城に招いてもらいました
遊びに来て頂きありがとうございます
「香月さん。もっと真ん中に座って良いのよ」
「あ、はい」
そう良い、少し体を動かし座り直し、目の前の彼女に苦笑いを見せた。黄檗色と浅緋色に統一されたゴシック様式の室内。家具も年期を感じさせるが、細かな彫刻と、質の良い材質と手入れが行き届いているせいか非常に座り心地も良ければ、目の前のテーブルも実に品がある。またその周りにある調度品も全てが手の込んだ物ばかりであり、こういったアンティーク的価値に疎い私でも高価な品々だとわかる。そんな中、ひたすら恐る恐る如何にも値が張りそうなティーカップを手にし、香り立つ紅茶を口に運んでいた。
目の前には三段ケーキスタンドが置かれ、目にも鮮やかなデザートの数々が並ぶ。移動してかれこれ数時間は経ち、城に着いてからは広い城内を歩いた。そんな経緯から小腹がすき、ケーキに手を伸ばしたい気持ちはあるのだ。ただ、目と鼻の先ぐらいのケーキさえ手が伸ばせない程にこの空気に飲まれている私がいる。そんな私に気づいていたのであろうライラは使用人を呼び、ケーキを皿に取らせ、ティーカップソーサーの隣に置いてくれた。
「どうぞ」
「すいません」
念願のケーキを口に運ぶと同時に、心身共に疲労していた体に甘いケーキが染み渡る。
「どうですか? 専属のパティシエが作っているんです」
「凄くおいしいです。こんな美味しいケーキあるんですね」
「それは良かった。喜んでもらえて」
「いえ、こちらこそお招き頂いてから、色々としてもらっちゃって恐縮です」
そう言い、私自身の身なりに目を落とす。
「でも、こんな服着たことないので」
城に着いて早々、城内の案内をしてもらうと共に、話の流れでドレスの着用経験がないと言った所、彼女が自身の空色のドレスを着させてくれたのだ。が、やはりそれも非常に着慣れてない事もあり、孫にも衣装状態である。
(本当こんな姿誰にも見せられないわ)
思わず苦笑いを浮かべる私を、彼女は微笑んでみせた。
「でも凄くお似合いですよ香月さん。それに兄の所ではこんな洋服着れないでしょ?」
「はい。絶対に着ないですね」
「じゃあ。いいじゃないですか。せっかくの機会ですし」
「ああ、はい」
「それにしても、色々話聞かせてもらいましたけど、あの兄と半年ぐらい一緒に住み続けているなんて…… 身内が言うのもなんですが兄、癖が強いでしょ? そんな兄と一つ屋根の下で暮らせる香月さん凄い人ですよね」
「いや、そんな事ないですよ。ただ慣れてきたと言うか。それにセルリルも生まれつきの悪人ではないですし、実際の性根は悪くないですよ」
身近な人物の名前が出たせいか何気に口が軽くなり、思わず語ってしまった事に慌てて口を閉じた。そして、すぐさま彼女の方を見ると、驚きの表情を浮かべたのも束の間、どことなく複雑な面もちへと変わる。今までにない表情に少し焦りを感じすぐさま話の材料を探す。すると目に飛び込んできたのは大きな窓に夕日に赤く染め上げられた空。そして地上に広がる管理の行き届いた庭園が目先に飛び込む。
(これだ!!)
慣れないヒールの靴で勢いよく立ち上がり窓際まで足を進める。
「そ、それにしても綺麗な庭園ですよね。赤を基調にしてるせいか映えてる感じで。ツベルフ伯爵様がライラさんの為に整備したって言ってましたよね。それにさっき通った廊下に専用の図書館とか。ライラさん大事にされてるんですね」
「大事に? ツベルフ伯爵に?」
「は、はい。私はそう思うんですけど」
「そうなのですか?」
「ええ。だって普通こんな手間もお金も掛かることしませんよ」
「……」
すると彼女が言葉を発することなく何かを考え始めた表情へと変わった。その時、隣の部屋から使用人が歩み寄る。すると薄いカーテンで視界を仕切っていた窓掛け越しから、夕日の光に照らされた紳士らしき長身のスラッとした人影が現れたのだ。それに気づいたライラは、顔色が一変し満面の笑みを浮かべ、その影へと近寄った。
「御父様。先ほど家にお招きした香月さんよ」
その言葉に慌ててカーテシーを行う。するとライラがその影に顔を寄せると、父が話があるらしいと言い、暫く席を離すと言ってきたのだ。私もそれを承諾し、彼女と使用人は隣の部屋と移動すると、私一人が部屋に残された。
いきなりの伯爵登場に焦ったものの、どうにか乗り切った安堵感を抱きつつ、ソファに座り直しお茶を口に含む。今まで緊張していたせいかいざ一人になるととてつもなく解放された感覚になる。と同時に、馬車に揺られてから今までの事が頭を過った。
場所的には片道二時間程度。街並み等はカーテンを閉められていた事もあり、様子はわからなかったが、特に人達の活気ある声が耳に届く事なく城へと入った。まあ防音対策もあるだろうし、目視もできなかった事もあるので町村がどんな状況かは不明であり、俳諧云々話の真相は未だ藪の中。だがそれ以上に気になる点があるのだ。それは使用人達が皆同じねずみ色の外套を羽織り、背格好も同等。顔も一切見えない状態で給仕をしている事。
それでもこういったお屋敷において使用人は男女別の制服支給されているイメージがある。だがこの屋敷の給事達は男女関係なく同色の外套を着用しているのだ。しかも一様にしゃべりもせず、人間の息づかいも感じることもない。そのせいかただただ不気味としか言いようがない状況だ。
読んで頂き有難うございます
星、いいね、感想
頂ければ幸いです




