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やべー奴が目の前にいる

遊びに来て頂きありがとうござます。

 思わず溜息を吐く。すると、またしても赤い瞳が私を睨みつけた。


「おい。魔法の有無を答えろ」

「んっもうっーー はいはい。魔法はない!! 魔術的な事はこれから起きたかもしれないけど」

「…… 成程な」

「何一人で、納得してるのよ」

「お前がこの列島の国々の人間ではないという事がほぼわかった。今や大陸全土は魔法で成り立っている。個々の素質によって、扱える魔法の属性や規模が変わってくるが、10代後半には何がしらの魔法は使える。まあ大抵の奴等は大した事ないがな。だから今や、当たり前に日常生活に活用されている。国同士の戦闘などにおいても例外はなくほぼ魔法で対戦しているしな。剣士もいるが、魔法を組み合わせている状況だ。まあひと昔は純粋に剣だけを振り回す輩がいたようだがな。ふんっ。今はそんな奴はそうそういない上に時代錯誤も良い所だ!!」


 口調が後半になり、荒々しくなったと思いきや、いきなり立ち上がった。するとこちらに近づき、寝ている自身の隣に来て膝をつく。そして私の腕をとり袖を捲し上げた。すると赤くミミズ腫れになった箇所がありそこをまじまじと見る。


「間違いなく、あの陣に巻き込まれた筈…… だが枝で擦れたような痕しかお前にはなかった。後の残党はあんな感じだというのにな」


 そう言い私の反対側に指を差し、それに合わせ視線を向けた。すると焚火の仄かに照らす範囲には彼の言葉そのままに、四肢がおかしく折れ曲がった人影が木々の根本に転がっている。しかもその奥にも同等の影が垣間見えたのだ。


「!!」


 絶句と共に目を見開き顔が強ばる。


「残党共々攻撃しだが、お前だけはほぼ無傷…… と言うより、俺が発動した風攻撃魔法の外傷が全くない。何故だ?」


 今まで焚火越しであった人物が、私の手をとり、ゆっくりと腫れた傷口をなぞる。そしてその視線を私の方へと向けた。間近で見る彼の石榴色の瞳が怪しく光る。同時に遠目で見るより遙かに綺麗な顔立ちに、妖艶が増し恐怖心が倍増され、鼓動が早まって行く。


(完全にやばい奴じゃん!!)


 私の経験上、あそこまで人を八つ裂きにしておきながら平然と会話の出来る人間など、ロクな奴ではない。私もそれなり修羅場等をかい潜り、その中で命の危機を感じた事もあった。が、大抵私等のような日頃喧嘩慣れをしている人間は、ある程度の潮時のようなモノを肌感でわかっている。

 しかし、時たまそれが麻痺している輩がいる。そういう奴にあたった場合は直ぐにでも身を引くのが懸命というのが経験を経ての結論だ。今はそのやばい奴というのが目の前の男である。 

 しかし状況は明らかにこちらが不利。今の話ぐらいでは全く様子が掴めない上、夜というのが一番のネックだ。とりあえず今明確な事は、男に触られている感触もわかるので、死んではいない事実と、日本ではないという現状を再度理解した。

 そんな厄介な事態に見舞われいるが、ただ一つ確かな事。それはたとえわけのわからない世界だとしても、生きている以上何が何でも生き抜くという思い…… 

 

 今まで生きる為に足掻いてきた。自身でも我ながら数奇な道のりだったと思う。そんな中を掻い潜ってきたことは私の自信に繋がっている。だから、命ある限り『諦める』という行為は絶対にしたくない。そうでなければ自己存在を否定する事になる。そして私を慕ってくれた者達の思いを無碍にする行為になるからだ。大切な者達を裏切りたくはない。例え彼女達が傍に居ないとしても成し遂げてみせる。それが今、私が出来る事であり、彼女達と居た唯一の証であり絆なのだから。そしてもし出来る事なら私自身が帰れる場所を作りたい。奈々や美鈴達と共に作りあげた様な、何があっても自身を受け入れてくれる場所を……  

その為にはどんな環境だろうが生き抜くしかないのだ。


(とりあえず、今はどうにか乗り切るしかねーな)


 強く奥歯を噛みしめ、意を決する。


「そんなこと私に聞かれて答えられると思う? あんたにもわからないのに?」

「…… まあそうだな。それは一理ある」

「後、私はあんたの言った通り名前名乗ったのにお前はなし。あんたも私に言わせたんだから名前言いなさいよ!!」

「お前、普通今の状況から考えれば不利な状況なのはどっちかわかるだろう? 事情もわからない国にいきなり来て尚かつ残党の躯を見てのその態度。強気だな。怖い物知らずと言うべきか……」

