第一話 因縁のバトル
あまり長くならない連載です。
ほんわかした展開で進んでいきますので、お気軽に読んで頂ければ幸いです。
ちょっと気分転換で書いたものですので、箸休め程度のお気持ちでご愛読して
頂ければと思ってます。
宜しくお願いします。
「あのさ、前に注意したよね? スカート短かすぎるって?」
「ん? そうだったっけ? よく覚えてないなぁ~ クスクス…」
「そっか… やっぱ覚えてないんだ。 ま、仕方ないよね。 あんたの脳ミソは男の事しか記憶できないもんね…」
「あ~~っ! ひっどーい! いくら私がモテ過ぎるからっていってもさ、そこまで僻まなくても良くない?」
「はぁ? モテてる? 何処が? あんたがパンツ見せびらかしてっからみんな集まってきてるだけっしょ?」
「自分に男子が寄ってこないからって~ そんなに僻まれてもわたし困っちゃうなぁ~。 だってそれはね、女としての魅力がないあなたのせいであってぇ~ 私のせいではないん・だ・ぞ。キャハハハハハ……」
「ふぅ~ん… 魅力ねぇ~。 パンツ見せながらおっぱい半分見せるのが魅力かぁ~。そーでもしないと男も寄ってこないのかぁ~ ふぅ~ん、そーなんだぁ~ クックック…」
「あら? そーいうこと言っていいの? だってさ、私は見せるとこあるからいいんだけどね、あなたどーすんの? 見せるとこも無いくせに? ププッ…」
「ったく… 見せる見せるって。それしか能がないの? この年中発情期のメス猿!」
「………誰が年中発情してるって? しかもメス猿?! ふんっ! ならあんたなんか発情もできないただのメスゴリラじゃない!」
「一回さ、白黒はっきりつけてみる?…」
「望むところよ!…」
ガタン!!
「悪いんだけど… ちょっと退けてくれるかな…」
颯爽と席から立ちあがった僕は、周囲に群がっている人達に向かってそう声を掛けた。
女子生徒2人の口論を見物に来ていた群衆は、ぼくが立ち上がるときにたてた椅子の音に驚き、一斉に視線をこちらに向ける。
いきなり静まり返った僕の周囲。その様子に気を取られたのか、口論していた女子生徒たちもポカンと口を開けてこちらを見た。
ちょっとややこしいので今までの状況を説明いたします。
お昼休みになり、いつものように自席で弁当を食べ終えた僕は、これまたいつものように机に突っ伏して眠っていた。……ほんとのこと言うと眠っているように擬態してました。
眼を閉じて眠っているフリをしてると、何やら嵐の前触れを感じる。
………こいつは、 マズいな……
急いで立ち去らねばと思い、擬態を解こうとしたんだけど… うっすら目を開けて周囲をチラッと見て見ると、もはや脱出不可能な状態となっていた。
バトルは僕の席の目の前で行われている。
バトっているのは、ぼくの前席の住人である水瀬沙也加と、同じクラスで風紀委員でもある佐伯美鈴さん。
この二人なのだが、完全に水と油。互いに認め合う所が1ミリもない。ライバルなんて生ぬるい関係ではなく、もはや仇敵、宿敵といった感じだ。ちなみに二人は強敵ではない。
何故こうなった?……それは水と油だから。ほんとにただそれだけ。
風紀委員である佐伯さん。
筋の通った生粋の真面目人間。風紀委員になるために生まれてきたような彼女は、規則を破る人間を断固として許さない。特に風紀指導強化月間は鬼を超越した羅刹になる。
一方の水瀬さん。
簡単に言うと、可愛い子星系からやってきた陽気な小ギャル。自らを可愛く見せることにその全力を注ぐ。そんな彼女が校則など守る気なんて1ミリどころか原子核の大きさ程も無い。ちなみに原子核の大きさは10のマイナス15乗メートルです。簡潔に言えば、1ミリの1兆分の1のおおきさ。
まぁそーなりますよね?… って感じ。
誰の眼から見てもこの二人が打ち解けることなど無いのは理解できる。
この二人は同じクラスになって以来、絶え間ない死闘を繰り返している。
馬の合わない二人がいっつも口喧嘩……
それだけなら大したことも無い。勝手にやっていればいい。だが、この二人の場合はそーはいかない。
なんせ二人はこのクラスの両巨頭。このクラスを代表する美少女達なのだ。佐伯さんはそーでは無いと思うが、水瀬さんはこう言った理由もあって、佐伯さんの事を嫌っているのではないかってのは感じる。
こんな二人がバトルをすると…… 皆さん、どーなると思います?
