紳士?
遊びに来て頂きありがとうございます
「こっち来て貧乏くじばかり引かされてない?」
愚痴を言いながら、北の森を歩いて行く。今は昼間のせいか、この前のイメージとだいぶ違う。鳥の囀りと、木々からの木漏れ日が整備された歩道に差し込み、非常にこの中は居心地が良い。
あの後、『俺は狂魔病の薬の件で忙しい』の一点張りで、家から半ば追い出されてしまった。実際の所、希少材料が彼の独占の為、必然的に病に苦しんでいる人がどこからか聞きつけ商店に来店しているのは事実。現に窓口となって貰っている商店から発注という形で特効薬の依頼が何件か承っている。
まあそんな背景もあり奇病の薬を作っている名目を上げられると、どうもそれ以上刃向かう気力もなくなり、またしても彼の言いなりのまま来てしまった。以前の私ならこんな所行を受け入れる事はなかっただろうが、彼の口車に乗ってしまっている私がいるのは確かだ。
(ここでひとまず気を引き締めないと、このままズルズルパシりにさせられるのは御免だ)
渋い顔を浮かべながら少し歩くと、日差しが強くなった。と同時に視界が開けるも、一瞬目を細める。日が氷柱に当たり、やけにその一帯が眩しいのだ。ゆっくりと目を開き慣らしていく。
すると、ひんやりとした空気が漂う。その空間に、湖面に突き出すように聳える氷柱の前で一本剣を腰に差し、黒のロングブーツに紺色の腰の当たりまでスリットの入った上着に、縦襟の襟足ぐらいまで伸ばした黒髪の人が立っていた。
たぶんセルリルの言っていた侵入者であろう。どんな輩かわからない以上警戒して近づくしかない。剣に手を添え近づいていった時、柱の前に立っていた人物が後ろを振り向く。少し長めにカットされた髪は少々癖があるようで軽く外に跳ねやんちゃな感じがするも、セルリルと引けを取らない容姿にターコイズブルーの瞳。そして金縁モノクルを左目に装着しそのチェーンが光の円を描く。一瞬息を飲む私に対し、彼も刹那目色が変わったが、瞬時にして破顔を浮かべる。
「これはこれはお嬢さん。少し驚かしてしまったようだね」
白いズボンに、桜色のアスコットタイを締め、長めの上着は前が短くなっており、そこから若草色のベストが見えている。この世界に来て、初めて貴族らしい服装の人間と出会い、思わず見入った。そんな私に目の前の男は、こちらに話ながら近づいてくる。
「サーベルキャットでしょ? 凄いね。私も国内外出向いているけど2回ぐらいしか見たことないよ。本当珍しいから、このままにして観光名所とかにするとか面白いと思わない?」
ここに着いて一言もしゃべっていない私に対して、怒濤の一方的トークを繰り出し続ける彼が私の前へと立つ。身長はセルリルと同じぐらいのせいか、思わず見上げる。
すると、いきなり彼が腰を屈め、私の目線にあわせると、彼の顔が近くに寄ってきたのだ。いきなりの行動に、慌てて身を引く。
「な、何するのよ!!」
「無粋でしたか? でも貴方があまりにも可愛いので」
「はあ? 初対面ですよね? 言ってる意味わかってます?」
服装から硬派に見えたのだが、言動がそれに伴わず、困惑と共に怪訝そうな表情を浮かべる。
「後、誰? ここの周辺入れないようにしてあるようなんですけど」
「ああ。そうみたいだね。でもちょっとお邪魔しちゃったよ」
セルリルも今までの行動や魔法をみても人並み以上の実力の持ち主だというのはわかっている。そんな彼が張った結界に難なく進入できるのだから、それなりの力があるのだろう。が、やはり、言動がチャラいせいか怪しさがけた違いだ。
益々厳しい顔つきになる私に、彼は前に片手を回し頭を下げる。
「初めてお目にかかります。タスラム・フォードと申します。国を渡り歩く、商人をしておりまして、今回サーベルキャットが捕まったと言うことを耳にしたので立ち寄らせて頂きました。大変失礼かと存じますが、貴方様は?」
「マミヤ…… 香月」
「香月。変わったニュアンスの名前ですが、響きが非常に良いですね」
そう言い姿勢を元に戻しつつ、笑みを浮かべた。だが、今までの言動のせいか、胡散臭さが倍増する。兎に角こういうウザったい人とは関わると疲れてしまうので、早々に用件を済ませ、帰宅する事に専念することが得策である。
「で、ではタスラム・フォード様。ここの管理してる方から、退去するよう伝言もらってるので、この場所から離れてもらっても良いですか?」
「そうでしたか。それは貴方に足を運ばせて申し訳なかった」
「あ、い、やこのぐらいは問題ないので、退去して貰って良いです?」
「うんーー もうちょっと見ていたけど、貴方のお願いならしょうがない」
すると、ウィンクをこちらに向けてしてきたのだ。あからさまに口元が引きつる。
「と、とりあえず良いですか?」
体を反転し、森の中へと向かう。それに追尾するように彼もついて来る事暫し。再度私の名を呼ぶ。
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