幕間:数日後の彼女の実家
「なんということだ…」
屋敷の門に入ってきた一頭の馬と騎士、そして千切れたハーネスのベルトを見て、私は妹が今、命すら危ぶまれる状態にあることを悟った。
すぐに屋敷の者に騎士の介抱を指示し、待機中の他の騎士に急ぎ団長に報告して捜索隊を組むように伝えてから父の書斎へ急ぐ。
「領主様」
ノックの後、父たる領主の入室許可を待つ時間がこれほど長く感じられることはかつてあっただろうか…
…いや、実際長過ぎないだろうか…
「急用でございます、領主様」
たっぷり数秒が経ってから、中からくぐもった返答が返ってきた
おそらく「入れ」と言ったのだと思うが、
父は仕事に集中していると、もごもご喋る癖がある
「失礼致します。領主様、先ほどロランをドットベルタに送り届けるための騎士が帰還しました」
「…そうか。して、急用とはなんだ?」
会話しながらも手を止めない領主である父、それはいつものことなのだが、事態が事態だけに今日ばかりは苛立たしく映る。
「馬車と繋がっていたハーネスが食いちぎられた状態でございました。現在、騎士団長に捜索隊を組ませております」
「…なんだって…?…ハーネスの千切れ方は刃物ではないのなら…そうだな、妥当であろう。辺境伯への連絡に水鏡の井戸を使用することを許可する」
「ありがとうございます」
こちらが言わんとしていることを、先回りして許可を出してくれた父に感謝の辞を述べて、退室許可を受ける。
急ぎ屋敷地下の、当社と家督を継ぐ嫡子意外に秘匿された家宝の井戸に向かった。