少女の目覚め
基本的に原稿を書き直すことが多いため、完結させてから投稿し始めるタイプなのですが、今回は「もうこのへんは書き直さないだろう」と判断して更新することにしました。
……それでも改稿が発生したら、ごめんなさい( ˘ω˘ ;)
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擦り切れた天井の梁が見えて、少女は身体を起こした。それだけで、全身が軋むようだった。
脚は折れているのかと思うほど痛む。
無理もない。川に流され、坂を転げ落ちながら、あの険しい山道をまる一日逃げてきたのだ。自分に回復魔法を掛け続けていなければ、五体がバラバラになっていただろう。
簡素なベッド。自分のではないチュニック。見たことのない小さな部屋。まるで自分が一瞬にして別人になったような感覚。
これが、ラーライも話していた“転生”というやつだろうか。だとしたら、彼もどこかに……
「お母さん。お姉ちゃんが起きたよ」
ベッドのそばにいた見知らぬ幼い少年が、部屋の外にいるであろう母親を呼んだ。
お姉ちゃん? 私に弟はいない。やはり私は死んで、別世界の別人になったのだろうか。
それにしては、話に聞いた“転生を司る神”とやらに見えた記憶もないが……
「ああ、よかった。ようやくお目覚めね」
三〇歳ほどの女性が戸口をくぐって入ってきた。腹の脹れ具合で、妊娠しているのだと分かる。
手にした木製のマグカップから、湯気に乗って甘い香りが鼻をつく。
「さぁ、まずは一杯。ゆっくり飲んで」
そう言ってマグを少女に渡してきた。
ミルクだ。
唇の先端で触れると、暖かさと柔らかな甘さ、そして爽やかな草の香りが、じんわりと舌に伝わる。蜂蜜、それからハーブとスパイスも少し混ぜているようだ。
思い切って少女は飲んだ。
ゆっくりと、と言われたが、浴びるように喉へと流し込んだ。
カップの端から滴る水滴を名残惜しそうに舐めとり、ようやく顔を下へと戻した。腹の底で蝋燭が灯るように、ボッと身体の芯が熱くなる。
「それだけの元気があるなら、もう大丈夫ね。私はニーダ。こっちは息子のディオム」
少年がはにかんだ笑みを見せ、軽く手を上げて挨拶する。
「それから、今は出かけてるけど、山のなかであなたを見つけてここに運んだ、私の旦那のロッカ」
「ここは?」
「ガウル王都から北に二千カリォ、アンビサール川流域にある、名も無い村、の我が家──の、この子の部屋。あなたの名前は?」
「私は……」
少女は躊躇った。
認めたくなかった──自分がまだ生きていることなど。
「ナフィ……ですッ……うぁ……あああ──ッ!」
名乗るや、少女は大声で泣いた。
認めたくなかった。認めるしかなかった。
これが現実なのだ──愛する者を失った、この世界が。
まだまだ話は動きません(苦笑)
次回は主人公の農夫に視点が映り、世界観などの説明も入ります。そのため、やや長くなるかと思います。
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“(_ _ )
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