当然といった感じでクラスは真っ二つに分かれてしまう。
佐伯さん推しのメンツ。
どのような連中であるかと言うと、彼女の凛とした立ち振る舞いに感銘を受け、彼女を宗祖様のように崇めている人達。どちらかと言うと女子の方に人気があるが、熱狂的な佐伯さん信者の男子も結構いる。
一方、水瀬さん推しのメンツ。
まず、水瀬さんには取り巻きがいる。当然、同じタイプであるギャル連中だ。水瀬さんはその連中の頭目であり、彼女達を率いている。そんな可愛いギャルを集めているため、恋愛脳に侵された男子達や、エロスを追い求める男子達は、必然的に水瀬さん推しとなる。全体として男子の方が多いが、オシャレ好きな女子からの支持も強い。
あと、当然ではあるが、どちらにも属さない中立派…というか、世捨て人がいくらかいる。ちなみにぼくは世捨て人の一人。
この二人がバトルを開始すると、当たり前といった感じでギャラリーが一気に集まってくる。
二人は共に派閥のリーダー。
だからそれぞれの側にギャラリーが集まり、二人のバトルに熱い視線を注ぐ。
ただ、だからと言ってギャラリー同士が揉めることは無い。どちらかと言えば野次馬根性もろ出しで、やんややんやと楽し気に騒いでいるって感じ。
今は高校2年生の9月も中盤を過ぎたころなのだが、この二人のバトルはもはやクラスの定番行事となっている。確か武田信玄と上杉謙信は5度にわたって死闘を繰り広げたという。それになぞらえると、今回のバトルは第三次川中島合戦って感じだろう。
そんな二人のバトルが今から始まろうとしていた。
僕が逃げようと思ったときには時すでに遅し。僕の席は群衆によって取り囲まれている。完全に逃げ遅れたぼく。こーいう時ってどーしてたらいいのか分かんない。
寝たふり… 通じる訳ないよね?
この状況で本気で寝ていられる人がいたら、その人は神認定されるだろう。
どっちかの見方になった振りをする?
それもまずい。敵に回った方からのリベンジが怖いし、なにより俺が味方に付くとしたら水瀬さん以外に選択肢がない。だって水瀬さんは僕の席の前だから…。もし水瀬さんに敵対しようもんなら、明日からの学校生活は完全に崩壊するだろう。だからといって佐伯さんに敵視されるのは恐怖でしかないし…。
う~む… そうなると残された道は……
菩薩になる。
これしかないだろう。道端に据えられた小さな菩薩。存在はしているが、注目する人はほぼいない。これならバトルに巻き込まれる心配は無いと思う。
よし、今からは何も考えず、何も感じず、何も思わない。僕は道端の菩薩像。村の安全をたた願うのみ。
―――このクラスに、早く平和な時が訪れますように―――
僕は無心でクラスの平和を祈った。
だが、そんな僕の願いもむなしくバトルはヒートアップする一方。
僕の祈りは完全に無視される。
周囲にいる群衆もバトルに見入って止めに入ろうとする者はいない。それどころか、「負けちゃだめよ、頑張って!」などと声援を送る始末。なんと心が荒んでいることか…… ああ、無常。
僕はそれでも黙ってただ祈りを捧げていたのだが……そんな僕にも限界の時がやってきてしまった。
………ダメ。もう無理。限界超えちゃった。
ガタン!!
「悪いんだけど… ちょっと退けてくれるかな…」
僕は勢いよく椅子を引いて立ち上がると、近くにいる群衆に向かってそう言った。いつもは穏やかな僕なんだけど、この時はちょと語気が強かったと思う。
ついさっきまで騒がしくヤジを飛ばしていた群衆。
だが、僕の言葉に驚いたその人達は一気に黙り込む。そして亡者のようにゆらゆらと、僕の前から退いて行った。
急に静かになった教室。
バトルしていた二人もその異変に気付いて、僕の方を呆けた感じで見つめている。
よし、道は開けた。
僕は皆の眼を気にすることなく、堂々と二人の方へ向けて進んでいった。
二人は呆気にとられてただ近寄ってくる僕を見つめている。
やがて僕が二人の傍まで来ると、二人は眼をパチパチとさせながら不思議そうな眼をして僕の顔を見ていた。
争いを止め、静かになった二人。
僕は彼女達に声を掛け………
ることもなく、まるで無人の野を歩くようにそのまま突き進んでいった。
やがて教室の入り口を超え、廊下に到達する。僕はそのまま歩き続ける。………超内股で。 や、やばい… もう無理、ほんっと無理。 あ、あと10mだ。………頑張れ、ぼく!
この10mに僕の人生がかかっている!
普通の男子で居られるか、「おしっこ垂れ蔵」という異名を持つことになるのかが…。
やがてトイレに到着。
すぐさまチャックを開けようとするが、こーいう時に限ってチャックが途中で引っかかる。思わずその場で地団太ダンスを踊り始める僕。この気持ち、男性諸氏には深~い理解を得られると思う。なんかこーいう時ってじっとしていられない。止まったら死ぬ。間違いなく放水が始まっちゃう。
………極楽浄土~~~!!!
放水を終えた僕はある意味逝った。本当に菩薩様の笑顔が見えた。
その後の事はあまりよく覚えていない。
余りの解放感に魂を失った僕は無意識のうちにクラスに戻っていた。
教室に入るといつもと異なる視線を感じたような感じてないような……よく覚えていない。 ただ、朦朧とした意識でもこれだけは理解できた。
どーやら二人のバトルは終了したみたい。ギャラリーも解散してる。
僕は黙って席に着くと、机に突っ伏してもう一度寝始める。
史上最大量の放水を終え、疲れていた僕は直ぐに夢の中へと意識を溶かしていった。
臨界点からの一斉放水… ほんと気持ちよかった。癖になっちゃいそう…。