。またツベルフ伯爵の今まで王の為に忠義を果たてくれた功績もあります。それも踏まえこうやって温情という形で私が赴いている事が、おわかりにならないわけがないですよね?」
「承知はしています。ただ、王の兄弟であるタスラム王子に申し上げるには非常に失礼と存じ上げますが、あなたはあくまでも王の血族という身分であり、王ではなのです。ここまで足を運んで頂いた事には敬意を申し上げます。ただ、床に伏せる義父に会わせるわけにはいきません」
そう言うとライラは一段と強い眼孔をこちらに向けた。
(はいはい。だからといってこちらもひきませんよ。にしてもこの牙城をどう突破するべきか……)
内心に問いかける。と、その時目の前の彼女に使用人が近より、耳打ちをした。一瞬目を見開くも、すぐさま今までと同じ表情に戻る。
「すいません。少し用が出来ましたので、暫しお待ち下さい」
すると、膝を折り頭を下げ使用人一人置き退席していった。そんなライラの居なくなった部屋で、一旦休戦の間合いに一回大きく息を吐く。そして天井を見上げ、ソファーの背もたれに体重を預けた。すると昨日からの嵐のような日々が脳裏に次々と掠めていく。
結局香月が連れて行かれたという話しを聞いてから、この城に乗り込むのに一日が経ってしまっている。その間、兵の準備から、乗り込む際の段取り、待機場所の選定、また、戦闘になった場合の対策など様々な事を急ピッチでこなしてきたのだ。今だかつて私が交渉するにあたりこんな慌ただしく事を進める事はなかった。的確な情報を調べあげた上で、相手より少しでも有利な条件、もしくは穏便に事を進める為の下調べは戦略を練るのに必要不可欠だからだ。しかし今回はその前置きがない中での行動であり、今は積み重ねてきた交渉技術とそれに伴う勘をフルに使いこなし挑んでいる。本当ならセルから話しを聞いた上でもう少し調べてからと思っていた。ただ、そんなややこしい案件首謀者に香月が同行していったとなると、悠長な事を言っている場合ではない。
(香月……)
兄から頼まれた案件もさることながらそれと同等に、香月の身を案じてやまない己がいる。本音として先のライラと交渉した際、彼女についても問いたい気持ちが幾度となく込み上げた。だが、立場上一市民にだけに固執する立場ではなく、それを問う事をどうにか留めたのだ。
まあそんな一筋縄では行かない今回のミッションではあるが、今までのセルと異なり積極的に協力しており、それに関しては心強い。因みに現段階において、私とは別に城内に潜入し、彼女を探している。
(やっぱり気持ち、焦りもするよね。私もそうだけど)
と、言うのもセルリルが、裏口から密かに進入する際同行したのだが、外に置かれたゴミ捨て所のような穴の中に香月の着用していた衣服が放り込まれていたのだ。流石にあの時は鼓動が大きく跳ね上がった。それと同時に隣にいた彼が愕然とした表情を浮かべる姿が視界に入ったのだ。その時、彼もまた香月に淡い胸の内を抱いている事を知ってしまった。
まあ遅かれ早かれそうなるとは思っていたが、彼の今回の行動とその表情で香月に対しての本気度が伝わる。ましてや彼女の安否がわからないのだからセルも今は必死に城内を探しているであろう。
ただ、気がかりは今ライラが席を外し部屋から出ていったという事。一瞬動揺の色が見えた事から、何かが起きているのは確かであり、最悪なケースが頭を過る。彼故に大丈夫だとは思いたいのだが、今のセルリルの感情状況からいけば、絶対とは言い切れない状態なのだ。
(さて、どうしたものか…… あの物体が居なくなってくれれば話が早いんだけど)
自然体を装い部屋の入り口に立つ使用人を見る。裸眼では黒いスーツと蝶ネクタイのフットマンが姿勢よく立っている様に目に映っていた。だが、モノクルを装着している方の眼には白手袋つけ灰色のローブに顔が見えない程深くフードを被った人間が立っている。それはこの城内ですれ違った使用人全てが同じ格好をしており、普通ならあり得ない光景だ。だが、幻覚を起こしてる元凶の仕業という事であれば納得いく話しではある。
確かにこの城に来るまでの道中の町村は活気もなく、人影といえば眼が虚ろで発狂しながら俳諧、また軒下でうずくまり何かを呟いている様子の人々を多く目撃した。
セルリル曰く、幻覚の一種の魔術がかけられているのではなく、そのなにがしらの力が強力のあまり、城下に余波が押し寄せ影響を受けているのではないかと持論を展開。それがどういった術なのかは結論が出せないと言っていた。ただ、根源を絶つ事さけ出来ればこの者達は快方に向かうであろうと言っている。まあ彼の見立てでありそれは間違いないだろが、この周辺の町村に影響を与える程の術。考えただけでも、これが広がる事により確実に国は衰退する。下手をすればこれを悪用し、国を操るといった事さえも可能になるのだ。つくづくとんでもない案件だと憂鬱さが増す。
だからと言って手をこまねいている場合ではなく、荒削りではあるが、対策をそれなりにしてこの城に赴いてはきた。今のモノクルからの情報もそうだが、今回このレンズに幻覚無効化の細工を施してあるのだ。お陰で俳諧する不思議な物体が確認する事が可能になっている。それは兵にも同等の仕掛けを施し、一人一人の所持品にその処方を行い、合図でいつでも乗り込めるように計らった。
(まあ最終的には奥の手を使う事になるけどね)
それにはやはり、ツベルフ伯爵本人に会わなくてはどうにも前に進めない。周辺の状況を踏まえても、ライラ嬢の行動も操られている可能性も否めない為、これ以上の無理強いはできないのだが…… 打開策はないものかと再度思考を巡らすと共に、モノクルのレンズを指でなぞる。
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