第2話 僕の名前は……
僕の名前は近藤巌。出来れば「いわちゃん」と呼んで欲しいです。
以上終了。
なんて感じで話を終えたら閲覧履歴を即削除されちゃうのでちょっとだけ自己紹介をします。
僕は市立「成城ヶ原高校」に通う高校2年生の男子です。
そこそこの進学校であるこの高校に入学できたのは僕の唯一の自慢。それ以外は余り自慢するところが……
「はい、お兄ちゃん。今日も美玖の手作りお弁当だよ」
「毎日ごめんね。美玖ちゃん」
ごめんなさい。大いに自慢できることが一つだけありました。
僕には史上最強の妹である美玖ちゃんがいます。僕の事を慕ってくれる最高の妹。それに身内補正を失くして客観的に見ても、物凄く可愛い。美玖ちゃんは只今中学3年生。サラサラの黒髪を揺らせながら愛嬌のある笑顔で、いつも僕に甘えてくる可愛い妹です。
「お兄ちゃん、だぁーい好き!」
まだ小さかった頃から現在に至るまで、美玖ちゃんはずっとこんな感じだ。そんな美玖ちゃんは僕にとっての宝物。僕は無条件に美玖ちゃんを愛してる。(当然兄としてですよ? 危険なやつではありませんので。)
僕みたいな人間に過ぎたる妹なんだけど、美玖ちゃんは本当に僕の事を大切にしてくれる。
「それじゃ、美玖ちゃん。行ってくるね」
「うん。今日も頑張ってね。えへへ…」
玄関先で美玖ちゃんからいつものように見送られ、僕はバス停へと徒歩で向かう。バス停に到着すると同じ高校の制服を着た人たちの列に加わる。
今はもう9月。
4月の頃は黙って静かにバスを待っていた1年生の生徒たち。でも今ではそれぞれに友達を見つけて、みんな賑やかに喋っている。当然、2年生や3年生も同様であり、9月の今はバス待ちの雰囲気にも活気がり、何となく楽しい感じがする。僕はそんな和やかな雰囲気に包まれながらバスを待つ時間がとても好きだ。
やがて到着したバスに皆が乗り込み、15分もすると高校の近くの停留所に到着する。すると大勢の生徒がぞろぞろとバスから降りて、皆同じように学校へと向かって歩きはじめる。僕もその群れの中に交じりながら、ゆったりとした気分で校門をくぐり、2年C組である自分の教室へと歩みを進める。
教室に入ると、窓側の最後尾である自分の席へと向かい、座席に座るといつものように、鞄から教科書やらノートをだして、それを机の中に仕舞い込む。
全ての作業を終えてスマホをみるとHR開始まであと10分といった感じ。これが僕の日常ってやつ。今日もいつものように一日が始まる。
「おはよ~う! ありさ~」
「あ、おっはよー! さやか~」
眼の前で繰り広げられるハイタッチ。相も変わらず元気な様子で朝から燥ぐ前方の女子集団。
バタン!
