確かにどうかしてる
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「良い寝顔だねーー」
聞き覚えのある、軽い口調の声が耳を掠める。が、瞼は重く私自身もその言葉を聞き流す。そんな中、その独り言のような声は更に続く。
「こんな幸せそうな表情ならずっと見てられるな」
その言葉にどうしようもない羞恥心に、目と意識が完全に覚醒する。
「あっ、ごめん起こしちゃった?」
大きく見開いた瞳には、軽く手を振りながら、胡散臭い笑みを浮かべるタスラムの姿が視野に入り、あからさまに不満の表情を表す。
「寝起き早々そんな顔しないでよ。流石の私も凹んでしまうかな。でも不機嫌な香月の表情もある意味悪くない」
そう言い大きく数回頷く彼の姿に溜息を着くと、ゆっくり体を起こす。思っていた以上に体の調子が良い。実際サロマの施術という治療はある意味最高だった。最初は肩の様子を見る為に色々と触診的な事はされたが、その後はマッサージの様に体全体を揉んでもらってしまったのだ。
お陰で彼女の施術中に眠りについたらしく、タスラムが隣で寝顔を見られている事にも気づかなかったぐらいに熟睡してしまった。軽く回りを見渡すと、窓の外は薄暗くなっており、半日程寝てしまっていた事に気づく。とりあえず私自身は介抱に向かっている事は確かであり、後は彼の容態次第で今後の作戦を練らねばならい。
そんな中、私達だけでなく、タスラムもこの場に居る事はある意味助かる。あんな怪物と応戦する以上様々な見解は聞きたい。そんな思いを胸にベッドから立とうとする私をタスラムは慌てて静止させ、座らせる。
「香月。そんな状態でどこに行くつもり?」
「いや、セルリルの容態を見に行こうかなって。後タスラムあなたの助言も聞きたいから一緒に来て」
「セル? 私が来た時にはもういなかったけど」
「えっ、どこへ行ったのあんな状態で!!」
思わず声を上げると共に驚きの表情を浮かべ、タスラムに詰め寄る。流石にいきなりの私の行動で彼も目を見開いた。
「い、いや私もはっきりとは聞いてはないんだけど……」
「彼なら夕刻に出て行かれましたよ」
曖昧な言葉を口にする彼の声と重なるかのように、タスラムの背後の出入り口からレミロザが現れた。
「行ったって、まさかあの場所?」
「はい」
その言葉に、再度ベッドからすぐさま立ち上がり、出入り口へ向かおうとした私の手を、タスラムが掴んだ。
「離してくれる?」
しかし、彼は放すどころか尚強く握り閉めてきたのである。
「離して」
「それちょっと嫌かも」
「は?」
「だって、明らかにセルの所に行くんだろ?」
「そうだけど」
「あえて危険とわかっていても行くの?」
「まあそういう事にはなるね」
すると手を掴んで座っていた彼が立ち上がると初めてタスラムが憤りと思しき表情を浮かべてみせた。
「君も大概どうかしている!! どんな恩があるか知らないが、事情もロクに知らずに今回の件を承諾し、明らかに生きて帰ってこれるかわからない状況にも関わらず行くと言う。ここまでくればお人好し通り越して、おかしいとしか言いようがない!!」
「おかしいか。確かに」
その言葉に一言加えクスリと笑って見せると、ゆっくり握られた彼の手の上に私の手を重ねる。
「本当、私自身も馬鹿げてると思うわよ思わず笑っちゃうぐらいに。でもあいつがね。セルリルが勝手に絶望しているんだよね。人にもそうだけど、あんな強気な事いってる彼自身にも。たかが、私とそんなに年齢変わらないのに絶望って。まだ人生の半分だって生きてないっていうの!! それこそ、サロマさんぐらい老輩で経験を積んだ人が醸し出すならわかるけど、彼女からみて年端も行かないセルリルが、粋も甘いも背中で語ろうとするなんて甘いわよ!! そんな舐めきった性格を一回ガツンと言わなきゃ私の気持ちが収まらない!!」
怒濤のように語った言葉にレミロザがクスリと笑い、タスラムも先の険しい顔つきから一転あんぐりと口を開け拍子抜けといった表情を浮かべると、ゆっくり彼の手の力が緩み解放される。そして私はおずおずとレミロザの方をみると、口の前に人差し指を立てた。
「あのーー 今の話サロマさんには……」
「わかりました。ここだけの秘密にしておきましょう」
そんな私等の姿をタスラムは溜息をしながら見つめる。
「香月には敵わないなやっぱり。結構真剣に説得したつもりだったんだけど」
「そうね。あんな顔色変えて怒ったタスラム初めて見たかな。でもそれだけ心配してくれてるって事よね。私や、セルリルを」
「そこに何故セルも入ってくるかな」
「またまた。なんやかんやで様子みがてらセルリルに仕事依頼してるんでしょ」
「はいはい。そう言うことにしときますよ」
すると、彼が部屋の壁に立てかけていた布の棒のような物を取りに行き、それを私の前に差し出した。意図がわからず首を傾げると、彼が私の手を取り物体を自身に預けゆっくりと布を外す。スルりと外れた布から現れたのはバラの宝飾が施された鞘に入った剣が視界に入った。
「これ、この世界では一番硬質と言われてる鉱物で出来た剣でね。持って行ってよ」
「でも、どう見ても普通の剣じゃなわよね…… 私が持って行っても良い物なの?」
「構わないよ。だってこれを香月に渡す為にここまで来たんだから。ただし」
言葉が切れた途端、彼の顔が私の顔に寄り、いつもの笑みをみせる。
「絶対に返してね。香月本人がちゃんと使った感想を添えて」
「わかった。約束する」
そう言い、剣を握り閉めると、レミロザの方を見る。
「じゃあ私もそろそろ行きます」
「そうですか」
「因みに、セルリルなんか言ってました?」
「そうですね。光魔法が有効と言うことでしたので、今夜奇襲をかけると言ってました。今夜は半月ではありますが、昼間よりは効力はあがりますので、ただ、光魔法は体力の消耗が激しい魔法です。多少回復液は持っていきましが、今の彼は体力も懸念もありますが、精神的な所の方が問題かと。精神に関しては回復液ではどうにもなりませんので」
「そうですか…… そうそう。先の戦闘で、怪物の中心に光る鉱物みたいなのが見えたんですけど」
「ああ。それ多分核っていうモノかな。前回のフムレ村の件でネックレスなんかに使われた鉱物によって操られていたでしょ。あれと同等の物だろうね。まあ不死の中にあるって事はオリジナルだろうし核で間違いないと思うから、それを破壊すれば、不死も消滅するだろな」
「流石タスラム。賢者だけの事はある」
「いやーー 香月の役に立ててうれしいよ」
そんな話をし、腰に彼から借りた剣を身に纏うとレミロザから巾着袋を渡された。
「これは?」
「木の実です。空腹では動けませんので」
「ありがとうレミロザさん。後タスラムも。で、因みにこの蔦だけど、切ったらどこに移動するのレミロザさん?」
「行った場所のビジョンの所です。香月さんの都合良い場所を思い返してみてください」
「わかった」
軽く頷き、深く息をすると、蔦お一気に切り離す。すると以前同様足下が光始めた。その時、心配そうな面もちで様子を見ていたタスラムが叫んだ。
「香月!! こちらで何かやっておいてほしいことある?」
「うーん。じゃあ朝になったら私達を迎えにきてよ!! 待ってるから」
そう言いタスラムを見ると、どこか悲しげな笑みを称えた彼の顔が見えたが一瞬にして消えた。
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