「そんな事は言いから名前?」


 すると、先まで放っていた威圧感が今の会話で削がれたのか、手を離すと元いた場所に座り直す。


「セルリル・アンバート」

「じゃあセルリルね。私も香月で良いから、お前はやめて」

「俺の中ではお前で十分だ」

「はあ?」

「それより俺は明日まだやることある。そうだな…… お前にも協力してもらおう」

「何で私? まだ全然全貌が把握出来ないでいるのに?」

「いやお前にしか出来ないことだ。第一、右も左もわからないお前が今ここで一人にされた所で生き残れると思うか? まあそうした日には野垂れ死ぬのが目に見えているがな」

「……」


(そうなんだけどさーー)


 奴の言葉は間違えではない。ただ…… 何でこんな男の言う事を聞かなくてはいけないのか? そんな悶々とした思いが込み上げる中、彼は話を勝手に進める。


「とりあえず明日に控えて今は休んでいろ」


 すると訝しげな笑みを浮かべてみせた。その姿にまたしても背筋が凍り付く。


(ああっもうなるように慣れ!!)


 どうしようもない状況に、掛けられていた布を勢いよく頭まで被ると、強く目を閉じた。



(結局全然眠れなかったじゃない!! ったくもうーー)


 あの後ずっと布を被り寝ようとした。しかしどうにも今の状態に落ち着く事も出来ず、朝を迎えてしまっていたのだ。今逃げれば良いのかもと脳裏に過ったりもしたが、明らかに違う次元の国の為土地勘が全くない。それに付け加えセルリルが私に異性物的興味を示してる。ここで逃げても、捕まえられてしまうだろう。それなら体力を温存し、いざという時に逃げた方が得策であると判断した。

 今は因みに近場で、葉の付いた大枝を探しては、例の残党とやらに掛けてやっている最中である。辺りが明るくなるにつれて八つ裂き具合が尋常ではなく、見るに耐えない状況。まあ視界に入ってほしくないというのもあるが、やはりそのままにしておくのは不憫だ。


「何をしたか知らないけど、あんた達も変な人に目つけられちゃったわね」


 独り言を零しつつ、木を引き吊り歩く。そんな作業中に気づいた事があった。それは私の身体の変化だ。その中で特質していたのが、髪と身長である。髪の長さはそのままで、淡藤色がかった銀色の髪色に変わっていたと言う事。後身長だが、服装は紺のいつものセットアップスエットなのだが、丈が手足共にぼたつきが目立つ。

 今は作業に邪魔なので折ってはいるが、これから推測するに10cmは以前より低くなっている。まあ以前は女性的には大きい部類に入っていたのでこのぐらいの目線も今までに経験が無い事もあり新鮮だ。ただ、気持ち以前より馬力がないような感じも受けた。が、先程大枝を探している途中に竹刀のような手頃な枝を見つけたので、素振りとちょっとした型をやってみたのだ。すると思いの外、違和感なく動けそうだったので胸をなで下ろしている。

 今の感じだと身体能力は低下したが、運動能力は以前のままという事がわかったからだ。即ち武術は違和感なく振える。と、同時に確実にこの世界で生き残る為の唯一の強みになるのは間違いない。とりあえず、体は鈍らないようにするのがこれから生き抜く為の鍵になるであろう。


(まあそれに丁度この枝運ぶのも運動になるし)


 ズルズルと引き吊りながら数分。ベースキャンプに付くと、セルリルが横を向きなが寝ているのを一目し、最後の一枚を残党に掛け手を合わせた。その直後だ。


「おい、朝っぱらから何をしている」


 寝ていると思っていたセルリルから声が上がり、一回体が跳ね上がる。


「何って。見てわかるでしょ?」

「わからないから聞いているんだ」

「っていうか起きてたんなら、言いなさいよ。びっくりするでしょ」


 一回溜息を吐くと、近くにあった花を数本採り枝の上に置いた。


「弔ってあげてるの」

「弔う? 奴らをか?」

「そうよ」

「お前とは縁もゆかりもないだろう。しかもこんな残党弔う価値などない」

「両者の因果関係知らないし、私も縁もゆかりもない人達だけど、死んでまでこんな姿、人に見られたくないじゃい。いくら月日が流れれば自然に還るにしても。それに彼等にだって家族や大事な人がいたかもれないでしょ? その人達が弔えなかった分、私が出来る範囲でやってあげても良いじゃない」

「……」

「それに、あんたの手を借りてるわけではないんだから」

「…… フン。理解に苦しむな」


 そう言うとムクリと起きあがったセルリルは、前に居る私をじっと見つめた。その顔は明らかに不機嫌そのものであり、こちらも思わず眉を潜める。


「とりあえず、飯にするから座れ。食べながら今日の予定を話す」

 

 すると、幾本かの小枝と枯葉を焚火に放り込み、彼が片手を翳す。すると青白い仄かな光が掌を覆う事刹那、薪に火がつく。


(だから普通は着かねえって!!)


 再度目にする状況に自身の顔が引きつっているのを理解すると共に、目の前の彼はそんな私を怪訝そうな表情を浮かべこちらを睨みつけていた。




読んで頂きありがとうございます

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