怨念と呪縛……
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凄まじい強風に身を屈め、その風が収まるのを待つことしか出来ない状況が数分続いた。少し落ち着いたのを機にゆっくりと顔を上げる。すると霞が掛かる中、うっすらと何かのシルエットが見えてきた。
直後、地面の霞が一瞬晴れると同時に白い紐のようなモノがこちら這ってきたのだ。その途端、私の片足に巻き付き一気に引っ張られ、不意をつかれた状態にセルリルも手を放す。
「!!」
驚きの表情を浮かべる彼の顔が一瞬見えたかと思うと、それはすぐさま遠ざかり、地面に体が引きずられる。すると直後、間髪入れる事なく上へと持ち上げられ、吊された状態になったのだ。その動きによって灰色の視界が晴れ、目先の物体が目視できるようになった。一瞬息が止まる。何故なら目を疑う状況が広がっていたからだ。
「メデューサ!?」
全身灰色の、上半身がローブを羽織っていた時に見た女性が半裸。下半身は巨大な蛇のようになっており、全長3メートルはあるであろうか。そんな蛇の尾先が私の片足に巻き付き、上に持ち上げているのだ。その状況にセルリルも見上げ目を見開いている。すると、いきなり大きく振られると
風を切る音と共に足の拘束が解かれ、投げ飛ばされたのだ。回復はしたとはいえ、肩の痛みもあり咄嗟の反応がとれず、壁に激突を覚悟し目を瞑る。
ドン
鈍い音と、背後にかけて衝撃はあったが、痛みを伴うものではない。だが直後に落下し土の臭いと、肩の痛みからくる痺れが襲う。
「うっつっっ」
すると、私の背後から呻き声が聞こえ振り返るや、石壁によりかかった状態のセルリルがいたのだ。そんな彼の頭上からは瓦礫が落ちてきており、真上をすぐさま目を向けると、2メートル程上の壁に抉られたような凹みがある事に気づく。先の衝撃と今の状況でセルリルが壁との直撃を防いでくれたのだ。
「な、何やってるのよっ!! あんたまで怪我したら身も蓋もないじゃない。だいたいどうやってあんな場所までっ!!」
「風で俺を飛ばしただけだ」
苦しげに息をしながら、手を彼自身の胸手をあて陣を掛ける。が、万全といった感じはほど遠く、未だに呼吸が荒い。先からの戦闘でかなりの魔法を発動したせいか、セルリルの体力自体が落ちている事もあり、完全回復には至っていないようだ。
そんな彼が壁伝いで立ち上がり、怪物と化した母の前へとゆっくり歩いていく。そんな状態では明らかに勝ち目はない。
「ちょっ、セルリル!!」
声を上げるものの、先までの負傷と、落下による衝撃で体がすぐに反応できない。
「セルリル!!」
「もしもの時は俺が状況判断して対処するといった筈だ」
その言うと間髪入れることなく彼が言葉を続ける。
「俺はこいつらを消滅させる為だけに今まで生き恥をさらしてきたんだ。たとえ俺がこれで命が尽きようが後悔はない。ましてや俺が死んだ所で悲しむ奴もいやしない。香月、俺がここでこいつの相手をする隙に、お前は蔦で魔女の集落まで移動しろ。いいな」
セルリルのいきなりの話に言葉が出ない。その時だった、洞窟の入り口から影が動くと同時に、スケルトンアミー一体が彼の背中に突っ込んでいったのだ。いきなりの事で声を上げられず、彼も前の怪物に気を取られたいた事もあり、反応が遅れる。と、骸骨は勢いそのまま、セルリルの背にぶつかった。二人の時が一瞬止まったように見える。
そんな中、先に動いたのはスケルトンアミーの方だった。ゆっくりと、彼の背中から放れると、片手には短剣が握りしめられている。日が傾き、洞窟内は入り口から弱々しいオレンジ色の光しか入ってきていない為、鮮明には見るとこが出来ない。だが、本当なら青白く見える柄に対し、剣先から数十センチが黒く変色していた。
すると、前に立っていたセルリルが膝をつき、横腹を押させ倒れ込んだのだ。そんな彼に骸骨は短剣を持つ手を大きく振り上げた。その一連の光景を目にしていた私の体が自然と動き、足を前へと向かわせる。それと共に、腰の剣を抜きスケルトンアミーの首を背後から切り落とした。ガラスの破壊音のような音と共に、髑髏が地面に落ち転がる。同時に、その胴体がガシャリと潰れ骨が散開した。そして、即座に俯せで倒れる彼の両肩を抱え起こす。
「セルリル!!」
苦痛の表情を浮かべ、低く呻き声を上げており明らかにその顔からは生気が一気に失せていく。すぐさま彼が押さえていた横腹を見ると、ローブが明らかに黒く色づく。そして押さえていた彼の手の平も同じ色に染まっていた。慌てて、変色していない彼のローブ部分で横腹を押さえるも、自身の掌に生ぬるい感覚がすぐさま伝わる。明らかにこの程度の止血ではどうにもならない。この状況はどう足掻いてもこちらが不利。即ち強制撤退以外の選択はない。強く奥歯を噛みしめ目の前の青白い巨体の怪物を睨みつける。
こんな化け物を本当はこのままにして置くことは、いくら森の中とはいえ、この物体がここから出る可能性が無いとは言い切れな訳で、危険極まりない。が、今の状況ではやむを得ないとしか言いようがないのだ。
化け物から視線を反らす事なく、左手の蔦を一気に引きちぎる。すると私を中心に、淡い黄緑色の光が地面にサークルを描き、瞬く間に私達を円柱の光が包む。その光に顔を覆う化け物の姿を目にした。その突如、周りの光に飲み込まれ一瞬目にフラッシュを浴びたような感覚を覚え、目を閉じる事刹那。瞼をゆっくりと開け周りを見回すと、そこは見た事のある魔女の集落の中央の広間。勿論皆が行き交う場所でもあり、すぐさま彼女達が近寄る。そしてその者達に向けて声を上げた。
「お願い!! セルリルを助けて!!」
切迫した声と共に、私の腕の中にはグッタリとした彼の姿に、周りが蜂の巣をつついた状態へと変わる。その騒ぎに気づいたレミロザも現れ、セルリルの施術の為、彼女の部屋へと運ばれていく。
その姿を目で追いながら、ゆっくりと立ち上がると背をさする感触に気づき横に視線を送る。そこにはサロマが背中をさすってくれていた。
「さあ、香月様。あなたも手当を」
「……サロマさん。彼は。セルリルは助かりますよね?」
その問いに老婆は何もふれず、未だにやさしく手を動かしたままだ。その無言の意味と、手にべっとりとついた彼の血を見つめる。そして赤く色づく掌を強く握ると、額に押し当て暫く立ち尽くした。
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