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流石に淋しいくなるよ

遊びに来て頂きありがとうございます

『ぎゃあーー 何をする!! やめろ!!』


 怒号のような声と共に、今までに無く暴れる怪物に足元が揺れる。


「あっもう!! 暴れないでよ!!」


 叫ぶと同時に、再度剣を高く振り上げると、同じ場所へと突き刺した。その直後、強い力により蔦も切れ始め、先よりも足場が揺れる。


「香月!! 早く砕け!! 蔦か持たない!!」

「わかってるって!! だけど!!」


 右肩の調子が完全ではない事もあり、力が剣に乗らない。肩の不調がなければこんな鉱物は先の一発で砕けたはずなのだ。だが、今は鉱物の手前の編み目上に張られている白壁に阻まれている状態である。後一押しなのは間違いないのだが、それが出来ないでいるのだ。


 そんな矢先、蛇の尾先の蔦が切られ、同じくして片方の手首の蔦がミチミチと切れる音が耳に入ってきた。


『殺してやるーー あの子共々殺してやるーー』


 おどおどしい声を上げ、白目がこちらを見ている。


「くっっ」


 奥歯を食いしばり、再度力を込めるよう柄を強く握った。その時、骨ばった白い手がグリップを掴むと、私の隣にセルリルが膝をつく。


「終わりにするぞ!!」


 肩の状況を知っていたセルリルが苦戦しているのを見かげてこの上まで這い上がってきたのだ。先は気にも止めていなかったが、彼もまた、私より先に戦闘をしていた事が如実にわかる状態である。衣服は汚れ、負傷した箇所も多く目視出来、セルリル自体も満身創痍は容易に想像がつく。そんな彼が片方の手を柄頭に置き叫んだ。


「さっさと消え失せろ!!」


 その声と共に再度出来る限りの力を剣へと込める。パキパキといいながら、白幕を砕き、一気に光る鉱物を剣先が捉えた。


『ギャアーーーー』


 脳天を裂く様な声が洞窟に轟き、刃先は徐々に鉱物の表面に亀裂が入り始めるのを直視すると、再度力を込める。すると、亀裂が亀の甲羅のように大きなブロック状に入ったかと思った瞬間。


パッキーン


 ガラスが割れたような音が耳に届くと同時に、赤い閃光が放たれ咄嗟に目を閉じる。


『アアアアーー』


 風圧を伴う声が発せられたと思うと、足場が一回ガクリと動く。それに驚き、目を開け横を見ると、柄頭に手を置き、下を見つめるセルリルの姿あった。そんな彼の視線を追いたどり着いたのは、無数に砕け散ったバイオレットオレンジの結晶だった。

 それは少しずつ、細かい粒子が空気に解けていくように次々と消えてき、同様に白色の足下も砂塵の様な砂へと変わっていく。視線をゆっくりと女性の方へ向けると、既に彼女はサンドアートの様になっており、しっかりとした輪郭の面影など無くなり始めている。

 そんな様子を見つめる私の肩に重みを感じ振りむく。すると同じようにその様子を感慨深い表情で見つめるセルリルの姿があった。


「セルリル」

「とりあえず、ここから急いで下りるぞ。このままだと、それなりの高さから落下する羽目になる」


 彼の言葉に一回頷き、剣を鞘に納め、ゆっくりと粉塵化し始めた怪物の体から下り、その場から少し離れる。すると地面について数分。今まで苦戦を強いられた怪物は白い砂山と化した。


「終わったで良いんだよね」

「ああ……」


 安堵の溜息と共に地べたに座り込む私の背中にセルリルが背を預けると地へ腰を下ろす。


「流石に疲れたーー」


 言葉を吐きながら、天を仰ぐと空から星は消え、白々と明るくなってきている。そんな空模様を目を細くし見上げていると、背後から名前を呼ばれた。


「何? セルリル」

「今回は…… 助かった」

「良いよ別に」


 そう答えふと、後ろを見ると私より長身のセルリルが、背中を屈め、片足を折りその膝の上に腕と頭を乗せ片腕は力なく体横に置かれていた。表情は見えないものの、彼の思いが成就したのにも関わらず、どこか遣る瀬無さを醸し出している。


「ねえ。セルリル、昨日怪物倒す為なら命も惜しまない的な事言ったでしょ?」

「ああ」

「それを返せば、命を掛けてでも生き抜きたいって事なのかもなってさ」

「……」

「確かに自分のやった事の落とし前をつける事もあったとは思うけど、母親の装いを真似するぐらい執着してたんだよ。降りかかってくるかもしれない驚異から身を守る為に…… セルリル自身、気づかない胸のどこかに、どうしようもない境遇だろうが生き抜いてやるってっいう思いがあったからなのかなって」

 

 話の間微動だにしない。私の話が耳に入っているかもわからないものの、言葉を紡ぐ。


「それにさ、昔に比べて環境も変わってきてるじゃん。ほら最近だと、アレルやキアラにも慕われてきてるし」

「あれは香月が」

「どんなきっかけだろうが、今は以前と違ってセルリルに懐いている事実は変わらないでしょ」

「…… 何が言いたい?」

「前とはセルリルの置かれてる立場は違うって事自覚してよね。ここであんたが居なくなったら前とは違って悲しむ人がでてきちゃうの。だから少しだけでも良いから、あんた自身が気づかないぐらい、ほんのちょっとの生きたいと思う気持ち。大事にしても良いのかなって思う」


 言葉の後、暫しの沈黙が漂う中、彼と接していた背中の熱が先よりはっきりと伝わってくる。同時に小刻みに背か揺れ、地面に置いていた片手は白砂にうっすら覆われた地に指の後を残しつつ、強く握られ震えていた。そんなセルリルの拳をそっと包むように私の掌をあてがう。


「あの子達も、タスラム含め私も流石に居なくなると淋しいからさ。大丈夫。今のセルリルは一人じゃない。皆も居るし、私に至っては何やかんや言いながら同居までしてるだから」

 

 彼がどれだけの荷を背負い己を責め続けて来たかを、改めて感じる。それと同時に、彼に語った私自身の言葉に触発され、レディースメンバーの顔が脳裏に浮かび目頭が熱くなった。溢れそうになる涙を留めようと頭上に目をやる。するとそこには青く澄んだ空と、柔らかい日差しが私と、セルリルを包むかのように降り注いだ。

 そんな中、彼の手の上に乗せた掌に少し力を込めると共に、声を殺し男泣きをするセルリルの姿がそこにあった。

読んで頂き有難うございます

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