ここどこ? しかも魔法って…… 何だそれ!!
遊びに来て頂きありがとうございます。
死を覚悟した直前よく、今までの出来事が、走馬燈のように過るというが実際遭遇してわかった。これは事実だ。
賀都宮香月二十歳。実家は旧家と言われた家柄であり、先祖の残した莫大な財産と人脈で子会社を含めると数千規模の従業員を雇う企業を経営。また多くの企業にも融資もしている。勿論父親はそれら関連会社の社長や会長などを兼務しており、行く行くは私が後継者となる流れ。
しかしながら、旧家と言うこともあり男系を望み、長子として生まれた私が女子と言うことで私の目の前でも父は、いけしゃあしゃあと『お前が男だったら』と言い肩を落としていた。だが当時は私しか子供はなく、跡取りということにもなるので、幼少期から経営や他国語などを勉強させられたのだ。尚かつ『自分の身は自分で守れ』という事を教訓とし、ほぼ全ての武術に精通するまで鍛錬させられてきた。
そんな中、小6の時に実母が急病により亡くなったのだ。私の唯一の心の世路どころであり、多くの大人が居る中で母だけが私の味方でいてくれた。そんな母との別れであり、勿論悲しみが直ぐに癒える事もなく一年が過ぎようとした頃、父が後妻と結婚したのだ。
すると、そう月日が立つこともなく男児が生まれ腹違いの弟ができた。そうなると、私などは用済みであり、両親は生まれた弟を溺愛したのだ。私という存在など居なかったかのように……
散々私に言いたい事を言い、友達と遊ぶことすら出来ず勉強や武術を強制させられた私に跡継ぎ以外に今一体何が残っているのだろうか。しかしもう私にはその席はない。この家には私の居場所などないのだ。
一日、二日と家に帰らない日が徐々に増えていき、一年後には家に帰る事はなかった。ただその時期運命的にではあるが、当時街を徘徊していた私をこの界隈を仕切っていたレディースの長に拾われたのだ。
本当なら路上生活になってもおかしくない中、彼女との出会いは奇跡だったと思う。そんな彼女は、数十人の女性だけで形成されていた『多々羅』の長。またメンバー全員が、なかなかの腕っ節が強い人が集まっていたせいか男も蹴散らすぐらいだった。
怖い思いも多くしたが、表裏のない性格や、仲間思いの所、筋をしっかり通す辺りは下手な大人より共感が持てた。何より血の繋がりなどないのに、本当の家族のように接してくれた事がとても嬉しかったのだ。そんな中、グループの長が好きな男が出来、その人と街を出る事になった。それに伴い彼女から直々に長を譲り受け今に至る……
しかし、先のビジョンからして私の命はきっと尽きたに違いない。唯一心残りがるとするなら奈々と美鈴が無事逃げ切れたかという事ぐらい。
(まあ、今になっては私に打つ手無しか)
とりあえず走馬燈の経験はしたので、今度は三途の川というのが見れるかどうかだろうか。
そんな思いが過る中、今まで無音だったものの、微かに音が聞こえてきたのだ。それは徐々にはっきりと耳に届くようになってくる。パチパチといった音と共に皮膚の感覚もはっきりとわかるようになってきた。しかもどうやら胴体に何かを掛けられている。
重く閉ざしていた瞼をゆっくりと開けていく。ぼんやりとした視界には暗がりに木々の茂みが見え始めると、徐々にではあるがその間から星も確認する事が出来た。
「三途には木が生えているのね」
ボソリと何気なく呟いた時だ。
「三途とは何だ?」
いきなり人の声と共に話掛けられた衝撃で声の方に視線を送る。小さな火の粉が舞い、微かな音をたてながら焚火が焚かれていた。そしてその先に市紅茶色のブローフを羽織り、その下には蘇方色の洋服を着た人物が切り株に座っているのだ。
