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遊びに来て頂きありがとうございます

 最近の彼はやけに絡んでくる事を踏まえ、助けに着てくれるのではという気持ちが一瞬覚えたのだ。しかしそれ以前の彼の所行を思えば、すぐに来るわけでもなく、ましてや助けるというより自己解決寄りの助太刀と言った事例の方が多い。

 第一今回実父が絡んでいるとわかっていればすっ飛んでくるだろうが、その事情を知らなければセルリルが他人の為に何の利益のないとわかっていて体を張る行為はしないであろう。

 まあわかりきった結論であり、自力以外の選択がない事に思わず溜息を零し改めて牢の中を見渡す。すると、完全に陰になっていた目の前の壁際に、何かが転がっているのがわかり、未だ本調子ではない視力で見つめる。すると、白い物が転がっていた。不思議に思い、四つん這いでそこへ近づく。徐々に近づく事で鮮明になる風景に一瞬息を飲む。白く見えていたのは人骨だったのだ。それが無数に広がり、生前着ていた服もそのままで生き絶えた状態であった。本当なら悍ましい光景なのだろうが、感覚が麻痺をしているせいで、あまり恐怖を感じはしない。ただ、私もこうなるのであろうと感じ取る。そんな時亡骸が着ていたであろう洋服に見覚えがある事に気づく。


(ツベルフ伯爵?)


 眠りにつく前に見た絵の服に酷似しているのだ。まさかとも思うが今私が置かれている立場からしても否定しきれない。瞬時に背筋が冷える感覚を憶えると共に、この牢獄から出る事を再度腹に据え直す。そんな意志の元、本当なら仏の物品を漁る様な事はしたくはないが、めぼしい物がないかその死骸の服などを物色する。今の状況では致し方ない事と自身に言い聞かす。それと共に、せめて出来るだけ現状を維持する事を考えつつあさっていると、彼の上着ポケットに鋭角で長い代物を発見し取り出し見る。するとそれは日本でいう鉛筆の様なのが出てきたと同時に、白かったであろうハンカチが煤けた状態でポケットから落ちた。出てしまったハンカチを手にし、元の場所へと戻すべく手に取る。すると煤けていたと思っていたハンカチに文字の様な物がびっしりと書かれているようなのだ。

 ゆっくりと這いながら蝋燭の明かりの方に近づき目を凝らす。すると、最初の一文に『私の娘、ライラを助けて欲しい』と書かれていた。その後の文面には娘が亡き実父の亡霊に惑わされ、伯爵を牢に閉じこめている事、そして、もしこのまま檻から出る事なく私が生き絶えた時、これを目にした者がいたら、自分の名誉、財産を差し出すので願わくば彼女を救って欲しい。そして彼女がもし懲罰を受けるようなら軽減の証拠としてこのハンカチに記した真実を公表するよう嘆願する物だった。

 この空間、ましてや娘にいきなり閉じこめられ、何も出来なかった伯爵の思いを考えれば無念でならなかったであろう。しかし、どうにかして娘を助けたいという思いはこの文章からヒシヒシと伝わる。


(ったく。あの兄妹は揃って何してるのよ!!)


 沸々と怒りが込み上げると共に、その思いを伝える事なく散った伯爵の遺言を公にしなくては、彼の死は無駄になってしまう…… 


(そんな事だけは絶対にさせない!!)


 伯爵の声を代弁したハンカチを一回強く握ると、丁重に畳みスクエア・ネックに開いた胸元にそれを押し込む。そして再度彼の亡骸に近づき、丁寧かつ、念入りに所持品を見ていくと、胸元に鳥の羽の様な感触に気づきゆっくり服を少しひっぱる。すると、汚れてしまってはいたが先程見た絵のコサージュが胸元に付けてあったのだ。それを手探りで根元を触ってみると、予想通り、針金のような物で服に刺してある形式になっている。ゆっくりとそれを外し、コサージュを手にすると、また唯一の明かりである蝋燭のある方へと向かい構造を見た。どうやら、羽の固定も針金で使用していることがわかり、慎重にそれを緩めていく。すると、どうにか二本の針金を入手することに成功したのだ。


(さて後は私次第)


 そして指を数回動かす。まだ違和感はあるがやるしかない。針金を持ち、格子の間から腕を出すと、牢に併設された鍵を手探りで探る。するとシリンダーであろうか少しの凹凸を感じ、そこに向けて針金を差し込む。

 昔の杵柄というべきか、以前ヤンチャ時代の時はヘアピンなので施錠を開錠した経験が数回ある。そんな経験がこんな所でも活かせるとは思ってもいなかったが、今は本調子ではない上に暫くそういった行為をしていなかったので感覚が鈍っている。案の定ひょんな事から針金を落としてしまい、それが、どこかへといってしまった。手元にはあと一本しかない。気を引き締め再度試みる。緊張と、薬の影響で指が震え思う通りに扱えない。が、こう言う時に焦ってはいけないのだ。


(集中、集中)


 自身に言い聞かせながら、覚束ない指先に神経を傾ける。そして暫く格闘している時だった。


ガチャ


 鈍い音が耳に飛び込む。ゆっくりと腕を戻しドアを静かに押した。すると、重低音を効かせながら鉄越しのドアが開いたのだ。深く息を吐き格子に寄りかかると、気合いを入れ直す如く両手で顔を叩く。そして、目の前の伯爵に一回手を合わせると、おもむろに檻からフラつきながら出る。未だにまともに歩く事の出来ない体を石壁に寄りかかりさせ、一回深く呼吸をし、出口に視線を向ける。そして一歩一歩確実に上へと足を運ばせることだけに意識を専念させた。



読んで頂き有難うございます

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