勢いよく机の上に鞄を置くと、ガガガッっと椅子を豪快に引っ張り、ドスンって感じで椅子に腰を下ろす前方の女子。
「あ、近藤くんだ。おっはー!」
椅子に腰を掛けると、その少女は直ぐに振り向いて挨拶をしてくる。
「おはようございます。水瀬さん」
僕はいつものように彼女に挨拶を返す。
やがて水瀬さんは直ぐに前向きに戻り、集まってきた仲間たちと朝の雑談。僕の前方では女子の黄色い声が咲き乱れ、もはや騒音としか感じられないような不協和音を奏でる。
やがてHRが始まり、担任の先生の声に耳を傾ける。
それが終わると1時限目の授業の準備。机の上に教科書やノートを準備して授業の始まりを待つ。
ただ、HRは大抵あっという間に終わるので、存外授業開始までの時間に間が空く。
すると……
「あ~あ、今日も授業始まっちゃうなぁ~。 そうだ! ねえねえ、近藤君、3時限目の数学の宿題やってきた?」
こんな感じで水瀬さんが話し掛けてくる。
「やってきたけど…… 忘れてきたのならノートを貸しますよ?」
「えッ! いいの?… いつもごめんねぇ~ 近藤く~ん。 えへへ~…」
ごめんねといいつつ、多分ごめんとは思っていないであろう陽気な笑顔で僕からノートを借りると、ルンルンといった感じで宿題を写し始める。ただ、そんな彼女を見ていて、やはり凄いと思ってしまうところがある。
作り笑顔だとは思うのだけど、一瞬「かわいいぃ~」って、つい心の中で言ってしまうほど、彼女の笑顔は本当に素晴らしい。あざといという事が分かっているのに、それでもそう思わせる彼女は筋金入りのギャルなんだろうって感じる。
まあ、これも僕にとってはもはや日常って感じです。
それから授業も進んでいき、あっという間に昼休みがやってくる。
お楽しみのランチタイム。
僕は自席で妹に渡された弁当を袋から取り出す。
ゆっくりと蓋を開けてみると……
彩に満ちた可愛いお弁当の中身が登場する。卵焼きは勿論、唐揚げやウインナー、それにプチトマトやレタスなどしっかり野菜も入っており、栄養のバランスがきちんととられている。
ちょっと見た目が女の子のお弁当に見えて恥ずかしいって気にもなるが、美玖ちゃんが一生懸命作ってくれたことを考えると、そんな罰当たりなことなどとても言えない。
僕は美玖ちゃんに感謝しながら、自席でゆっくりとお弁当を堪能するのが日課となっている。
だが、そんな憩いのひと時を前方にいる女子集団がぶち壊してくれる。
「きゃははははは~ え、マジ? マジでぇ~?」
「そんなのあたり前でしょ? マジってかガチもんだよ」
「しっかしさぁ~ 小夜もワルだよね~」
「え? そう? みんなやってるって思うけど?」
………水瀬 With愉快な仲間たち(会員制ギャルメンバー)
何を食ったらその元気が出る?……っていうぐらい姦しい。
ただ、僕からすればただのノイズメーカーな集団なのだが、他の男子にすればそーでもないようで。みんなチラチラと水瀬集団をチラ見しながら色々と意識している感じである。
確かにこの集団の平均レベルは凄い。
男子であれば、この中のどの女の子でも満足できるだろうと思うぐらいみんな可愛い。ってか、みんな可愛さに磨きをかけている。
だが、その中でも水瀬さんだけはやはり一歩抜きん出て可愛い。
性格的にはどーかと思うが、僕は色眼鏡で他人を見たりはしない。性格が悪くても可愛いもんは可愛いい。ただ、だからと言って好きになることも無いけど。
前方の女子集団にちょっと辟易する気分ではあるが、ここは窓側の最後尾の席。しかもこの列だけ1名分人数が多いので、僕の席だけ後ろに飛び出している形になっている。だから席をズズッと後ろにずらして離れることも自由だし、周りにも人はいないので、僕は結構優雅に時を過ごすことが出来る。
はああ~ 今日もいい天気だ。窓から見える空はとっても奇麗だな。……
………。
さて、みなさん。
これが僕の半日なのですが、そろそろお気付きになりましたか?
―――え? そんなのとっくに気付いてる?………さすが鋭い!
そうです。僕は家を出てから半日の間、水瀬さん意外と喋ってないんですよねぇ~。
みんなの憧れ、水瀬さんとしか喋っていないって言うのはある意味格好良く聞こえるかもなんですけど…。
でもね、先に言っちゃうと、僕は午後も水瀬さん意外と会話をすることは無いと思います。
それが何故かと言われたら(ベンベン!)………僕には「友達」がいないからで~す!
………………。
今までの話はほんの前座に過ぎません。こっからが本題です!
ねぇみなさん聞―てくれます? くれますよね?
これから僕の悲しい過去… いえ、現在も継続中の過去のお話をさせて頂きます。……させてくださいお願いします。
あっ、そのまえにちょっと…… 便所へ行って先に一回だけ泣いてきます。
しばしお待ちを…。