『最果ての野獣』に嫁ぎます
ごきげんよう皆様。
私は今『最果ての野獣』という二つ名で有名な辺境伯に嫁ぐ為に、その国境に隣接する領地に向かう馬車の中にいます。
なぜそんな恐ろしい二つ名をもつ方と結婚する事になったのか、今でも整理できないでいます。
私には1つ年上の、仲が良いとはいえない兄がいます。代々騎士の家系の我が家ですが、家督は兄が継ぎました。私は父か兄が決めた男性と結婚するのだろうと、そう覚悟しておりました。
「学友がなんでもいいから結婚したいらしいんだけど」と兄が持ってきた縁談話が、あまりにもスムーズにまとまり、私はわけがわからないまま現在に至っております。
「なんでもいいからって、酷くないですか兄上……」
私の声はきっと馬車が走る音にかき消されているでしょう。
さて、王都から出立し、鋼鉄の馬車に揺られて早3日、分厚いけれどそこそこ透明なクリスタル製の窓から見える景色は、田畑、家、田畑、田畑、田畑、田畑に牛、家、田畑、です。昨日御者である兄の部下の騎士様に聞いたところ、明るい内に魔物が出る森に入り、一本道を小1時間走ると高い壁に隔たれた彼の領地に着くと聞いています。
その州は魔獣が跋扈する森が領地の大半を占めるそうです。兄の友人である国境を任された辺境伯は、最近代替わりをしたばかりだそうです。その『最果ての野獣』と呼ばれる青年領主が統治するドットベルタ州。土地の広さだけは国一番、ただし人里は領地の2割無いのでは、という噂です。