絶対に守り抜く
遊びに来て頂きありがとうございます。
この度、初連載です。
「香月姐さんすいません」
弱々しく声をあげ、太腿の上に擦り傷を作った手が強く拳を握る。
「奈々のせいじゃない」
「でも……」
隣で苦々しさを含んだ言葉を零した彼女を横目で見た。服は泥が付き、数カ所服が破れそこから血が滲んでいるようで、チームカラーの紺色が黒く変色している。
先刻、痛手を負った奈々と共に図体のでかい男が現れたのだ。そして『もう一人。御頭が直々に面倒をみている。助けたければ直接出向く選択しかないがどうする?』と問われる。それと同じくして彼の背後に外車のミニバンが止まった。ゆっくりとスライドドアが開けられ、対面式の座席が視界に飛び込む。勿論この状況であり、輩の言わんとする事は容易に見当がつく。ゆっくりと足を進め、車内へと足を踏み入れる。そして私が座席に座ると同時、奈々を放り投げるかのように、私の隣へと座らせたのだ。それに続く様に男が乗車し、目の前のシートを占領するとドアが閉まり、車が動き出した。
そんな状況での車中は言うまでもなく緊迫した空気が漂う。また時を同じくして、同乗してから隣に座る奈々は身を屈め煤けた手を置いた太腿のジョガーパンツを握り締めている。彼女の慚愧に堪えない思いは、その言動からして私自身にもヒシヒシと伝わってきていた。
「奈々は奈々の仕事をしたんだ。だから気にする事はない」
「つっ……」
顔を少し上げる彼女から悔しそうな声と共に、青あざのある頬に涙が流れる。
「おいおい。目の前の俺を無視して話してるんじゃねーよ」
話に割り込むように、目の前にドカリと座り込む黒服を着たがたいの良い角刈り男が、嫌みっぽく言い放つ。それを一別し視線をすぐさま変えた。と、いきなり胸ぐらを捕まれ、肩下まであるストレートの黒髪が激しく揺れる。
「姐さん!!」
先まで膝を着いていた奈々の腰が一気に上がり、鬼の形相へと豹変した。それを片手で制止させ、改めて襟を掴む輩に鋭い視線を向ける。
「離してくれますかね。あんたのボスは私の顔がいたくお気に入りみたいだし、それこそ傷作った日にはあんたの方がやばいんじゃいんです?」
「ちえっ、クソ生意気が!!」
吐いて捨てるように放った言葉と共に、放りなげるように掴んでいた襟から手が離れた。
「香月姐さん!! 大丈夫ですか!!」
心配そうな表情を浮かべ、奈々が私の方に寄る姿を、笑みを見せ彼女を多少なりとも、安心させた所で輩を睨む。
「それよりももう一人うちのもんがお世話になってるようだが、こうやっておたくさん達の意のままに足を運んでやってるんだ。手なんか出してないだろうね」
鋭い眼孔を彼に向ける。すると車内に嘲笑う声が響き渡る。
「さーな。俺はあくまでもあんたを無傷で連れてこいという指示を受けてるだけだからな。お前の部下がどうなってるかなんて知るわけもなけりゃあ、どうなろうが知ったこっちゃない」
「美鈴に何かあったらただじゃあおかない」
自身でも顔立ちが一般人よりも鮮明と理解している事もあり、他者より表情が誇張しやすい。その為あからさまにその表情が表に出ているのを承知すると共に、ドスの効いた声が強烈な殺気となり現れ、目の前の男が一回生唾を飲み込み怯んだ。
その後誰一人喋る事なく車で揺られる10数分。車体がゆっくりと停まると、横のドアが開けられた。先に目の前の輩が身を屈めつつ車外に出ると、車がその反動で揺れる。そして間髪いれずに、その男が私等の方に視線を送った。
「出ろ」
短く言った言葉と一緒に彼の手が外へと手招きをする。それに答えるようにゆっくりと、車の外へと出た。辺りは人気のない建設資材置き場。数箇所建設会社が設営したであろう外灯が弱々しい光を放っている。
そんな中を男二人に挟まれる格好で奥へと進むと、数人の骨格の良い男が立ちその中央には空き箱に座るヒョロリとした男。そしてその足下には両手を縛られた状態で傷だらけの私の仲間である美鈴がいた。
「御頭。お待たせしました」
「おう。思ったより早かったぜ」
ニヤリと笑いながら中央の輩が立ち上がる。
「それにしても今日はやけに静かだな。香月」
「……」
「いつもなら、どこかの野良犬みてーに吠えてくるのによ。ははーん。こいつのせいか?」
すると彼は手を下に伸ばす美鈴の髪を掴む。
「美鈴!!」
香月の横に並んでいた奈々が声を上げ、今にでも飛びかかる勢いで体を前に出す。そんな彼女の前に腕を出した。
「奈々。落ち着きな」
声を掛け彼女を宥めると、先から前に据えていた目が鋭く彼等を射抜く。
「すいませんが、その子返して頂けますかね。目的は私であって、その子じゃない」
「ご名答。俺はこんな雑魚には興味はないんでね」
「何言ってやがる。そんな人質とらなきゃ姐さんに相手してもらえないお前だってよっぽど雑魚だ!!」
「うっせーー!! 今どういう立場かわかってるのか?」
