この上ない鬼畜
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その後朝食を食べ、当初の場所から歩き出して数時間ずっと森の中を歩き続けていた。以前よりがたいが小さくなった分、動きやすいが、持続力が落ち今までより疲れが溜まる。最初のうちは彼について行けたのだが、今では数メートル距離があくようになっていた。
そんな状況でもセルリルは背後を一度も見る事なく進み続ける。しかもこの辺りの足下は、樹齢が長い木々が多いせいか、根が隆起している為、歩きにくいのだ。お陰で彼との距離は益々開く。そんな中、私は大きな根に足を取られ転倒した。
「っつつ」
思わず声が漏れうずくまるも、彼はそれに反応する事はなかった。いかんせそんな彼の態度に声を荒げる。
「待ちなさいよ!!」
その声に流石に振り向くと、セルリルは離れていてもわかるぐらいのオーバーリアクションで溜息をつく。
「何やってるんだ」
「見ればわかるでしょ。転んだの」
「そうか。じゃあ立って行くぞ」
「行くじゃないわよ。あんた私に協力あおいでおいて私を置いていってどうするのよ!!」
「はあぁああ。手が掛かる」
あからさまに腑に落ちないといったような表情を浮かべながらこちらに近づく。そして座り込む私の前でしゃがんだ。
「で、怪我は」
そう問われズボンの裾をたぐり上げると、膝に少しのかすり傷が見受けられた。セルリルは直ぐに陣を作りだし、それに当てる。改めて今まで目にした事のない光景に思わず凝視する。が、一向にこれといった変化はない。
「ねえ。今、何してるわけ?」
「…… さあ…… 何が起きている……」
陣を解き彼が暫く思索を巡らせた後、木の実と水を差し出す。
「とりあえず、アジトも近い。食べておけ」
「あっうん。ありがとう」
徐に手を伸ばし口に運ぶ。そんな私の横で彼は何かを考えている。その様子からして長くなりそうな雰囲気に少し安堵しつつ、今朝の話を思い返す。
今私等が向かっているのは、残党のアジトであり、そこを殲滅するのが目的らしい。
そのアジトを塒にしている輩達は常日頃から、街などでも盗賊紛いの事をしていたようなのだ。まあ今回運悪くセルリルの所有していたモノを盗んだらしい。それを取り返す為というのが彼の言い分なのだ。
ただそのアジトに何人仲間がいて、リーダーも一緒にいるのかといった情報はわからない。ただ、昨夜の残党の一人をわざと取り逃がし、その男にマーカー的魔法を施していたようなのだ。彼の予想だと、アジトに戻り体勢を整えるであろうと予測。また、その輩が昨夜逃がして以降移動し、ある所から動きをみせない事から、拠点であろうと読んだとの事。後は現地に行ってからの様子で対処するらしい。
まあ暗中模索状態である私は、彼の言ったように行動するしかないのだ。そんな彼は未だに考えているようで、顎に手を添え眉間に皺を寄せている。
「これ食べれば?」
それでも一人で食べるのは気が引けもらった木の実を分け差し出す。
「俺はいい。それより行くぞ」
「そう。じゃあ遠慮なく」
木の実を口に含みゆっくりと立ち上がる私を確認することなく、セルリルはまた先を歩き出す。そして歩きを再開して20分。少し足場も平坦にもなり、それでも彼との距離が短くなってきた。その時、前を行くセルリルの足が止まる。そして、近くの大木に隠れた。その動きに私の足も止まる。
すると、彼は口元に人差し指を立てながら手招きをした。多分『静かに』という意味だろうか。指示されるがまま、彼の方に行くと、セルリルが小声で話ながら、目線を前へと据える。
「アジトだ」
彼に合わせるように視線を同じ方に向けると、今までの木が密集していた所からいきなり視界が広がり、広場のようになっていた。そんな場所に木造平屋の家が視界にはいる。と、同時に数人腰に剣のような物を差す男と、家の前には門番が居た。
