暗雲
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「香月ーー 会いに来たよーー」
「……」
彼のテンションとは真逆の空気を部屋全体に充満させつつ、背後からの気配に乗じて奴をギロリと睨む。
「あれ、香月は?」
「今でかけている」
「そうなんだ。せっかく一週間ぶりに顔見ようと思ったのに。それにしてもセル。今日は一段と殺気だってるね」
「……お前のせいだ」
「はあ。相変わらずだな。でもその調子じゃあ香月も大変だな」
「タスには関係ない。香月も居ないんださっさと帰れ」
「まあ、そう言うなって。それにそれだけが目的じゃあないから」
「だったらさっさと用件を言え」
「じゃあ単刀直入に。ライラ嬢とは連絡とってたりする?」
「全く」
「だよねーー でもさそれでも兄妹って事で面会の約束取り付けたり出来ない?」
「無理だな。だいたい幼少期でも年1回顔を合わせるぐらいだ。それに同じ敷地ではあったが別邸から出てくる事はなかった上に、不死の一件からは全く会っていない」
「そっかーー」
すると、タスラムは居間の椅子に座るとテーブルの上に顔をつっぺす。
「用件は済んだんだろ? 帰れ」
「少し休ませてよ。この後ちょっとややこしい案件をとりかかないといけないんだからさ。はあーー その前にせめて香月の顔を見たかったな」
口を尖がらせながら卓上に並ぶ代物をまじまじと見つめる。
「これって幻覚解消に関する処方だよね」
「依頼がきた」
「成る程ねーー これはとんだ案件になりそうだな。因みにこの依頼人から何か聞いた?」
「特に。ただ大量にいるという話ぐらいだ」
「そっか…… なあセル。仮にその薬が大量に必要とされてる案件がライラ嬢が絡む事ならどうする?」
「関係ない」
「即答すぎるだろ!! それでも少しは身内なんだから考えたっていいんじゃないの?」
「さっきも言っただろ。彼女とは血縁というだけで、ほぼ面識のない赤の他人の様な関係だ」
「はいはい。聞いた私が悪かったよ」
するとタスラムは軽く溜息を零しながら頭を掻いた。その時また戸を叩く音が部屋に響く。すぐさまそちらを見るタスラムの姿にあからさまな不快感を表し溜息をつきながら、今度はドアまで足を運ばせる。彼との会話中に村を出たのはわかっていた。それから推測するにきっと香月が帰ってきたのだ。
「済まなかったな香……」
開けると同時に労いの声をあげるも、目線の先に彼女はいない。一瞬頭に疑問符が浮かぶ。すると足下から声が掛かり、そちらに視線をシフトさせる。すると、そこにはアレルが籠を持ち立っていた。
「お前か」
明らかに落胆の声をあげる俺に対し、子供ながらに苦笑いを浮かべて見せると、手にしていた籠を前へと突き出す。
「さっき香月お姉ちゃんが店出てから父が、配合難しいから少しおまけで追加渡す様頼まれました」
「そうか…… でも香月はまだ帰っていない」
その言葉に瞼を数回瞬きするも、少し何かを考える仕草をする少年は顎に手を添えた。
「じゃああれってやっぱり香月お姉ちゃんだったのかな」
「どう言うことだ?」
「うんーー お姉ちゃん追っかけて道を歩いていたら、この森の前に馬車が止まっていて、それにお姉ちゃんみたいな人が乗ったような感じがあったんだ」
「ねえ。それもうちょっと詳しく聞かせてくれないかい少年!!」
背後いたタスラムが俺を押し抜け話に食いつく。
「う、うん。わかることな…… ら」
「馬車っていってたけど、紋章みたいなの見えた?」
「紋章はありませんでした。ただ凄い華やかな馬車だったので上流階級の人が乗ってるのかなって」
「後は? そう、香月らしき人以外に人とか見たかい?」
「正装した従者と、オレンジ色のドレスを来た女性が出てきて話していました」
「何かその女性の特徴とかあった?」
「うんーー そんなに…… あっ!! セルリル様と同じ髪色をしていました」
「それは本当か?」
「はい。セルリル様」
「ありがとう。色々助かった。店主にもお礼を伝えておいてくれ」
「はい。じゃあ僕はこれで。香月お姉ちゃんにもまた来てねって伝えておいてください」
そう言うとアレルは一回頭を下げ元来た道に戻って行く。そんな少年の姿を目で追う最中、タスラムが一声をあげた。
「なあ、さっきのドレス着たセルと同色の髪色って」
「…… ライラだ。多分」
「だよね。セルと同色って早々いない。私の眼球の色と同じで貴族界隈では周知されてるミトリナ伯の血縁の証みたいなもんだし」
あまりの展開にいまいち思考が追いつかない。色々と疑問はあるものの、言える事は一つ。嫌な予感しかしない。
暫し互いに沈黙するも、隣で神妙な表情を浮かべるタスラムを見た。
「タス。さっきの話。詳しく話せ」
「ああ、そのつもり。セルには是が非でも聞いて貰う」
すると、タスラムと目が合い互いに薄い笑みを浮かべ見せる。
「セルと意見合うなんていつぶり?」
「知るか」
そう言うと部屋の奥へと入ると、タスラムも俺の後をついて行くと同時にドアを閉めた。
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