招かざる客
遊びに来て頂きありがとうございます
「あのーー 何ですか?」
問う私に女性が扇子をヒラリヒラリと仰ぐ。
「いきなり申し訳ありません。 あなたはこの森に何かご用があるのですか?」
「あーー いや。この森の中に家があって。居候みたいな感じで住まさせて貰っている感じですかね……」
「森の中の家…… もしや兄と一緒に住んでいるのですか?」
持っていた扇子の動きが止まる。
「兄さん? もしかしてライラさんですか?」
その名を口にした途端目が見開くと同時に扇子を閉じた。すると、いきなり馬車の戸が開けられ、ネズミ色のフードを深く被った外套を来た従者らしき人物がすぐさま下りる。そして、白手袋をした手を入り口へと差し出す。すると、その上に掌を添えながら、綺麗なフリルのついたオレンジ色のドレスを纏い、銀色の肩下程まである髪を靡かせた私と背丈が同ぐらいの女性が下りてきたのだ。
いきなりの事に驚くと共に、目を見開き言葉が出ない。そんな中、髪と同色の瞳が私を捕らえ、笑みを称えたかと思うと一度深く頭を下げた。
「いつも兄がお世話にあっております。ライラ・マドラード・ツベルフです」
上級階級雰囲気を醸した人物が優美な仕草と共に、セルリルから聞いていた妹であることに思わず動揺が走る。
「あっっ。すいません私は香月と言います」
「香月…… 良い名前ですね。それにしても兄が私の名前を人に言うなんて。常日頃からプライベートに関しては口にすることのない上に、兄と一緒に住んでいるなんて、非常に興味深いです」
「はあ。そうですか?」
「はい。因みに今から家に招いても」
「じゃあ案内しますよ」
「いえ、兄の家ではなく私くしが住んでいるホマルク城です」
「ホマルク城ですか?」
「はい。私、今。ツベルフ伯爵の養子という立場でして、その関係で住んでいるんです」
先に出てきたワードにあまりにもピンポイント且つ、店主の現状話を聞いた手前どんな状況に陥っているのか気にはなる。それにセルリルの兄妹であり、無碍に扱った事がバレれば今、やけに紳士な彼が以前の様な蛮行に逆戻りされても困るのだ。
(ここはひとまず誘いに乗った方が懸命なのかもしれない)
血縁でもあるし、多少遅くなっても許してくれるだろう。
「じゃあ。お言葉に甘えて」
するとライラがパッと花が咲いた様な表情を浮かべる。
「良かった!! さあどうぞ馬車に乗ってくださいませ」
嬉しそうな声を上げ私を馬車に乗車させると、後を追うように彼女も乗り込み私の目の前に座り、従者が戸を閉めた。
「兄の事もですが香月さんの事も色々聞かせて下さいね。そうそう私の事はライラとお呼び下さい」
再び扇子を開き口を隠すライラの言葉に笑みで答えつつ、馬車はUターンをし動き出す。その際一瞬外に見慣れた顔が視界に入ったものの、すぐさまカーテンが閉められる。
(アレル? かな…… それより乗り込んだは良いけど、ホマルク城ってここからどのくらいかかるか聞かず乗りこんじゃったよーー)
致命的なミスを犯し内心焦りを抱きつつ、馬車は確実に森から離れていくのであった。
香月に同行をあからさまに拒否され、一人家で調合してどのくらいの時が経ったであろうか。腕輪の気配から香月が未だ村にいる。帰りはまだという事は理解しつつ、先のやり取りが脳裏を掠め心苦しさを感じてしまう。
一週間前のあの時から俺自身の気持ちがガラリと変わると共に、今までモノクロの様な世界が少しずつ色づいていくのを感じる。この感情の変化…… それは彼女が、両親を不死にしてからずっと胸の奥底に俺自身を閉じこめていた。その扉をこじ開け、今という現実に連れてきてくれた事に他ならない。
改めて生まれ変わったような新鮮な感覚。と同時に、彼女のむじゃきな笑顔や拗ねた顔を俺に向けられる度に、胸の鼓動が速まり、ほろ苦く鈍い痛みが胸に刻まれる。きっとこの感情を表現する事は一言で簡潔出来るであろう。ただ、それを俺自身まだ認めたくはないし、それを口にしてしまえば、香月は俺の手から離れていってしまいそうな気がする。なので感情のままに思わず言いそうになる言葉を何回も飲み込む日々。彼女に言ってしまえばこんな思いを抱かずに済むのかもしれないのだが…… もし俺が仮に自身の感情を認めた上で、胸のうちを告げたとしても、いざ成就すかとなると、今までの素行を思えば首を横に振られる可能性が高いと推測できる。
だからと言う意味ではないが、幼少期時代に叩き込まれた作法を最近微かな記憶を頼りに実践しているのだ。だがいまいち俺自身プラスに働いているのかわからない。それどころか香月の表情はどこか困惑しているようで、決してその姿勢を喜んでいるようには思えないのだ。
まあやっている俺が今までしてこなかった事でもあるので違和感がないといったら嘘になる。やはりああいった所作は自然に出来るから映えるのだ。まあ一人それを常日頃からやってる輩は知っているが、あいつはかえって過剰にやりすぎるあまり、目立ってしまっている印象がある。しかもだ、この前の時も洞窟に入ってくるやいなや、今までそうは見た事がない真剣な眼差しで彼女に近づきさりげなく肩までさする行為をしていたのだ。それに加え、香月に国宝である剣を貸し出すと言う普通ならありえない所行……。
牢獄の話といい、それらを総括して推察するに、奴が本気で彼女を慕い始めていると言うことが明白になりつつあるわけで、今までの経験値からいけばこちらの方が分が悪い。
それにしてもよりにもよってなんであいつが香月を気になり始めたのか? 奴の周りには自然と女性が群がっているわけで、その中から見繕えば良い話である。あえて彼女に目をつけることはないだろに……
(ったくアイツめ……)
そんな事を思っている内に沸々と怒りが込み上がり、作業の手に力が入る。そんな最中、ドアが叩かれた。香月ならまだ帰って来ない事はわかっている上、来者であることは明白。今は虫の居所が悪いせいもあり、あえて無視をしていると、再度ノックと共に、今一番聞きたくない声が耳に入る。再度閑却し続けると、いつもの如くドア越しからネチネチと何かを言い始めた為、陣を発動させ施錠を解除した。すると勢いよく開けられた戸と同時に、タスラムが叫んだ。
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