「警戒してる?」
「まあそうだろう。逃がした奴はあの中に居そうだからな」
「で、これからどうするの? 人数もわからないし」
「問題ない」
「えらい自信ね。で私は何すればいいの?」
そう言いセルリルの顔を伺う。すると彼も私の方を見ると、いかにも何かを企んでいる様な笑みを浮かべる。その瞬間、私の腕を掴む。
「とりあえず、行ってこい!!」
言葉と共に、私を放り出すように広場のへと押しだれてしまったのだ。あまりの事に絶句しかない私に、勿論外に居た西洋の甲冑のような物を装着した残党達が近づいてくる。
「おい!! お前どっから来た?」
「えっ!! どっからと問われても」
いきなりの展開で流石に言葉がでない。そんな私に尚も追求が続く。
「その服装も見たことないな」
「あーー そうですか? スエットと言うんだけど」
「スエット? 聞いた事あるか?」
「いやない」
顔を見合わせる男等が、互いにアイコンタクトをとる。
「何にせよ、怪しいのは確かだ」
そう言い、その中でも一番がたいの良い男が私に手を伸ばしてきたのだ。その行動に思わず彼の腕を掴み、ひねり上げ大男を一回転させると、地面へ落下させた。いきなりの事で二人の男は豆鉄砲を食らったような表情を互いの顔を見つめ、一瞬空気が止まる。そしてゆっくりと目線を私の方へと向けつつ、腰にある剣に手が延びていた。
それに気づきすぐさま、一人に回し蹴りをお見舞いし、その反動で隣にいた剣を握ろうとした男を巻き込み倒れたのだ。案の定この騒ぎに気づいた門番が、仲間に知らせたようで家から続々と男達が出てくる事、ざっとみつもって数十人。あっと言う間に私を中心に周りを囲まれた。流石にこれだけの人数を相手にするのは無理であり、セルリルも未だ沈黙したままである。周りの男達よりも彼に対する怒りが倍以上にこみ上げてくる中、一人黒髪の糸の様に細い目をし、口髭を生やした男が私の前に一歩前に出た。
「女。お前あの魔法使いの仲間か?」
「仲間? さあどうなのかな?」
「フン。あの男に似てふてぶてしい態度だ」
「あんな奴と一緒にすんな!!」
「どうやらあの魔法使いと同類で口の聞き方がなってない。お前等教えてやれ」
そう言い、彼は円陣から離れていく。と、同じくして男共は戦闘モードに入り、剣を手にする者、手の平に陣を形成する者が一斉にこちらに焦点を合わせる。
「全くもって、死に際の時もそう!! こんなわけわからない国に来ても、どうしようもない男ばかり…… 何で私がそんな奴等に絡まれなちゃいけないのよ!! 本当に最悪!!」
昨夜からの一連の出来事が思い返され、怒りは頂点となると同時に、意を決した。
「かかってきな」
鋭い眼光で睨む。それと同じくして、一挙に彼等が飛びかからんとしたとの時だった。いきなり、一人の男の前に火の玉が落ちたのだ。慌てて後ずさりつつ、そこいた全員が空を見る。すると、無数の火の玉と尖った氷柱が雨のように降り注ぎ始めたのだ。
『えええ!!』
私も含め、そこにいた全員が声を上げると同時に逃げまどう。私はどうすることもできず、頭を抱え身を小さくうずくまった。周りからは悲鳴と何かが落ちる音が耳に入ってきた。が、暫くすると今まで入ってきていた物音が聞こえない。ゆっくりと立ち上がりつつ、目を開け周りを見渡す。すると輩達が倒れ込んでいた。
いきなりの展開に驚きを隠せない私の前に、セルリルが悠々と歩きながらやってくる。
「予想通りだな」
「はあ?」
「作戦成功だ」
またしても綺麗な顔立ちからの、胡散臭い笑みを浮かべる。そんな彼に今までの仕打ちが走馬灯の様に頭を駆け巡った。同時に今季一番の怒りが込み上げると共に、鋭い眼差しを送る。
「ふざけんじゃねーー!!」
思わず絶叫した声は、やまびこの様に暫くその場に響いた。
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