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ロッカとナフィ

 今回は留守にしていたロッカと起き上がったナフィがあらためて出逢います。

 世界観の説明回でもあるため地理や固有名詞が多く出てきますので、じっくり読んでいただける方はありがとうございます。

 お急ぎの方は、流し読みしていただいても、

たぶん大丈夫でしょう(^^;)

     *



 最後の板を張り終え、村長の家の水車がもとのように元気よく働きはじめたのを見て、ロッカは安堵の息を吐いた。


「もう大丈夫だ。ありがとうロッカ。助かったぞ」


 村長が水車小屋から出てきて、礼を述べてくれる。

 ロッカは「お安いご用だ」と応え、川から上がった。

 村長は余所者の自分を迎え入れ、この村で暮らせるように世話を焼いてくれた。その恩を少しでも返せるなら、だ。


「しっかし、何が起こってんだろうなぁ」


 村長の疑問はロッカの疑問でもあった。

 ここのところ、村を流れる川の水位が急激に下がっていた。

 村長の水車などは川面につかなくなってしまった。今しがた水車の羽に長い木板を重ねて打ち付け、なんとか水を受けられるようにしたところだ。

 今では村のどの水車も似たような状況だが、どれも応急処置に過ぎない。

 このまま川水が減り続けるなら、いずれあらゆる家の水車をもとから作り直すか、川幅を狭める必要がある。どちらも大仕事だ。

 だが、そのあとは? 早く原因を取り除かねば、村人の生活が危うくなる。

 水車ばかりではない。洗濯物を洗うにしても、子供達が浅瀬で遊ぶにしても、川の形が変わってしまうだけで、思わぬ事故が起こりかねない。

 村一番の井戸掘り名人によれば、地下水も勢いが弱まっているらしい。


 村の川は、北の大峰ラッティガヤを主な源泉とするアンビサール大河から枝分かれした、名も無き分流だ。

 大きな川ではないが、その良質な水と周辺山野の豊富な資源に支えられて、慎ましくも安定した営みを送ってきた。

 そのはずだった。

 雨量は例年どおりだし、雪解け水をくれるラッティガヤ山も真っ白い帽子を被り続けている。

 今朝、ロッカが村のすぐ北にある小山に登ったのも、川の上流を確かめるためだった。

 結局それどころではなくなってしまったが、途中に見えた渓谷の様子だと、原因は村に入ってくる分流ではなく、やはりアンビサール本流にあるようだった。

 あの助けた少女は上流のほうから来た。なにか知っているかもしれない。


 ロッカは村長に別れを告げ、川から離れた草むらの小道を歩いた。村の中心からは外れるが、ロッカの家にはこの方が近道だ。

 ここを歩きながら、家々が立ち並ぶ姿を眺めるのが、ロッカは好きだった。


「あの」


 行く手から声がかかる。顔を前に向けると、今朝の少女──ナフィ──が歩いてくる。


「この道を行けば逢えるだろうと、奥様からお聞きしたので」


「そうか。怪我はもういいのか?」


「はい。傷自体は、たいしたものではなかったので……それよりも……」


 ナフィは持っていた手のひら大の石板を、ロッカにかざした。

 フッと、ロッカからは見えない面に光が灯る。


「やっぱり。ロッカさん、あなたは“転生者”ですね」


「なんの話だ」


 眉根をひそめ、ロッカは訊くともなく訊いた。

 素早く眼を周囲に走らせる。他の村人の姿はない。


とぼけても駄目です。これは“明影晶(シャモー)”といって、離れた仲間と会話したり、目の前にいる人の能力値(ステータス)技能スキルを測定することが出来るアイテムです。当然、その人が“転生者”なのかどうかも」


