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わからずの恋  作者: 黒川えこう
プロローグ
1/8

婚活しようかと髪を切ったら人生最大にして最後のモテキ到来して困る地味女子の話


 なかなかに良い調子だと、天野桃子は思った。中学高校をただ地味であるのが正しいと信じ生きてきた桃子は、地元の短大に入った後もその考えを改める機会を得ず、地味なまま就職し今につながる。良い調子だと思ったのは、地味であるだけではなく、その中に清潔さも備えている部分が見え隠れする程度に整った服装や髪形、化粧だったからだ。

 洗面台の鏡に映る自分は、口を真一文字に結んでじっと見つめ返してくるのもまた良い。あまり口角を上げると忌々しいえくぼができるし、歯が見えてしまっては下品である。

「良し」

 真っ白なブラウスと膝が隠れる紺のスカートに、ねずみ色のジャケットは最高の組み合わせだと思う。これに黒いパンプスを履けば正に理想の姿だった。

 しかし二時間後には、心の底から自分が場違いな存在であると実感した。

 婚活なるものに興味を持ったこと自体が間違いだったのかもしれない。ドレスコードさえ選べばお見合いパーティも大丈夫だと思いついたのも、今になってはバカみたいだった。

(カジュアル……)

 参加者の女性たちは皆着飾っている。男性たちもそうだ。アクセサリーをつけている者も多い。

 それでもビギナーズラックというものなのか、連絡先を聞かれたし、名刺をもらったりもした。だがそれっきりである。パーティの中盤ともなれば壁際が定位置になってすっかり収まっていた。

(これは用意が必要だった)

 まずコミュニケーションが取れない。あまり喋る方ではないと自覚があったが、ああいう場面ではしゃべることがすべてといってもいいとあの短時間で学習した。そして外見である。大勢いた中でも特に多くの男性から話しかけられていた女性は、華やかなドレス姿で露出が多いにも関わらず上品で清潔感があった。壁の花にもなれずにいる桃子にも親切だった。

「あなた、こういうところって初めて? わたしは初めてなの」

 モゴモゴ言っている桃子にアイスティのグラスを差し出してにっこりしてくれた。自分が男なら、いや女の今でも惚れてしまいまそうなにっこりである。揺れるイヤリングも綺麗だ。

 聞きたいことで胸の中がいっぱいになった瞬間、彼女はまた男たちに囲まれてしまいその機会は二度となかった。

(なんだろう)

 目で追う彼女の頬には自分と同じ位置にえくぼがあった。

(なに……?)

 妙に惹かれるところがあった。そして随分昔、自分がまだ幼稚園に通っていた時のことを突然思い出した。

(そうだ、私あんなふうになりたかったんだ)

 幼稚園の頃、両親が離婚して父に引き取られた。祖母から何度も、桃子の母親はアバズレで浮気して男と逃げたのだと聞かされて、桃子はもともと大人しい性格だったのが根暗も加わってただひたすら暗い子供になっていった。

 祖母の言う通りにすれば間違いない、そして母に似たえくぼは最低最悪のものだと言われ続け桃子は成長した。

 桃子のえくぼは、もう随分と存在を確認していないがまだ頬にあるのだろうか。

 帰りに立ち寄った本屋で、話し方だのコミュニケーションだのの本を選び、ファッション雑誌も自分の年代に合いそうなものをいくつか選んで買った。

「はあ」

 家に帰ってすぐに本を開いたが一日の疲れかまったく頭に入ってこない。雑誌を見ても、自分が着ている姿が想像できない。頭がパンクしそうだった。

 誰かに相談しようにも、親しくしている友人は仕事が忙しいのを知っている。それに恥ずかしかった。何日かをそんな調子で過ごし、仕事帰り疲れた足を引きずって商店街を歩いていると店じまいをしている美容院の前で声をかけられた。

「お姉さん。カットモデルしてみませんか?」

「カット?」

「いつもピシッとしてこの前歩いていくでしょう。たまにはイメージチェンジもいいんじゃないかなって。もちろんこちらがお願いしてるんだからお代は頂きません。どお?」

 これはいいチャンスだと思った。自分から変わろうとしてもどうすればいいのかわからなかったのだ。

「お願いします」

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