やりきれない事もあるけど……
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(熊? こんなのどうやって倒すんだよ!!)
人間のスケルトンとは違い骨に厚みがあり、動きも思った以上に俊敏。尚且つ、前足の力が特に強力で、間合いを詰め首を落とすのには無茶がある。それなら最善の方法として粉砕し、熊の機動力を無くしかない。そんな思考を巡らす中、またしても熊の手が頭上から襲いかかる。それを瞬時に横に回避すると、剣を強く握り直し力の限りその手に振り落とした。
鈍い音と共に手が痺れる。すぐさまその様子をみると、そこそこの亀裂は入っているものの落とす迄いかない。だが、ある程度の負荷を掛けさえすれば、あの手は己の力で割れるであろうと読み、あえて目の前に立つ。すると獣が横に手を振る。それを後方に飛び避けると、間髪入れることなく、獣の手が高々上げられた。その直後先より遥かに早い勢いで振り下ろされる。尽かさずそれを避けると共に、熊が腕を地面に強く突いた。案の序読み通り、前足は破損部から亀裂が入り、鈍い音をたて砕ける。と共に、姿勢を保てなくなった亡骸は、顔からつんのめった形になった。それを気に両後足を数回剣を振るい破砕すると、巨体は体を動かす事が出来ず、腹這いになりすぐさま首を落とす。これなら暫くの間は方向不能の状態であろう。その姿を見つめ一回息を吐く。
すると、背後から微かに空気の動きを感じ身構えつつ振り返る。そこには紺桔梗色のバーヌースを纏った人物が教卓の前に立っていた。ある程度武術を拾得している手前、気配等は他者より察知が良い方なのだが、この人物からは気配が全く感じられない。相当の玄人にもこういった事が出来る人はいるが、事前情報だと死人である。気配がないのも頷ける話ではるが、やはり不気味な感覚を覚え、ゆっくりと警戒をしながら雛壇を上がった。
思いの外奥行きがあり石壁まで続く壇の中央に教卓が設置さている。その前に立つ人物が私が台に上がると同時にバーヌースから細く真っ白な手が出され、陣が現れた。が、周りになんの変化も起こらない。
(精神系魔法だったのかな?)
それならそれで精神系魔法しか使えないのならこちらには好都合である。一気に間合いを解き、その人物に駆け寄り一回、威嚇も兼ね剣を人物スレスレに振るう。するとその者がヒラリとブレイドを避けた。それと同時にバーヌースのフードが頭から外れると共に、剣二本分程度の距離で相手の顔を直視する。
「!!」
一回大きく胸の鼓動が打たれると同じくして絶句のあまり息が寸刻止まった。と言うのも目の前に少し髪がウエーブ掛かっていたが、セルリルの生き写しのような顔立ちの人物が目先に現れたのだ。ただ、その人物の表情は全く変わらず白磁器の様な瞳は、目と鼻の先にいる私を捕らえてはいない様子であった。
頭が錯乱し、次の一手が出ずにいた矢先、出入り口から駆ける足音が耳に入るとほぼ同時。
「香月!!」
叫び声と共に、氷剣の雨が降り地響き、目の前の人物に数個直撃し膝から倒れ込んだのだ。怒涛の攻撃と真向いで起きてる現状に息を飲みつつその人物を凝視する。すると衝突により頭部に当たったものの、水銀のような液体で破損した箇所を修復しているようだ。同時に背後からガラスを割ったような音に、振り向くと、熊の標本が無数の氷柱により粉々に砕け散っていた。そしてその骨の残骸の隣に息を切らし立つセルリルの姿があったのだ。彼の顔はいつもの冷めた表情とは違い真剣さが滲み、そこから必死さが伝わってくる。
「セルリル、これって!!」
セルリルと瓜二つの人間を直視したことで、思わず声を掛けた。するとセルリルが再度私の名を叫ぶ。
「香月!! 前を見ろ!!」
彼の言葉に慌てて前に視線を移すと、石の衝撃で倒れていた人物が顔の爛れたような状況ではあったが既に立ち上がりっていたのだ。気配がないせいで出遅れた形になった私の手を、先の華奢な手とは比べものならない程の強靱な腕がローブから現れ掴む。直後、一瞬両足が浮き無重力のような感覚を覚えた途端、体全体に叩きつけられた衝撃を受けたのだ。
「っっつ」
何が起きたかわからない中、衝撃で息が止まる事刹那、目線は曇天広がる空と共に、私を壇上から白い瞳がこちらを見ている。その姿に一瞬にて鳥肌が立ち、体が硬直し動けない。そんな私の頭上に何かが風を切って飛んで来るような音が聞こえると、赤い玉が次々と彼女に直撃し、みるみる火だるまになっていく。今がこの場所から放れる好機なのだが、先まで体が強ばっていたせいでわからなかった体の痛みが今になって押し寄せる。特に捕まれた腕の肩の部分が強烈な痛みを感じ思わず肩を抱き体を縮めた。すると私の両肘辺りを掴み抱え抱くようにセルリルがその場から私を離脱させ、洞窟入り口付近まで移動する。
「大丈夫か?」
目線は雛壇の火柱を見つめ、彼の胸に抱えられている私からは、顎のラインしか見る事は出来ない。だが両腕に掛かるセルリルの力強い握力から、今までの彼らか微塵も感じたことのなかった心配の色が見受けられる。それが何故だか気恥ずかしくなり、拗ねた様な表情を思わず浮かべた。その直後返事のない私に頭上から罵声が飛ぶ。
「大丈夫かと聞いているだろ!! 答えろ!!」
「っっもう。今の感情返してよ!!」
「何言ってやがる、状況を見ろ!! で、どうなんだ? とりあえず一本飲め!!」
確かに今は彼の声に耳を傾けるのが得策である。慌ててポーチから瓶を取り、液体を口に含む。一瞬苦みが広がったものの、私にも効力のあるよう精製された回復液と言う事もあり、打ち身のよう痛みは解消されたような気がする。だが、右肩の痛みは未だに続く。
「右肩だけまだ駄目かも。右指も痺れてるし…… 骨の異常…… それってやっぱり回復液じゃあ治らない?」
「回復であって治療ではないから無理だ!!」
「そっか……」
落胆の溜息と共に言葉をもらしたその直後だった。
『恐ろしい子……』
人を呪わんばかりの憎しみと恐怖の入り交じった声が背後からしたのだ。咄嗟に振り向くと、ドロドロにとけた溶岩の支柱から声がする。その真ん中にはバイオレットオレンジの光を放つ球体が見え隠れしつつ、徐々に溶解していた支柱が整形を取り始めた。そんな中、物体は尚もおどおどしい声を上げる。
『また、母を殺しにきたの…… あああなんて事なの……』
あまりの光景と、今まで経験のない感情。怖いと言うより恐ろしいと言った感覚に目を見開き息を飲むと共に、あの物体の口にした言葉に耳を疑う。
「セルリルっ。目の前の人って!?」
彼の額から汗が滲み、厳しい顔つきのままの彼を下から見上げ問い掛ける。すると、奥歯を噛みしめ、憎々しく言い放つ。
「俺の実母だ」
あまりの衝撃発言にまたしても絶句する。頭の中が混乱し、収集がつかない。その直後、上半身の原型をほぼ修復した女性が、夕刻で赤く色づき始めた雲にめがけ手を掲げ、陣を繰り出した。すると、カサカサという音と共に、砕けた骨の残骸が彼女の方に集まっていく。それと共に洞窟内に強い風が吹き始めた。それは次第に骨粉を巻き上げ彼女を起点とし、灰色の竜巻のような渦が形成されていったのだ。
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