 そう言うと、ナフィは盤面をロッカに向けた。

 なるほど、すこし荒っぽい光で編まれた単色の画像が石の表面に映し出され、自分の顔の下に、この世界で“転生者”を意味する単語が浮き出ている。

 地面に視線を泳がせ、ロッカは舌打ちした。

 わけあって、少女の手荷物から身元が知れるものはすべて破棄したが、ただの石板系アイテムと思って残したものがこんなシロモノだったとは。

 しかし、この“明影晶シャモー”とかいう石、形状といい機能といい、ロッカの知っている個人携帯端末とよく似ている。この世界にもこんなものがあったのか。

 いや、ひょっとしたらこれも“転生者”の誰かがもたらした知識を、こっちの技術で再現したものかもしれない。


 “転生者”──もともと生きていた世界で一度死に、神の意志によってこの世界に甦った者。

 かのような存在が時折現れては各々に秀でた力を振るっている。ここがそういう世界だということは、ロッカ自身、転生してからすぐに理解した。

 エルフをはじめとする亜人達、モンスター、魔物、精霊、おとぎ話でしか見聞きしたことのない生物が跳梁跋扈するこの世界(転生前のロッカにとってはすでに異常な世界)のなかでも、彼らは飛び抜けた異能種だった。


「気は済んだか。なら、いまのことは、きみの胸にしまっておいてくれ」


 え、とナフィは目を丸くした。


「この村の人も知らないんですか?」


「話は終わりだ。山羊の世話があるから、オレは帰るよ。きみも早く帰ったほうがいい」


 ロッカはナフィの脇をすり抜けた。


「待って! あなた、戦闘型の“転生者”でしょ!?  こんなところで何をしてるの──え?」


 何気なく繰った“明影晶シャモー”に眼を落とし、ナフィは絶句した。

 立ち止まって、遠ざかってゆく命の恩人の背中と石板とを交互に睨む。

 その瞳には強い驚きと、不信と、非難の念が混じっていた。


(どういうこと? [筋力]も[素早さ]も、ぜんぶ[100]を超えてる……

 《技能(スキル)》……[剣術]に[槍術]、[弓術]もぜんぶ!?

 そんな……いくら“転生者”でもこんなこと……人間の限界を超えてるじゃない……!

 それにこの特殊技能(スキル)……《孤狼》──『戦闘に参加しているのが自分ひとりの場合、全戦闘技能……三倍化』!?)


 ──ありえない!


「こんなの……こんなことって! 待って!」


 ナフィはロッカを追いかけた。脚がビキビキと痛むのを堪えて追い抜き、前に回り込む。


「ロッカさん、私と王都に来てください! あなたほどの人が騎兵団に入ってくれてれば、我が国は必ず帝国に勝利できます!」


「断る。オレは戦争に興味はない」


「帝国がどれほど卑劣かご存知ですか? オークのような人工生物、捕虜の扱い、侵攻した地域住民への非道な仕打ち。それでもあなたは彼らを見過ごすと──!?」


「帝国が何をしようと、オレには関係ない。この国が奴らに滅ぼされるというのなら、それも構わん」


「そんな……! 神がこれだけの力をお与えになったのに、あなたは……」


「その押しつけがましい神に従うのがごめんなんだ」


 そう言い残し、ロッカはふたたびナフィを置いて家路を急いだ。


「────ッ!」


 残されたナフィは唇を噛み締め、腕を天にかかげ、“明影晶シャモー”を地面に叩きつけようとする。

 が、その手が振り下ろされることはなかった。

 止まったはずの涙が、再び少女の眼からこぼれ落ちる。


(ラーライ……私、どうしたら……)


 うずくまり、“明影晶シャモー”に指を這わせる。

 光がナフィと、もうひとり、騎士装束の青年の姿を映し出した。

 オーク達の剣が、斧が、槍が、鎧を割いてその身に食い込む光景がナフィの眼に焼き付いている。

 ラーライ──彼もまた“転生者”だった。

 そして、ナフィの婚約者だった。



 お読みいただきありがとうございます。

 ここまでが起承転結で言うところ、[起]から[承のなかほど]に当たります。


 以降の部分もほぼ完成しておりますので、近いうちに更新できると思います。

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