すると美鈴の髪を掴んだまま上へと強く引っ張り上げる。それと共に、彼女から苦痛の声が上がり、周りに響く。
「いい加減にしろ!!」
拘束されてから今まで声を荒げる事をしなかったが、思わず一喝する。
「趣旨をはき違えるな。さっさと目的を言え」
「それもそうだ。香月。お前俺の女になれ」
「断る」
「じゃあこの子分がどうなってもいいのか?」
「…… わかった」
『姐さん!!』
彼女等が叫ぶもそれに答える事なく、話は続く。
「とりあえず、その子を放してくれないか?」
「はあ? そんな用件のむわけないだろ?」
「では、私がそちらに向かうと同時にその子もこちらに向かわせてくれ」
「それなら良いだろう」
「姐さん」
切ない声が隣から発せられそちらを見る。今にでも泣きそうな顔をする奈々に笑みを浮かべてみせた。
「大丈夫だ。奈々後は頼んだ」
「……はい」
ある程度こうなる事を予測していた。なので美鈴が捕まる前に彼女にはある程度の手順は話はしてある。とりあえず二人を逃がすのが優先であり、私一人ならどうとでもなるのだから。
「よし、合図で歩きだせ」
すると髪を掴んだまま、彼女を立たせると同時に片手を上げる。そして数秒後手が一気に下ろされた。それと同時に両者歩き出す。そして丁度中間地点の場所でボロボロの姿で涙ぐむ美鈴に声を掛ける。
「すまなかった」
「い、いえ。こちらこそ迷惑を……」
「そんな事はない。とりあえず余力はあるか?」
「は、はい」
「じゃあ大丈夫」
そう言い彼女の肩を軽く叩きすれ違うと、頭という男の前へと立った。
「全く梃子摺らさせやがって」
「こんな手を使ってまで呼び出す話じゃないだろうに」
「何いってやがる。いつ誘ってもガン無視の癖によく言うな」
ニヤリと笑い互いの息がかかる距離まで近寄る。私の身長は167cmと女性にしては大柄の方に入る。そんな状況もあり、目の前の輩とほぼ目線が一緒。勿論、鋭い眼光を向ける相手に、負けることなく睨み返す。
「良いねーー その整った顔から浴びせられるその視線。ゾクゾクする。やっぱり俺と釣り合うのはお前しかいねーな」
すると、いきなり彼の片手が私の顎を捉え軽く上げた。
「願い下げだな」
低い声でその問いに答えると同時に、足が彼の股を強く蹴り上げる。
「☆※△○」
言葉にならない声が上がると共に蹴られた箇所を両手で押させ倒れ込む。
「頭!!」
野太い男達が各々彼に気を取られて一瞬に、踵を返した。
「奈々、美鈴走れ!!」
その号令に背後に居た二人が走り出す。それと同じくして私も全力で彼女等に追いつかんとその場を走り抜けた。すると、先まで車に同席していた男二人が立ちふさがり、一人が手を伸ばす。それを軽く交わしつつ、彼の手を掴み走った勢いを使い、男の肘に手を添えと同時に巨体が綺麗なまでに前方投げが決まり投げ飛ばす。すると背後からもう一人の男ががんじがらめのように抑え込まれるも、すぐさましゃがみ輩の体制を崩す。そして輩の首を掴み一回転させる。当時辺りに地鳴りが響いた。同時に、手の離れた隙にすぐさま全力で再び走り出すと、数秒で先に行った彼女等に追いつく。
「姐さん!!」
「大丈夫二人共」
「はい」
「よし!! それなら走り抜けるよ」
その声に俄然気合いが入った二人が猛走する。だが流石に手負いの事もあり、その馬力は続かない。特に捕虜になっていた美鈴の体力はほぼ限界にきていた。
彼女の走る速度が落ち始める。美鈴を気に掛けると同時に背後からは怒号を上げながら、男等が走りこちらに向かってくるのがわかった。
流石にこのペースでは彼等が追いつくのも時間の問題である。その時怒濤の如く猛追する彼等の中の一人が、壁際に整然と並ぶ足場を組むパイプを倒した。
金属音が響きそれは徐々にドミノ形式で勢いをまして倒れ、彼等より先行しこちらに向かってきたのだ。二メートルを越す長さもさることながら、何本かの束になっている事もあり、頭上に勢いよく倒れでもしたら命さえ危うい。
とりあえず、後少しでパイプの置かれていない場所へとたどり着く。そこ迄はどうにか走り抜けるしかない。懸命に激走する中、奈々と私は走るも、深手を負う美鈴は二、三メートル後方に居た。
「美鈴!!」
すると、彼女のすぐ背後まで鉄棒が倒れてきているのだ。
「美鈴!!」
彼女の名を呼び慌てて美鈴の方へ向かい、彼女の手を握ると遠心力を利用し、美鈴を奈々の方へ飛ばした。
「香月姐さん!!」
空気を裂くような叫び声が耳に届くと同時に、頭上を見上げる。そこにはスローモーションが掛かったような錯覚を覚える程ゆっくり、そしてはっきりと無数のパイプが目に飛び込む。
(あー もう駄目だな。でも大事な家族を守れたんだし、まあ、いっか)
読んで頂きありがとうございます。
なかなか感想諸々お伺い出来ない為、
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