しかもその容姿は目を見張る程に整っている。見立てや声の張り諸々踏まえ20代と思しき男性がワンレンに伸ばしたストレートの銀髪を肩辺りで縛り、はっきりとした顔質と共に白磁のような肌の中に赤い瞳がこちらを射抜くように見ていた。勿論今の状況が全く把握出来ない私は彼の問いに沈黙したままである。
「再度聞く。三途とは何だ?」
「…… 現世と死後の間で通過する場所と言われてるんだけど……」
「…… それならここはお前の言う三途ではない。300年は続いている王国だからな」
「王…… 国? 死ぬと王国に来れるとは知らなかった」
「何を言っているんだ女。この世も死せば終わるまでだ。相当の例外がない以上死人が徘徊することはない」
「まあそうね。ゾンビが徘徊なんて願い下げよ」
「ゾンビ? …… 何の造語だ。聞き慣れない言葉ばかり言う女だな」
「さっきからあんたも女、女連呼してるけど、初対面なのにかなり横柄じゃない? 質問している以上は名乗りないよ」
「それは、お前の立場を見てから言え。少なからず俺はお前を介抱している。それらを加味しても女、お前から名乗るのが筋だろ」
確かに私の胴体には薄いが、布の様な物が掛けられていた。また頭には枕代わりだろうか、葉を引き積めてある。
「介抱ね…… 確かに形跡はあるけど……」
すると赤く光る眼孔がこちらを見据えた。いきなりの事もあったがただならぬ威圧感に息を飲む。
「お前は誰だ。どこから来た」
状況が読めない以上下手な事は言えないが、今の状態説明を聞かなくては後にも先にも行けない。少なからず差し当たり彼に従うのが得策である。
「香月、賀都宮香月。ここは日本ではない?」
「日本。…… 周辺諸国にもそんな名前の国はない。それに賀都宮香月…… そんなニュアンスの名を名乗る人種もいない」
「そう…… 次にこっちから質問してもいい?」
「言ってみろ」
「今、どんな状況なの?」
「そうだな。俺も信じ難いが、端的に言えば空から落ちてきた」
「誰が?」
「お前がだ」
「はあ?」
「はあ? はこっちの台詞だ。だいたいそんな突拍子もない事言って誰に得がある。だいたい驚くのは俺の方だ。こっちはこっちで丁度残党を始末している最中に強風吹き始め、晴天だった夜空に雲がいきなり湧きだした次の瞬間、地鳴りが起きる程の雷光が落ちた直後にお前が奴らの頭上に落下のうえ直撃。まあお陰で奴らをまとめて仕留められ俺の手が省けたがな」
「そ、そう……」
「にしても、お前。空から降ってくる事態どうかしてるが、特殊スキルでもあるのか? さっき残党を倒す直前陣を展開して八つ裂きにしてやったんだが」
「ジン? まだ誰かいる?」
「見ればわかるだろう? 俺以外誰がいる」
「いやそれこそ、ジンとか謎ワードなんですけど」
「陣は陣だ。魔法を展開する時に出る記号のようなモノだ」
「魔法?」
「魔法…… 知らないのか?」
そう言うと目の前の男は手を前にすると淡い光と共にひし形の形状の中に、何やら記号のような文字がある魔法陣のようなモノを形成して見せる。
「これが陣だ。わかるか?」
「いや知らないって事もでもないけど、漫画や、おとぎ話の世界で現実には」
「…… お前の生活に魔法の類は無かったのか?」
手の平を握り発動した陣を解除し、彼が薪を焼べる姿を目で追う。
(はあ? 魔法? 何言ってんだ? 日本にそんなもんあるか!!)
自然と眉間に皺が寄るも、実際目の前の男の手は光を放っていた。今まで様々な経験はしてきたが、そんな不可思議な事が起きた所を見た事がない。となるとここは私が今まで居た世界と違うと言う事…… それは彼との会話で何一つ接点が見いだせない所からいって何となくではあるが感じ取れる。
だがやはり信憑性にかけてしまい、思わずゆっくり自身の両手を寄せ、片手甲を抓る。すると鈍い痛みを感じた。
(夢じゃあ…… ないわけ…… ね……)
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