変化の兆し!? いやいや今まで通りです
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木漏れ日の差す穏やかな昼間。異世界に転生したらしい私は外で素振りをしていた。最近雨の日が続き、この数日まともに外に出て居なかった事もあり体が少し鈍っているのがわかる。日課として、鞘をつけたまま、室内でも振ってはいたものの、如何せん人の居る場所では迷惑だと思い、自室や地下で行っていた。が、どこも素振りをするには天井が低く、思い通りには出来なかったのだ。
そのせいもあり、今日は家の庭の畑の反対側にある開けた場所で心地良い汗を掻いている。その時、獣道から人影を感じそちらに目をやると、ルルカ商店の兄妹がこちらに向かって歩いてきていた。
「香月お姉ちゃん」
妹が私をみつけ走って来ると、いつものように足に抱きつく。
「キアル。今日も元気だね」
「香月お姉ちゃんこんにちは」
妹の後から笑みを浮かべながら歩き、私の前に立ったアレルが軽く会釈をした。
「やあ、アレル。今日はどうしたんだ?」
「ああ。これお母さんがいっぱい作っちゃったから持って行けって言われて」
そう言うと、持っていた籠を私に差し出す。私は剣を腰に納めると、それを手にし、掛けてあった布を捲る。すると中から甘く香ばしい匂いと共に、タルトパイが綺麗に並んでいた。
「中味はカシューベリーです。お母さんが言うにはベリーを使ったタルトの味は家で違うんだって」
「成る程。家庭料理ってことね。まあ二人のお母さんは何作ってもおいしいからな。この前も分けてもらったオムレツも美味しかった」
「私のお母さん料理上手なんだよ」
「確かに。私も今度教わろうかな」
「本当!! なら私も一緒にやる」
庭でそんな他愛もない会話をしていると、家のドアが開き眉間に皺をよせながら、銀髪の男が立ちこちらに焦点を合わせた。
「騒がしいと思えば、商店のガキか。香月、来る事を知ってたなら言え」
「ちょっといきなりそれ?」
「いえ、セルリル様。香月お姉ちゃんは知らないんです。お母さんが持って行くように頼まれて来ただけなので」
そう慌てて否定をしつつ、頭を下げた。その姿を一瞥したセルリルは、室内に消えたと思いきや、直ぐに姿を見せ、こちらに歩いて来る。その手には小さな袋を手にしていた。するとそれをアレルの前に差し出す。
「これで最後だ。ついでに持って行け」
「ありがとうございます。セルリル様」
少年は笑みを称えながら、頭を下げると、妹の手を取り帰路へと付くも、途中で振り返った。
「また来ます!!」
そう言うと大きく二人は手を振りながら、木立へと消えていく。それを見送る私と対照的に、彼は早々に家に戻り始めていた。私はその後を追う形で同じ方向へ向かい、肩を並べる。
「『また来ます』だって。ここん所、薬の件もあるけどよく来るもんね。あの二人。一ヶ月前までは少なからず、例の件で店主達が来たぐらいだったのに」
「フン、別にワザワザ来なくても、香月が店に顔出すだろうが」
「まあ、来たいんじゃない。でも以前と比べて、あの子達、セルリルに懐いてきたね」
「はあ? 何故そう思う?」
「だって、当初はあの子達。セルリルにあんな顔むけなかったでしょ? それに『セルリル様』って。今まで名前呼ばれた事ないくせに。しかも尾に『様』なんてつけてもらっちゃってるじゃない」
「……」
「まんざらじゃあないんでしょーー」
「香月。それ以上詮索は許さん」
「はいはい」
すると、彼はズカズカと歩き出すと、一人で室内に入っていってしまった。そんな背中をほくそ笑んで見送る。
「性分なんだろうけど。不器用なとこあるよね」
まあそれは私にも言える事なのだが、今までの経験上あまり、他者から良い印象を持たれた経験が乏しい為、いざああいった形で表されると、どう対処していいかわからなくなる事がある。今の彼はそんな複雑な感情なのだろう。
にしてもここに来て彼の評判は過剰な迄に好転している。と言うのも、サーベルキャットを確保と、それに伴い奇病である狂魔病の良質な特効薬が精製されたというニュースが一気に広まったのだ。
まあ材料が揃えば店主でも出来る調合ではあったが質はその精製した当事者の能力で変わってくるようだが、あの時は店主も負傷していた為、その作業をセルリルが行う流れとなった。
(店主さん来た時に、材料あれば作るみたいなニュアンスの事言っちゃった手前もあるかと思うけど、言った事には責任持ってやるんだよね。ただ口が悪いがな)
また彼の調合した薬は店主も当初から絶賛していた。それに付属し言っていた『当事者の能力で変わってくる』を裏付けるように良質な品のようだ。商店の奥さんも医者が驚く程の回復を見せているとの事。その話はあっという間に人々の耳に入り、彼と一緒に村に足を踏み入れると今までにない視線を感じ、気恥ずかしい感覚を覚える事度々。
お陰で、そういった視線に慣れてないセルリルは、以前にも増して、村の用事は私がほぼ行っている状態だ。また言うまでもないが、商店にとっては家族を救ってくれた恩人という事で、奥さんの手料理やらを渡され、子供達も以前のセルリルの印象が180度変わり怖がる事もなければ、悪く言う事もなくなったのだ。
(人の心情は何のきっかけで変わるかわからないからね)
そう心情といえば、キャットの件以来、セルリルが私を名前で呼ぶという驚愕な現象が起きていた。
始めに呼ばれた時は耳を疑ったが、彼は何事もなかったようにそれ以降名前で呼んでいる。それなので、私も合わせた方が良いと思い彼の名前を呼ぶようにした。
(まあセルリルが名前呼びに替えてきた心境の変化の理由は不明だけど)
そんな事を思いつつボチボチと歩き部屋の中に入ると、テーブルに籠を置き、一回伸びをした。
「とりあえず、もう1セット素振りしてこよ」
すると先自室に戻っていたセルリルが、顔を出す。
「香月、まだ体力が有り余っているようだな」
「…… 何が言いたいわけ?」
「氷柱まで行って来い。誰かが結界に入った」
「はあ。何で私?」
「どうせ素振りをやるんだろ? なら問題ないだろう」
「`あ`あ`ぁ」
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